Journal Club

Scheduled to start: May 2023


Jounal Club 2023-11.13


The Effect of Long Versus Short Pectoralis Minor Resting Length on Scapular Kinematics in Healthy Individuals (小胸筋の静止長の違いが健常成人の肩甲骨運動に与える影響)

著者:John D. Borstad ,Paul M Ludewig.

雑誌名:Journal of Orthopaedic & Sport Physical Therapy 2005;35(4):227-238.

 

【Introduction】

  肩峰下腔の狭小化は肩峰下インピンジメントを誘発し肩の痛みに関与する。正常な肩挙上運動における肩甲骨運動は後傾・上方回旋であるが、イピジメント症候群を有する患者はその運動が減少していることが報告されている。身体運動学で考えると小胸筋は肩甲骨の前傾・下方回旋・内旋に作用するため、短縮が存在する場合、インピンジメント発症に関与する可能性がある。そこで、本研究の目的は小胸筋短縮指標(PMI)を使用し、Short群とLong群の2群間における上肢挙上運動中の肩甲骨運動を比較することとした。仮説は小胸筋Short群の方が上肢挙上運動中の肩甲骨の後傾・外旋が減少するとした。

【Method】

PMIpilot6名の被験者にて第4肋骨から烏口突起の平均安静時長(14.1±0.8cm)を測定し、身長にて基準化したPMI(8.1±0.5)を算出した。本研究におけるカットポイントはpilotにおける平均±1SDとした(Short群:7.65≧、Long群:8.61≦)。被験者Short群25名、Long群25名(各25名となるために合計82名の被験者をサンプリング)とした。取り込み基準は20-40歳、肩外傷や疾患の既往がない、完全挙上可能、インピンジメントテスト陰性、肩甲上腕関節不安定テスト陰性、動揺テスト陰性であることとした。使用機器mini BIRDセンサーを搭載したFlock of Birds電磁モーションキャプチャーシステムを使用した。サンプリング周波数は100Hzとした。測定手順初めに、mini BIRDセンサーを両面テープで肩甲骨・胸骨に装着した。また、熱可塑性カフにセンサーをつけ上腕骨に固定した。上肢下垂位にて安静時データを1秒間測定した。その後、矢状面、肩甲骨面、前額面、3方向の上肢挙上運動を行わせた。各運動は4秒間で行い、5回繰り返した。統計解析・上肢挙上角度(30°、60°、90°、120)とPMI(Short群、Long群)の混合計画における2元配置分散分析を行った。

【Results】

Short群は女性、Longは男性で有意に多かった。

肩甲骨後傾運動は全ての挙上面にて交互作用を認め、90°と120°においてShort群の肩甲骨後傾が有意に小さかった。肩甲骨内旋運動は矢状面と肩甲平面にて主効果を認め、Short群の肩甲骨内旋が有意に大きかった。また、前額面では交互作用を認め、30°、60°、90°においてShort群の肩甲骨内旋が有意に大きかった。一方、肩甲骨上方回旋についてはどの群でも有意差を認めなかった。

【Discussion】

PMIが低値であると、上肢挙上運動中の肩甲骨後傾・外旋の減少が示された。肩甲骨後傾の減少は90°、120°で交互作用を認めており、筋長増加による張力発生が前傾方向に誘導する要因となった可能性がある。肩甲骨内旋は前後傾よりもモーメントアームが長く、常に内旋方向に誘導されていた可能性がある。一方で、大きな可動範囲を有する上方回旋に対して、小胸筋のみの短縮では影響が小さい可能性が示された。小胸筋の短縮がある場合、上肢挙上運動中の肩甲骨運動が正常から逸脱することでインピンジメント症候群を招く可能性がある。

 

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【Critical Reading】

 定量的な肩甲骨評価が少ない現状で1つの指標(PMI)として参考になった。しかし、複数の筋肉が付着する肩甲骨のアライメント異常を単独の筋要素にて説明するのは困難である。その他にも、カットポイント決定の方法がpilot6名であることから妥当性検証が不足している可能性がある。その理由として、健常者を対象とした研究であるにも関わらずPMI低値を示す被験者が簡単にサンプリングできている点が挙げられる。

 

担当者:千田悠人


Jounal Club 2023-10.30


Effects of visual feedback with a mirror on balance ability in patients with stroke

鏡による視覚フィードバックが脳卒中患者のバランス能力に及ぼす影響について

Tae-Sung In, Yu-RI Cha, JIn-hwa Jung, KYoung-SIm Jung

J. Phys. Ther. Sci. 28: 181–185, 2016

 

【Introduction】

 バランス障害がある者に対して感覚情報を与えることで、姿勢制御が改善する報告がある。その方法は、モニターを用いて圧中心(COP)の変位を視覚フィードバック(Visual feedback:VFB)として与える方法である。しかし、この方法は高価であるため、家庭での使用には限界がある。そこで、鏡によるVFB(Mirror feedback:MFB)を与えて鏡に映った身体の運動をFB情報として与えることで姿勢制御の改善につながる方法がある。しかし、脳卒中患者を対象としたMFBではMirror Therapyの運動学習効果の有効性が多く報告されているが、MFBが脳卒中患者のバランス能力に及ぼす影響についてはあまり報告されていない。さらに、実験環境として安定した床面での測定が多くされている。そこで本研究の目的は、様々な床面でのMFBが脳卒中患者のバランス能力に及ぼす影響を明らかにする。

【Methods】

[対象者]脳卒中片麻痺患者15名(年齢:54.9±10.9 歳、身長:165.7±8.3 cm、体重:63.7±8 kg)を対象とした(表1)。[取り込み基準]初発の片麻痺、安定した場所で1分間立位保持ができる、視覚及び前庭障害がない、簡単な口頭指示が理解できそれに従うことができる者を対象とした。[条件]視覚条件(開眼、閉眼、MFB)と床面条件(安定、不安定)であった。[視覚条件]開眼では、前方1mの壁を被験者の目線の高さで注視させた。MFBでは、被験者の前方1mの壁に設置された鏡に自身が映るようにした。[床面条件]不安定な床面では、被験者がバランスパット上で立位姿勢を保持した。[手順]両足を8.4inchに開き、床反力計の上で立位姿勢を保持する。その際、できるだけ静かにその姿勢を保持し、両腕を体の横に垂らすように指示した。各条件、30秒間を3試行実施し、ランダムで実施した。また、各条件で足部位置を一定にさせるためにマークした。[実験機器]床反力計のサンプリング周波数は50Hz、12Hzのローパスフィルターを実施した。[統計解析]各条件のバランス能力を比較するために、反復測定による一元配置分散分析を実施した。事後検定は最小有意差検定を実施した。有意水準は0.05とした。

【Result】

安定した床面条件では、閉眼条件で前後及び左右方向のCOP 距離とCOP速度が他の条件よりも有意に増加した。一方、開眼条件とMFB条件で前後及び左右方向のCOP 距離とCOP速度に有意な差がなかった(表2)。

不安定な床面条件では、MFB条件で開眼条件及び閉眼条件よりも左右方向のCOP距離とCOP速度が有意に小さくなった(表3)。

【Discussion】

 本研究では、不安定な床面条件でMFBを与えることで開眼条件と閉眼条件よりも左右方向のCOP距離とCOP速度が有意に小さくなり、左右方向のCOP距離とCOP速度に有意な改善を認めた。この理由としては、左右方向への動揺は身体の中心線から外れたということが認識しやすいと考えらえる。

 

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【Critical Reading】

 本研究の結果では、左右方向のCOP距離及びCOP速度に統計学的な有意差が認められ、前後方向には有意差を認めなかった。しかし、前後方向のCOP距離及びCOP速度の実測値が左右方向と同様に減少しているから、前後方向も姿勢制御に関与している可能性がある。そのため、姿勢制御に関する詳細な解析が必要であると考えられる。

 

担当:幾島 健太


Jounal Club 2023-07.24


Central Programming of Postural Movements: Adaptation to Altered Support-Surface Configurations 

(姿勢運動の中枢プログラム-変化する支持面への適応-)

F.B.Horak ,L.M.Nashner.

Journal of Neurophysiology ,Vol.55,No.6,June 1986,Printed in U.S.A.

 

【Introduction】

姿勢制御に関する先行研究は、固定された環境条件下でのみ行われてきた。その為、環境条件が変化した際にどのような戦略が用いられるのかは不明である。そこで、本研究の目的は立位(矢状面上)で、支持面の形状を変化させた際に用いられる戦略について明らかにする事である。仮説は、支持面が変わった直後は、変更後の支持面に対応する戦略に加えて、変更前の支持面に対応する戦略も継続して用いられる。

【Method】

被験者は20~40歳の健常者10名(男性6名、女性4名)。運動課題は、前後に揺れる床反力計(前後径の異なる)の上での立位保持である。揺れは、13cm/secの速さで250msecの間の揺れを1回とし、支持面は、足の長さよりも長いnormal面と9cmのshort面を使用した。具体的な課題の流れはnormal面で前方又は後方への揺れを20回、short面で同様の揺れを20回、normal面で同様の揺れを安定するまで行うのを1セットとした。前方と後方それぞれの方向への揺れを行う為、計2セット実施した。測定機器は、床反力計以外にビデオカメラと筋電図を使用した。ビデオカメラでは、各体節に貼付した反射マーカー(第5中足骨頭、外果、大腿骨外側上顆、大転子、上腕骨外側面)の位置変化を記録した。筋電図は、内側腓腹筋(Gas)、前脛骨筋(Tib)、ハムストリングス(Ham)、大腿四頭筋(Quad)、腸骨稜レベルの傍脊柱筋(Para)、臍レベルの腹直筋(Abd)に貼付し筋活動を記録した。また、基準(揺れが起きる前の100msec間の平均)から最初に逸脱した点を活動開始点とし、各筋における筋活動遅延時間を算出した。遅延時間については、Studentのt検定を行った(有意水準0.025)。

【Results】 

 習熟するにつれて、normal面では足関節戦略、short面では股関節戦略が用いられた。図1は、足関節戦略と股関節戦略時の床反力前後成分(水平剪断力)と足関節トルク変化が示されている。足関節戦略では足関節トルクを、股関節戦略では水平剪断力を大きく発揮し姿勢制御を行っているのが分かる。図2では各戦略時の筋活動が、表1では各戦略時の筋活動遅延時間(20回うち後半10回のmean±sd)がまとめられている。図2からは、身体が前方(後方)に揺れ足関節戦略が用いられた場合は、Ga(Tib)、Ham(Quad)、Para(Abd)の遠位~近位の順で同側の筋活動開始されるのが分かる。一方、股関節戦略の場合は、Abd(Para)、Quad(Ham)の順で近位~遠位の順で同側の筋活動開始されるのが分かる。また、どちらの戦略においても、各筋活動遅延時間は有意な差を認めている(p<0.025)。図5では、支持面変更後の筋活動パターンの変化が示されている。支持面がnormal面→short面へ変更された場合、最初は股関節戦略よりも足関節戦略時の筋成分が速く活動を開始していた。しかし、試行を重ねるごとに足関節戦略時の筋成分の潜時が長くなる、かつ消失していくのに対して、股関節戦略時の筋成分の潜時が短くなった。つまり、徐々に混合戦略から純粋な股関節戦略へと変化したという事だ。short面からnormal面へ変更された場合は、この逆の事が起こった。

【Discussion】

足関節戦略は広く安定した支持面かつ、支持基底面内のCOP調節のみで姿勢制御が可能な場合に使用され、股関節戦略は硬い支持面の場合に使用されると考えられる。どちらの戦略でも姿勢制御が困難な場合は、ステップ戦略が用いられる可能性がある。支持面が変更されると徐々に戦略の移行が起こった事から、姿勢制御ではFW情報とFB情報どちらの影響も受けると考えられる。

 

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【Critical Reading】 

日常生活において、静的姿勢を保持する中で支持面が急に変更される事は中々考えにくく、歩行等の動作中であれば想定できる。本論文では、あくまで静的姿勢保持の際の変化を調べている為、この結果が動的な姿勢保持に完全に当てはまるとは言い切れない。また、各戦略における筋活動遅延時間に有意な差を認めたとあるが、個々の被験者でのバラつきが大きく、殆ど差がない人もいた。その為、そのようなバラつきが生まれるのには、どのような要因があるのかを検討する必要がある。しかしながら、本研究は環境条件を変化させた際の姿勢製制御戦略を調べた有益な研究である。

 

担当:佐藤大生


Jounal Club 2023-07.03


Electromyographic Active in the Immobilized Shoulder Girdle Musculature During Scapulothoracic Exercises

肩甲胸郭運動中における肩甲骨周囲筋の筋電図活動

著者:Jay Smimth,  L.Dahm,  Kenton R.Kaufman.

雑誌名:Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 2006;87(7):923-927.

 

【Introduction】

肩関節損傷や手術後には患部の回復を阻害しないよう肩関節固定が一般的に選択される。しかし、固定による不動は肩関節周囲筋の筋力や神経筋活動の低下を招くため、廃用予防の運動処方が必要となる。一方で、損傷組織の過活動は回復過程の阻害となるため安全に行える範囲内に留める必要がある。これまで、固定側の肩甲胸郭運動を行った際の筋電図学的活動を報告した先行研究は存在しておらず、どの程度の運動が安全に行えるかは不明であった。そこで、本研究の目的は肩固定下で行う肩甲胸郭関節運動の筋電図学的分析にて定量的なデータを明らかにすることとした。本研究は肩固定期間中の早期肩関節リハビリテーション実施について重要な臨床的意義を持つと考える。

【Method】

被験者24~32歳の健康な右利きの男性5名とした。筋電図細線電極にて、棘上筋(SS)・棘下筋(IS)・肩甲下筋上部線維(USSC)を測定した。また、表面筋電図にて、三角筋前部線維(AD)・三角筋中部線維(MD)・三角筋後部線維(PD)・僧帽筋上部線維(UT)・僧帽筋中部線維(MT)・僧帽筋後部線維(LT)・前鋸筋(SA)・上腕二頭筋(BB)を測定した。測定データは2000Hzでサンプリングし、20~1000Hzのバンドパスフィルターで処理した。各筋の筋電図活動は最大等尺性収縮(MVC)から基準化し%MVCにて算出した。また、各筋の筋電図は各運動条件におけるピーク1秒の値を算出し、5名の被験者で平均化した。肩甲骨運動・①反時計回り②時計回り③下制④挙上⑤屈曲⑥伸展の6つの運動条件を設けた。運動は最大運動範囲を滑らかに10回実施させ、順序はランダムとした。各運動の間に5分間の休息を設けた。

【Results】

MD・PD・IS・BBはすべての運動で20%MVC以下だったまた、ADは28%MVC(反時計回り)と26%MVC(時計回り)を除き20%MVC以下だった。USSCはすべての活動で高く40%MVC(下制)〜63%MVC(時計回り)だった。SAは18%MVC(挙上)〜47%MVC(下制)だった。SSは13%MVC(下制)〜53%MVC(時計回り)だった。僧帽筋はMTの16%MVC(下制)〜UTの91%MVC(時計回り)だった。

【Discussion】

屈曲及び下制運動は腱板筋群にて活動が小さく、損傷後も安全に行える運動であることが明らかになった。一方で時計回しや反時計回し運動はSSにて筋活動が高く、避けるべき運動であると考えられた。

BB の活動は全運動で低値を示したことから、SLAP損傷後の肩甲胸郭運動は安全であることが明らかになった。一方で、USSCの活動は全運動で高値を示したことから、肩甲下筋損傷後の肩甲胸郭運動は避けるべきであると考えられた。しかし、この結果は腹部に位置する手部の影響により肩関節内旋運動が伴った可能性がある。そのため、手部を腹部から離した状態にて肩甲胸郭運動を行うことで筋活動を抑制できるかもしれない。

 

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【Critical Reading】

 本研究は肩固定下における肩甲胸郭運動の筋電図学的分析を初めて行った研究である。臨床上のリスク管理や廃用予防の観点から行うべき運動、避けるべき運動を明確に示せている点は非常に意義がある研究と考える。しかし、本条件は運動速度が規定されておらず再現性が担保できない問題点がある。加えて、筋電図学的には速度がピーク値に与える影響は大きく、その点も不十分と考える。そのため、筋電図学的分析を行う場合は運動速度や範囲、負荷量等の条件統制を行う必要があると考える。また、運動と筋電図データの照合を行うことで質的な解釈も可能になると考える。

 

担当者:千田悠人


Jounal Club 2023-06.19


A randomized trial of pre exercise stretching for prevention of lower-limb injury

-下肢傷害に対する運動前ストレッチの効果(ランダム化比較試験)-

著者:RODNEY PETER POPE, ROBERT DALE HERBERT, JOHN DENNIS KIRWAN et al.

雑誌:MEDICINE & SCIENCE IN SPORTS & EXERCISE 2000;32(2):271–277.

 

【Introduction】

ストレッチは傷害リスクを減少できると信じられている。そのため選手は運動前にストレッチを行っている。しかし、実際の根拠は見られない。これまで、運動前のストレッチ効果を検証した研究は、ランダム化比較試験が1件、コホート研究が4件あるが、いずれの報告もストレッチによる効果は認められなかった。しかし、ランダム化比較試験での結果は統計学的検出力が低かったため、必ずしもストレッチの効果が無いことを否定できなかった。そこで、本研究では統計学的検出力を担保し、ランダム化比較試験による運動前のストレッチ効果を検証することとした。

【Method】

対象は研究参加に同意を得たオーストラリア陸軍新兵1538人(17歳-35歳)とした。そのうち、ストレッチ群(19小隊、735名)、コントロール群(20小隊、803名)で無作為に分類した。ストレッチ群は、ウォームアップ時に腓腹筋・ヒラメ筋・ハムストリングス・大腿四頭筋・股関節内転筋・股関節屈筋の6筋に対し、20秒間セルフストレッチを行った。コントロール群はウォームアップのみを行った。他の測定項目として身長・体重・BMI・年齢・20-meter progressive shuttle run test(20mSRT)を記録した。本研究の傷害は「下肢の傷害で被験者が3日以内に徴候や症状が残存し、職務を再開することができないもの」と定義した。さらに、傷害の部位と種類に分類して詳細に記録した。統計解析は生存分析を用いて、傷害の発生率に対するストレッチの効果及び傷害に対する他の変数の予測値を検討した。単変量Cox回帰分析では、ストレッチの効果(全ての傷害、骨傷害、軟部組織)を検討し、多変量Cox回帰分析では20mSRT、年齢、身長、体重、BMI、入隊日とストレッチの効果を検討した。その後、ステップワイズ法にて、傷害リスクを説明する上で有意ではない変数を除去した。

【Result】

訓練プログラム期間中に333件の下肢障害が報告された。そのうち軟部組織性の傷害は214件であった。ストレッチ群では158件、コントロール群では175件の傷害があった。単変量解析の結果、運動前のストレッチは全損傷リスク(ハザード比HR=0.95、95%CI;0.77―1.18)、軟部組織損傷リスク(HR=0.83 95%CI:0.63―1.09)、骨損傷リスク(HR=1.22、95%CI:0.86―1.76)に有意な影響を与えなかった。また、ストレッチ群とコントロール群の障害発生率も有意な差は認められなかった。下肢の傷害リスクを予測する変数として、体力(20mシャトルラン)、年齢、入隊日はすべて有意に関連したものの(p<0.01)、身長、体重、体格指数は有意に関連しなかった。

【Discussion】

本研究の結果から運動前のストレッチは有用な傷害リスク軽減をもたらさないことが示唆された。先行研究は本研究で調査した陸軍新兵よりも傷害のリスクが低いため、ストレッチの価値は、この研究で調査された軍隊の新兵よりも低い可能性がある。また、ストレッチの効果も長く持続していなかった可能性がある。20mSRTスコアと下肢の傷害リスクには、強い関連が示されたが、因果関係であることは証明できなかった。年齢と傷害リスクとの関連は、新兵の年齢が陸軍の入隊基準が限定されていたため、解析に限界があった。入隊時期については、天候、環境条件、入隊者の心理的適性などの交絡変数が考えられるため数年間の調査が必要である。

 

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【Critical Reading】

ストレッチの効果検証に関する統計手法について学ぶことができた。しかし、今回対象としている年齢層が17-35歳であることに加え、傷害の定義も急性のものを主に対象としていることから私の研究内容とは若干異なった方法論であると捉えることができる。今後は、年齢や障害の定義を絞り込んだ報告を探していく必要がある。

 

秋田遥駿


Jounal Club 2023-06.05


Specific kinematics and associated muscle activation in individuals with scapular dyskinesis

肩甲骨運動異常を有する者の運動学と筋活動

著者:Tsun-Shun Huang, Hsiang-Ling, Chien-Ying Huang.

雑誌名:Journal of Shoulder and Elbow Surgery 2015;24(8):1227-1234.

 

【Introduction】

 肩甲骨の位置と動きの変化が異常な状態を肩甲骨運動異常(SD)といい、肩関節疾患との関連性が報告されている。著者らは先行研究にて新たなSDの包括的分類テストの信頼性を報告しているが、その臨床的意義については今後の課題となっていた。特定のSDパターンから治療戦略を決定するためには肩甲骨運動や筋電図(EMG)との関連を明らかにする必要がある。そこで、本研究の目的はSD包括的分類テストとEMGを使用し、肩甲骨運動と関連する筋活動を明らかにすることとした。

【Method】

  被験者片側の肩に疼痛を有する18~50歳までの82名(男性65名、女性17名、年齢22.9±3.3歳)。

除外基準過去1年以内に骨折や手術の既往がある者、過去1ヶ月以内に頸部や上肢に直接的な損傷を負った者、側弯症や神経症、肩甲平面挙上時痛(VAS3以上)がある者とした。

EMG僧帽筋上部線維(UT)は第7頚椎棘突起から肩峰後角を結ぶ線上、中部線維(MT)は第3胸椎棘突起から肩甲棘を結ぶ線上、下部線維は(LT)は第7胸椎棘突起から肩甲棘を結ぶ線上に電極を配置した。また、前鋸筋(SA)は広背筋の前方と大胸筋の後方の位置に電極を配置した。

手順運動課題は肩甲平面上にて上肢挙上下制を行う課題とした。速度は3秒で挙上、3秒で下制とし、メトロノームの音で統制した。運動時、1.4kgまたは2.3kgのダンベルを把持させ実施させた。初めに、SD包括的分類テストのため6施行実施した。その後に、課題遂行中のEMG測定を5施行実施した。最後に、各筋5秒間の最大等尺性収縮(MVC)を3施行測定した。MVCはEMGを基準化するため測定した。

統計解析運動学とsEMGデータの正規性確認としてShapiro-Wilk検定を実施した。正規分布に従った場合、SDの有無と角度要因(運動学、EMG)による二元配置分散分析を行った。多重比較法はBonferroni法を用いた。正規分布に従わなかった場合、Mann-Whitney U 検定にてSD有り群とSD無し群の比較を行った。最後に、有意差を認めなかった場合、効果量を算出し、臨床的差異を判定した。

【Results】

  運動学データは下制相にてSDの有無による主効果を認めた。SDパターンⅠでは肩甲骨の後傾、SDパターンⅡ及びⅠ+Ⅱでは肩甲骨の外旋が有意に小さかった。

EMGデータは下制相にてUT交互作用を、LT及びSTでSDの有無による主効果を認めた。UTではSDパターンⅡの>120°条件で約14%有意に大きい筋活動を示した。LTではSDパターンⅠ+Ⅱ条件で約5%有意に小さい筋活動を示した。SAではSDパターンⅠ+Ⅱ条件で約10%有意に小さい筋活動を示した。また、上記筋において有意差がなくとも効果量>0.5を示した条件も複数認めた。

【Discussion】

本結果より特定のSDパターンに関連する運動学と筋活動の変化が明らかとなった。SD群の特徴として肩甲骨の後傾・外旋の減少、UTの過活動、LT・SAの活動減少が挙げられる。そのため、治療戦略としてパターンⅠ及びⅡの場合、UTの活動抑制、LT・SAの活性化が重要と考えられる。

 

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【Critical Reading】

 今回の研究では運動学的に肩甲骨後傾・外旋の減少が報告された。しかし、肩インピンジメント症候群を有する対象者を扱ったMcClureらの研究では正反対の肩甲骨後傾・外旋の増大が報告されている。そもため、本評価法のSDパターンに分類されないパターンが存在しており、網羅しきれていない欠点がある。上肢挙上課題では肩甲上腕関節の機能低下による肩甲骨代償なのか、肩甲骨自体の機能低下なのか判別しきれない問題があると考える。

 

 

担当者:千田悠人


Jounal Club 2023-05.15


Comprehensive classification test of scapular dyskinesis : A reliability study

肩甲骨運動異常の包括的分類テスト:信頼性研究

著者:Tsun-Shun Huang, Han-Yi Huang, Tyng-Guey Wang 

雑誌名:Manual Therapy 2015;20:427-432.

 

【Introduction】

 肩甲骨は正常な肩関節機能に重要な役割を担っているため、本来の役割を十分に発揮できない場合、肩機能の低下を招く。Kiblerは、肩甲骨の位置と動きの変化が異常な状態を肩甲骨運動異常(以下:SD)と定義し、SDの有無は肩の病態と関係があり臨床的に重要な所見であることを報告した。SD評価の信頼性は、Kiblerらの方法でκ係数0.31-0.42、McClureらの方法で0.48-0.61と低〜中等度の報告がなされている。今回、著者らはこれまで報告されているSD評価の方法を統合(視診+触診+負荷加重)し、新たなSDの包括的分類テストを考案した。本研究の目的は本評価法の信頼性を明らかにすること、上肢挙上相及び下制相のSDパターンを明らかにすることの2つとした。

【Method】

  被験者片側の肩に疼痛を有する18~50歳までの60名(男性45名、女性15名、年齢22.5±2.6歳)。

除外基準過去1年以内に骨折や手術の既往がある者、過去1ヶ月以内に頸部や上肢に直接的な損傷を負った者、側湾症や神経症、肩甲平面挙上時痛(VAS3以上)がある者とした。

SD包括的分類テスト本評価は、上肢挙上下制運動中の肩甲骨運動を視診+触診にて評価した。また、負荷加重を加えており、1.4kgまたは2.3kgのダンベルを把持させた。上肢運動は3秒で挙上、3秒で下制の速度に統制した。触診は母指で内側縁、2~5指で肩甲棘を触知した。被験者は合計12施行の上肢運動を実施した。触診の関係上、課題の奇数回目を検者1が、偶数回目を検者2が評価した。検者は6施行評価を行い、3施行以上確認できたPatternを選択した。

PatternⅠ:肩甲骨下角の突出

PatternⅡ:肩甲骨内側縁の突出

PatternⅢ:肩甲骨上縁の隆起(肩甲骨挙上の早期出現、肩甲骨上方回旋の不足)

PatternⅣ:正常(安静時位置・動的運動時に異常ない状態)

  Mixed Pattern:異常Patternの混合タイプ(①Ⅰ+Ⅱ、②Ⅱ+Ⅲ、③Ⅰ+Ⅳ、④Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ)

統計解析2名の検者の一致率とκ係数を算出し、被験者間信頼性を判定した。

【Results】

  一致率は挙上相で83%(50/60)、下制相で68%(41/60)だった。κ係数は挙上相で0.49、下制相で0.57-0.64だった。

【Discussion】

  本評価法は中等度の信頼性を有することが明らかとなった。この信頼性は評価尺度が近いKiblerらの方法よりも高かった。また、尺度を簡便化したMcClureやTateらと同程度の信頼性を有していた。触診を加えることで信頼性が向上することが明らかとなった。

次に、挙上相と下制相でSDパターンが異なることが明らかとなった。挙上相ではパターンⅢとⅣが多く、下制相ではパターンⅠ・Ⅱ・Ⅳ・MixedⅠ+Ⅱが多かった。下制相の方が出現するSDパターンが多様で信頼性が低くなった。特にⅠ・Ⅱ・MixedⅠ+Ⅱの判別が困難であることが明らかとなった。

 

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【Critical Reading】

 本研究は既存のSD評価法を統合し、1つの包括的テストとして位置付けた興味深い研究であった。しかし、SDを有することは肩甲帯機能低下故なのか、肩甲上腕関節の機能低下に対しての補償なのかは本評価だけでは説明できないと考える。また、パターン区別ができても上肢挙上・下制時における肩甲骨の状態が客観的尺度として説明できるだけで、治療選定までは結びついておらず、今後の課題である。

 

 

担当者:千田悠人


Jounal Club 2023-05.08


Medial-lateral and anterior-posterior motor responses associated with center of pressure changes in quiet standing(静止立位における前後方向、左右方向のCOP変化)

David A. Winter , Francois Prince , Corrie Powell .

Neuroscience research communications,Vol.12No.3

 

【Introduction】

 静止立位における姿勢制御戦略は先行研究から、前後方向では足関節戦略と股関節戦略が存在することが広く認識されている。しかし、左右方向の姿勢制御戦略は明らかになっていない。そこで、本研究の目的は静止立位における左右方向の姿勢制御戦略を明らかにする事とする。具体的には、以下の2点を明らかにする。1つ目は、足関節による制御が前後・左右方向で同期しているかどうかを明らかにする事。2つ目は、足関節による制御と荷重量調節による制御、それぞれが合成COPの制御にどの程度関わっているかを明らかにする事である。

【Method】

 被験者は10名。運動課題は開眼と閉眼の2条件で1試行ずつ計2試行、左右の足を20cm開いた静止立位を16秒間保持する事。測定機器には2枚の床反力計を用い、サンプリング周波数は250Hz。算出項目は、各COP(左足:COPl・右足:COPr・合成COP:COPnet)、各戦略の合成COPへの寄与分(足関節による制御:COPc・荷重量調節による制御:COPv)とした。データ解析として、COPl×COPr(表1)とCOPc×COPv(表3)の相互相関係数を、COPcとCOPvのRMS(表2)を算出した。

【Results】 

 チャンピオンデータ(WK73の閉眼時の試行)を図1~5に、全被験者の相互相関係数とRMSを表1~3にまとめた。図1は左右の荷重量変化を示しており、一足下肢への荷重が増加すると反対側下肢の荷重が減少するのが分かる。図2.3は前後・左右方向のCOPl・COPr変化を示している。図2から、前後方向では各COPが同期して同位相に変化しているのが分かる(相互相関係数0.877)。図3から、左右方向では各COPは逆位相に変化しているのが分かる(相互相関係数-0.894)。図4.5は前後・左右におけるCOPc・COPv変化を示している。図4から、前後方向ではCOPcとCOPnetが同位相に変化し類似した波形を示しているのが分かる(RMS:COPc0.482・COPv0.008、相互相関係数:COPc×COPv 0.189)。図5から、左右方向ではCOPvとCOPnetが同位相に変化し類似した波形を示しているのが分かる(RMS:COPc0.019・COPv0.179、相互相関係数:COPc×COPv 0.008)。その他の被験者も大半がCOPl・COPrとCOPc・COPvで上記のような相互相関係数やRMSを示した(表1~3)。

【Discussion】

 図2.4と各相互相関係数とRMSの結果から前後方向においては、各足のCOPが協調して同方向へ動き、足関節により合成COPを制御している事がわかった。ここから、前後方向のCOP制御は足関節の底背屈運動によって成されていると考えられる。

 図1.3.5と各相互相関係数とRMSの結果から左右方向においては、各足のCOPが逆方向へ相殺するように動き、荷重量の調節により合成COPを制御している事がわかった。この荷重量の調節は、股関節の内外転により成されていると考えられる。

 

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【Positive Reading】

各制御系の関与を客観的に示す方法が分かった。

【Critical Reading】

本研究は、対象者の情報が記載されていない為、データの解釈が難しいと感じた。また、荷重量調節によるCOP制御を反映するCOPvはあくまでも、COPnetからCOPcを差し引いた余り分の為、荷重量以外にCOP制御方法があった場合は、荷重量調節による制御と断定できないと考える。

 

担当:佐藤大生


Jounal Club 2023-04.24


Nearly 40% of adolescent athletes report anterior knee pain regardless of maturation status,age,sex,or sport played

40%近くの青年アスリートが成熟度・年齢・性別・スポーツに関係なく膝前部痛を訴える

著者:Meaghan Harris ,Suzi Edwards, Ebonie Rio et al.

雑誌名:Physical Therapy in Sport 51 (2021) 29-35

 

【Introduction】

AKPは膝蓋大腿部痛(PFP)や膝蓋腱症(PT)、オズグッド・シュラッター病(OSD)などを包含する疾患の総称である。思春期のアスリートは身体的成長が急速なため、筋骨格系の問題に影響を受けやすい。オーストラリア国内において、様々なスポーツにおけるAKPの有病率を調査した報告は限られている。また、骨格の成熟度とAKPの関係性を調査した報告は見られず、成熟度には個人差があることから各時期で異なる可能性が高い。本研究の目的として、(1)①成熟状態②年齢③スポーツ④性別のAKP有病率を報告すること、(2)調査した項目でAKPの有無を予測することとした。仮説として、①急速な成長時期にAKPの有病率が高いこと②男性に比べて女性の有病率が高いこと③バスケットボール選手の有病率が高く、さらに年齢が上がるにつれて、有病率が高くなることを挙げた。

【Method】

対象は、オーストラリア国内のバスケットボール・フットボール・バレーボール・テニスの各選手(11-15歳)とした。測定項目は①身体計測(身長・体重・座高)、②アンケート調査(既往歴・身体活動時間)、③Single Leg Decline Squat(以下SLDS)、④VISA-P scoreの4つとした。SLDSについては、肩関節・脊柱を壁に付け、痛みにより膝関節60°屈曲位が保持できなくなるまで行った。さらに、痛みが出現した部位について自己申告を行い、VASにて痛みの強さを記入した。VISA-P scoreは、score<80は有症状とし、SLDSで痛みを感じ、VISA-Pが≧80でのものはSLDSによる痛みとした。統計解析は、AKPの有無について、従属変数をAKP有無、独立変数を身長・体重・性別・年齢・成熟度・スポーツとしたロジスティック回帰分析を適用した。さらに、AKPの有無と年齢、成熟度毎で関連があるか知るためにX2検定を行った。

【Result】

本研究の解析対象は217名(男子153名、女子64名)のうち、197名であった。全体のAKPの有病率は39%(76名)となった。VISA-Pスコアの中央値は99、VASの中央値は右下肢3・左下肢2.3となった。スポーツ活動の平均時間は7.9±4.1時間、その他の活動の平均時間は2.0±2.0時間であった。ロジスティック回帰分析の結果、身長・体重・性別・年齢・成熟度・スポーツの変数の中で、AKPの有無に影響を与えるものは無かった。さらに、X2検定の結果、AKP有無に年齢別、成熟度別は、有意な関連は無かった。

【Discussion】

本研究は、①成熟状態②年齢③スポーツ④性別のAKP有病率を報告し、AKPの有無を予測することを目的としていたが、AKPの有無に影響を与える変数は無かった。これまで、バスケットボール以外のAKP有病率を調査した研究は限られていたが、本結果より、AKPはスポーツ全体に共通して見られるものであることが示唆された。性別毎の有病率では、男子が40%、女子が33%となり、これまでの先行研究と比較して高かった。今回は、1人当たりの有病率を算出したことやSLDS・VISA-PをAKPの判断ツールとして使用したことが挙げられる。今回対象とした年齢は11-15歳としており、成熟の初期段階にあたる選手に限定されている。さらに、年齢毎の人数に偏りがあるため、成熟度や年齢とAKPの関係性は明らかにできなかった。

 

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【Critical Thinking】

 最近のAKPの調査報告の現状(2021年)を知ることができた。しかし、SLDSは膝への負荷量が大きく、日常生活の中で痛みがない人でも痛み有りとする可能性がある。また、年齢だけでなく、競技にも偏りがあるため、有病率40%を信頼することには慎重な検討が必要である。

 

担当者:秋田 遥駿