2020...Journal Club


Journal Club 2020 #27-31


Effects of stimulus cueing on the acquisition of groundstrokes by beginning tennis players

(初心者テニスプレーヤーによるグラウンドストロークの習得に対する刺激キューの効果)

Susan G. Ziegler

Journal of Applied behavior analysis. 1987;20(4):405-4113

【Introduction】

 これまでの行動指導に関する研究はコーチからの強化情報によるスキル習得の研究が取り組まれてきた。しかし、パフォーマーによる自己教示をした場合に起こり得る行動の変化は明らかにされていないのが現状である。行動指導に関する研究ではスポーツスキルの習得に焦点を当てることが多く、その多くのスポーツは対象物の位置や環境が常に変化する「オープンスキル」と見なされる。オープンスキルでは、常に変化するため、自己教示できることが重要となる。そこで、本研究では初心者のテニスプレーヤーのスキル習得の効果を決定するために行われた。

【Method】

 [Subject] 19歳から31歳の14名の女性と10名の男性で、そのうち71%は未経験で、残りは5試合以下の初心者であった。また、被験者を3グループにそれぞれランダムに割り付けた。 [Task]テニスのフォアハンドリターン・バックハンドリターンとした。また、観察者がリターンスイングを記録するため、フォア・バックハンドにそれぞれ8つの基準を設けた。[Procedure]被験者は1日60リターン、合計32セッション実施した。各グループのベースラインセッション後、グループAから順に自己教示による介入を開始した。自己教示の内容は、マシンからボールが出るとき、「ball」・コートに着いた時、「bounce」・ラケットにあたる時、「hit」、次のボールの準備として、「ready」とそれぞれ発声するものとした。また、5回の試行ごとにベースラインセッションであれば、「concentration」と声がけし、介入セッションでは「Cue」と声がけした。その他のフィートバックや強化は行わなかった。[Observation and Recording] 2人のアシスタントが、フォア・バックハンドの各リターンでパフォーマンスを記録した。ヒット成功を8つの行動基準が満たされ、相手コートエリアに返すこととし、成功率はヒット成功数をヒット試行数で除して算出した。また、観察者の信頼性についても算出され、観察者間の合意の数を不一致の数で除したものとした。いずれの指標も最後に100を掛け、百分率にて示した。観察者間の平均信頼性スコアは、86%から100%の範囲であった。

【Results】

 平均ヒット成功率について、グループAではベースラインの20%から介入により64%まで増加した。グループBでは21%から64%、グループCでは25%から74%まで増加した。ベースラインセッションでのパフォーマンス改善はわずかであったが、自己教示により、有意な改善を示した。

【Discussion】

 初期のスキル開発に着目することは非常に重要であり、本研究の成果では練習初期にスキル習得を加速させた。また、観察者が「集中」あるいは「Cue」を思い出せたこともスキル習得を加速させた可能性がある。一方、初期のスキルよりもさらに複雑になった激しい競技では対応することが難しい可能性もあり、他のスポーツへの自己教示の一般化も探究されるべきである。

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【Critical Reading】

本研究で採用された課題であるテニスはオープンスキルとして位置付けられているが、サーブはマシンにより配球されているため、ボールの出どころは予測しやすい。また、速度も45〜75 feet/sと速いサーブではないため、比較的変化を予測しやすいオープンスキルであると考えられる。したがって、同じ課題であればサーブの出所をマスクするなど、予測が困難な状況を設定することや、サッカーなどのより複雑な環境変化が生じる課題とした場合の自己教示の有効性を確認する必要があると考える。

 

担当:我妻昂樹

Children’s age modulates the effect of part and whole practice in motor learning

(子どもの年齢が運動学習における部分練習と全体練習の効果に変化を与える)

John S.Y.Chan, Yuejia Luo, Jin H.Yan, Liuyang Cai, Kaiping Peng

Human Movement Science.2015;42;261-272

【Introduction】

 技能習得のための練習方法の研究は、発達と教育学的に重要な意味を持つ。健常成人大学生を対象としたジャグリング課題では、部分練習(以下:PP)よりも全体練習(以下:WP)の方が優れた練習方法として報告された。子供たちの認知能力や運動能力は通常、大人よりも低い。したがって、子どもの技能習得のための最良の練習方法が健常成人と同様であるかは疑問が残る。[目的] ジャグリング課題を用いて、異なる年齢の子どもにおけるWPとPPの学習効果を明らかにすることとした。[仮設] 低学年の子どもの情報処理能力の限界により、同じ運動技能の学習において高学年の子どもよりも大きな認知負荷を受ける可能性がある。そのため低学年の子どもはPPの方が、高学年の子どもはWPがより学習効果が高い。

【Method】

 [対象]小学1年生、3年生、5年生の合計106人の子供たちを対象とした。ジャグリングの課題では白いビーンバック(4×4×4×4cm、約50g)が使用された。[実験デザイン]1日目に3つのビーンバックジャグリングのベースライン評価を10試行実施した。2日目〜7日目にかけては練習期間が設定された。練習は1ブロック10試行を計4ブロック実施した。8日目には、保持テストは3つのビーンバックジャグリングを10試行実施した。さらに、転移テストは、3つのビーンバックを逆方向に投げる課題を10試行実施した。各テスト、練習ともに10試行ごとに、ビーンバックを落とすまでの連続キャッチ回数を記録した。また、ビーンバックを落とした時点でその試行を終了とした。[練習方法] PPでは、2日目と3日目に1つのビーンバックで、4日目と5日目に2つのビーンバックで、6日目と7日目3つのビーンバックでジャグリングが行われた。WPでは2日目から7日目にかけて3つのビーンバックでジャグリングの練習が行われた。[パラメータ・解析手法] 各試行の平均キャッチ数を解析パラメータとして使用した。ベースラインの両群の比較については二元配置分散分析(従属変数:学年レベル×練習方法)を行った。ベースラインと保持テストの比較には混合計画における三元配置分散分析(従属変数:学年レベル×練習方法×時間)用いて実施した。また、転移テストについて二元配置分散分析(従属変数:学年レベル×練習方法)を行った。事後検定には、ボンフェローニ法による多重比較を実施した。

【Results】

ベースラインと保持テストを比較した結果、1年生と3年生はPPのみで、5年生はPPとWP両群で学習効果がみられた。転移テストにおいて、1年生では両群に差がなかった。5年生ではWPがPPよりも優れていたのに対し、3年生はPPがWPよりも優れたパフォーマンスを示した。

【Discussion】

 本実験の結果から、学年の異なる子どもでは、WPとPPの運動学習効果に差がみられ、仮説を支持する結果となった。これは、神経の成熟度、情報処理能力、運動協調性の発達の違いに起因する可能性があることが示唆された。また、技能特性に加えて、学習者の成熟度も、練習方法を選択する上で重要であるというNaylorとBriggsの仮説を補足するものとなった。今後の研究では、ジャグリング以外の運動技能を用いて、全体法・部分法の研究を検討する必要がある。

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【Critical Reading】

 全体法・部分法の研究では、健常成人を対象とした研究報告が多いなか、子供を対象とした数少ない研究の一つである。しかし、本実験では課題の設定上、落下した時点で試行終了となるため練習量は個人でばらついた可能性がある。また、結果から読み取れるように3つのビーンバックジャグリングでは各テストや練習をみても5回以上連続キャッチした被験者はいなかった。このことから、本実験の結果を練習による学習効果として判断するには注意が必要である。加えて、今後、子供を対象とした実験を行う際には課題難易度の設定について検討する必要がある。

 

担当:嶋田剛義

Mechanisms of Anterior Cruciate Ligament Injury in Basketball: Video Analysis of 39 Cases

(バスケットボールにおける前十字靭帯損傷メカニズム:39例のビデオ分析)

Tron Krosshaug, Atsuo Nkamura, Barry P. Boden, Lars Engebretsen, Gerald Smith, James R. Slauterbeck, Timothy E. Hewett and Roald Bahr

Am. J. Sports Med. 2007; 35; 359 originally published online Nov 7, 2006;

【Introduction】

 チームスポーツにおける非接触ACL損傷は多く注目されてきたが、正確なメカニズムは不明なままである。予防を目的とする場合は、関与する生体力学、プレーの状況や選手の行動の観点など、幅広く損傷の状況、性質を調査することが大切である。

 受傷時のビデオ映像は、運動学に関する客観的な情報源である。実験的または検体によるシミュレーションは、正確なデータが得られるが、実場面の情報は得られない。ビデオ分析を使用した以前の研究では、膝伸展位の着地やカットの初期接地(IC)後早期に発生した。また、多く「外反崩れ」、過度な膝外反や内外旋を生じる状況であった。

 本研究の目的は、実際の負傷状況39例から、プレーの状況、プレーの行動、運動学的観点からACL損傷のメカニズムを説明することである。

【Method】

 ビデオアナリストとして、傷害ビデオの視覚的分析に豊富な経験を持つ専門家6名が参加した。ACL損傷状況の39本のビデオが分析された(男性:17名、女性:22名)。ビデオは、全米の高校および大学、全米バスケットボール協会/女子全米バスケットボール協会の試合から提供された。アングルが複数の場合、ICを基準に手動同期し合成ビデオを作成した。受傷者のICが見えない場合、別の選手の足接触を基準とした。ビデオの画質が悪いものは運動学的変数の結果から除外し、プレーの状況分析にのみ使用された。ビデオは、60Hzの有効フレームレートへ処理され、DVまたはDVCPRO50を使用し保存された。例外として4つのビデオは33Hzで作成となった。なお、通常とスローモーション(50%の速度)で構成された。[視覚的分析ポイント]ICから受傷までの時間、プレイヤーの状況(着地や相手との接触など)、運動学的変数(股・膝の関節角度、水平、垂直方向への重心の速度)、外反崩れの有無がアナリストに提示された。解析を補助するツールは使用されなかった。

【Results】

  39例中11例(男性5名、女性6名)に接触があり、男性の4例は膝への直接的な打撃を受けていた。女性は、その他の接触があったとされた。非接触の例は、男性12名、女性15名であった(table1)。女性選手の多くは、受傷前に押されるなど、何らかの外乱が与えられていた。受傷の時期は、IC後17〜50msの範囲であった。膝・股関節の屈曲角度や膝外反角度は、IC後、増大している結果となった(table3、4)。

【Discussion】

 損傷メカニズムとして、着地時の急激な大腿四頭筋により前方へ下腿が引き出されたこと、着地時の外反負荷が伴う場合が考えられた。受傷時期の推定に関して、アナリスト6人は50ms以内に発生すると一致しているが、1人が100ms以上を示しており視覚的分析の困難さを示した。しかし、多くの場合は、IC直後に発生した可能性が高いことを示しており、過去の研究と同様の結果となった。

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【Critical Reading】

 動画のフレームレートから受傷タイミングを評価する方法は、臨床の動作分析に活用できる方法であった。他方、重心の速度に関しては、解析対象となっていたが、具体的な解析方法の記載がなかったため、詳細がわかればより結果を吟味することができると感じた。

 

担当:五十嵐直樹

Accuracy and Reliability of Observational Gait Analysis Data:Judgments of Push-off in Gait After Stroke

(観察的歩行分析の正確性および信頼性について:脳卒中患者における歩行のpush-offの判定)

Jennifer L McGinley , Patricia A Goldie, Kenneth M Greenwood, Sandra J Olney

Phys Ther. 2003;83(2):146-60.

【Introduction】

 歩行分析(OGA)は広く用いられており、研究が多数行われているが、その正確性や妥当性を保証しているエビデンスは少ない。歩行機能と関連すると言われている立脚後期のpush-offにおける分析においても研究が行われているが、その信頼性は低いとされ、実験手法や統計学的手法にも問題点が挙げられる。本研究の目的は先行研究を踏まえ、脳卒中後患者のpush-offの分析における信頼性や妥当性について明らかにすること。

【Methods】

 [評価者]評価者は18人の理学療法士とした。本実験では臨床経験年数によって群分けをし、経験年数5年未満の者は非熟練群(平均経験年数:2.8年)に、経験年数が5年以上の者は熟練者群(平均経験年数:8.3年)に分けた。[分析対象]分析対象は脳卒中片麻痺患者であり、男性7名、女性4名の計11名とした。[装置・手順]分析対象者の歩行データは、分析対象者が快適な歩行速度で9mの歩行路を歩いたデータを用いた。片麻痺患者には反射マーカーを取り付け、矢状面から50Hzの高速カメラを撮影した。床反力データは、床反力計から測定した。測定データは、Butterworth recursive filter処理を実施した。評価者は、測定前に通常の足関節についての運動学的・運動力学的説明やpush-offについての説明を15分間受けた。各評価者は、ビデオテープより分析対象者の歩行を評価し、その際に映像の停止、繰り返し、スロー再生は認めなかった。測定は、4週間の間隔を設けて計2回実施した。[評価尺度]本実験では、push-offが見られない場合を0点、その上限を21点、通常のpush-offを11点とし、0から21点の比率尺度を用いて歩行映像におけるpush-offの値を評価させた。[データ解析・統計解析]評価者の正確性を検討するため、実測値との相関をピアソンの積率相関係数を用いた。また、評価尺度の正確性について検討するため、各評価者の相関係数における標準誤差を用いた。加えて、push-offにおける評価者内信頼性および評価者間信頼性を検討するため、級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)を用いた。

【Results】

 各評価者が推測した値と実測値との間については、0.69から0.91の相関を示し、その平均値は0.84であり強い相関が見られた。各評価者の推測値における標準誤差については、0.38から0.67W/kgの値を示し、平均値は0.51であった。評価者間信頼性は0.79、評価者内信頼性は089であった。臨床経験おける正確性および評価者内信頼性の関係性においては、違いが認められなかった。

【Discussion】

 本研究における正確性や信頼性を示す指標は、先行研究よりも高い値を示した。その理由として、これまで複数の評価変数を扱った先行研究とは異なり、本研究がpush-offのみの単一の評価変数を使用したことが高い正確性や信頼性に寄与したと示唆された。また、臨床経験年数の違いによって、分析の信頼性に差が認められなかった点については、本研究が単一の評価変数のみを扱ったことが影響していることが挙げられた。これまで複数の評価変数を用いていた先行研究の結果を踏まえると、評価変数の増大により経験年数の差による違いが現れることが示唆された。

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【Critical Reading】

 本研究はpusu-off時における床反力について、床反力計による実測値と観察による推定値の誤差を検討しており、観察者が床反力を正確に推測可能かについて着目していた。しかし、psuh-offは歩行速度と相関があると報告されていることから、床反力の発生量は歩行速度から推測が可能であることが考えられ、実際に観察者が直接的に床反力を認識していたかどうかは定かではないと捉える。

 

担当:松坂大毅

Gaze Behavior of Gymnastics Judges: Where Do Experienced Judges and Gymnasts Look While Judging?

(体操競技審判員における視線行動:経験豊富な審判員と体操選手はどこを見ているか?)

Alexandra Pizzera , Carsten Möller , Henning Plessner  

Res Q Exerc Sport. 2018;89(1):112-119.

【Introduction】

 近年、体操競技など技術の質的側面を判定する際の意思決定過程について、視線行動の観点から明らかにする試みがなされている。これまでの先行研究にて、判定者がその競技を遂行可能である場合、より正確に判定することができるとの報告がある。しかし、この点に関して未だ詳細なメカニズムは明らかになっていない。本研究では、審判免許レベルの違いおよび判定する競技経験の有無(specific motor experience:SME)により視線行動がどのように異なるかを明らかにすることを目的とした。

【Methods】

 [被験者]被験者は35人の女性審判員。本実験では判定課題であるハンドスプリングが遂行可能な者をSME有、不可能な者を SME無群とした。さらに、審判免許レベルにおいても群分けされ、国際免許レベルがAからCの者をhigh-level judges群(HLJ群)、レベルDの者をlow-level judges(LLJ群)とした。[ビデオ映像]被験者には、体操選手が行うハンドスプリングをFederation Internationale de Gymnastique(FIG)基準に準じてビデオ映像から判定するように指示した。映像は、7人の体操選手がハンドスプリングを3回ずつ行い、計21回からなる映像とした。さらにその映像を熟練した3人の審判員に判定させ、参照スコアを設定した。[視線追跡装置]Tobii TX300を使用し、各被験者の視線行動を記録した。[手順]はじめに、被験者に対して審判経験、一般的な運動経験、SMEについてのアンケートを実施した。アンケート終了後、被験者をモニターの前に座らせ、FIG基準に従って判定するように指示した。判定する機会は一回のみとした。[データ解析・統計解析]データ解析として、判定の正確性について各被験者の判定スコアと参照スコアとの誤差を算出した。視線データは、視線追跡装置から運動の相ごとに解析し、映像観察中に視線を向けていた位置を算出した。また、注視数および注視時間についても算出した。統計解析として、審判免許レベルおよびSMEの有無の違いにおける注視数、注視時間について検討するため、一元配置分散分析を用いた。さらに、判定の正確性についても検討するため、Mann-Whitney-U検定を用いた。

【Results】

 審判免許レベルの違いの比較では、注視数についてHLJの方がLLJよりも有意に高い値を示したが、注視時間については有意な差が認められなかった。SME有無の違いにおける比較では、SME有群がSME無群よりも有意に注視数および注視時間にて高い値を示した。さらに注視領域について、HHJはLLJに比べ上肢を注視していたのに対し、SME有群はSME無群に比べ下肢を注視していた。

【Discussion】

 HLJ群の方がLLJ群より上肢を注視していた理由として、パフォーマンス成功の判断をする上で上肢が良い指標となるため、HLJ群がより上肢へ視線を向けていたことが示唆された。また、HLJ群は上肢をより注視していたのに対し、MSE有群は下肢を注視しており、注視領域が異なっていた。そのため、優れた技術を有する審判および体操競技者によって判定時の戦略が異なることが示唆された。

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【Critical Reading】

 本実験では免許レベルの違いにおける視線行動に着目し、その結果、高いレベルを有する者が判定時に上肢をより注視していた。この結果から、筆者らは上肢への注視を促すことで判定技能が向上すると示唆した。しかし、他の先行研究では視線が誘導されることで判定時のパフォーマンスをが低下すること(Savelsbergh et al.2002)や、「見ていること」と「情報を得ていること」は必ずしも一定しないということ(田中,2003)、熟練者の視線行動が判定技能と関連していることは未だ証明されていないことなどから、一概に視線の誘導が判定時のパフォーマンスに結びつくとは言い難いと考える。

 

担当:松坂大毅


Journal Club 2020 #26−2020.08.03


Visual behaviour of tennis coaches in a court and video-based conditions.

(コート上条件とビデオ視聴条件におけるテニスコーチの視線行動の分析)

Francisco Javier Moreno Hernandez, Francisco Avila Romero, Vicente Luis del 

International Journal of Sport Science. 2006;5(2):28-41.

DOI: 10.5232/ricyde2006.00503

【Introduction】

 これまで、視覚システムが情報を獲得するのに最も有益な方法であることが報告されている。Mcleodらは、視覚について、対象とする動きや環境の特徴を最も正確に知覚するものであると報告している。また、視覚システムには注視や注意が関与しており、これらはトレーニングによって培われた知識が影響していることが示唆されている。本研究の目的は、レベルの異なるテニスコーチを対象とし、視線行動における観察条件による影響を明らかにすることとした。

【Methods】

 [分析対象]評価者は10人のスペイン人コーチであった。本実験ではコーチの経験年数で群分けがなされ、高い国際レベルでの経験を8年以上有している者を熟練群、国際インストラクターレベルでの経験が4年未満の者を未熟練群とした。分析対象は、3人のテニスプレーヤーによるトップスピンサーブであった。[測定手段視線追跡装置を用いて視線データを測定した。視線データは、1s間あたり50フレームにて視線の動きを分析した。[注視点] 注視場所は、以下4つの領域に分けて分析した。Enhanced ball (EBA):ボールを持つ側の肩関節、前腕部、手部、ボールの領域。Enhanced perform(EPA):ラケットを持つ側の肩関節、前腕部、手部、ラケットの領域。Upper body(UB):体幹および左右の上肢の領域。Lower body(LB):股関節、下腿、足部の領域。[パラメータ 注視回数と注視時間をパラメータとして採用した。本研究では、空間位置において視線が60ms以上保たれた場合を注視とした。[手順]本研究は、3つの手続きから実施した。まず、評価者に対し、サーブの様子を撮影したビデオ映像を視聴させて分析を実施させた(二次元条件)。次に、実際にサーブを行っている様子を分析させ(三次元条件)、最後に、もう一度、ビデオ映像を分析させた(二次元条件)。観察内容は、テニスプレイヤーが行った10回のトップスピンサーブであった。測定中は、エラー検出過程を再現するため、評価者にサーブに対するフィードバックを口頭にて行うように要求した。[統計解析]従属変数はEBA,EPA,UB,LBの4領域の注視回数と注視時間、独立変数は視聴条件(二次元or三次元)とコーチの経験レベル(熟練群or未熟練群)とした。統計解析には一元配置分散分析を用いた。

【Results】

 注視回数は、視聴条件に関わらず熟練群が未熟練群よりも少なかった。注視時間は、熟練群が未熟練群よりも長い時間注視をしており、二次元条件の方が三次元条件よりも長く注視していた。注視場所別に見ると、両群ともにUB領域において最も多く注視をしており、かつ長い時間注視していた。

【Discussion】

 本研究は、コーチのエラー検出過程における視線行動の特徴を分析することを目的とした。その結果、熟練群・未熟練群ともに、二次元条件において三次元条件よりも長い時間注視していた。これは、Treismanらの報告と一致しており、コーチ達は三次元条件の方が馴染みやすく、迅速にエラーを検出できていた可能性があるためと示唆された。その一方で、アスリートの視線行動の特徴を研究したAbunethyは、本研究やTreismanらの報告とは異なり、三次元条件の方が二次元条件よりも長い時間注視していたことを報告しており、この違いについては未だ明らかにはされていないため今後、さらなる研究が必要である。

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【Critical Reading】

 本研究は、テニスコーチの注視を研究対象としていた。視覚での知覚は、注視で知覚する場合と周辺視野で知覚する場合があり、これらは観察対象の大きさや距離などによって変化する可能性がある。本研究では、この点に関する記載はされておらず、実験の再現性や妥当性を担保する上でも記載が必要であると考える。

 

担当:松坂大毅


Journal Club 2020 #25−2020.07.27


Gender Differences in Frontal and Sagittal Plane Biomechanics during Drop Lamding

(着地動作における矢状面および前額面の生体力学の性差について)

 KERNOZEK,T.W., M.R.TORRY,H.VAN HOOF, H.COWLEY,and S.TANNER.

Med. Sci. Sports Exerc.Vol.37,No.6,pp.1003–1012, 2005.

PMID: 15947726

【Introduction】

  運動に起因する前十字靭帯(ACL)の非接触型損傷率は女性の方が高い。また、着地動作はACL損傷率が高い動作の一つである。着地動作時における体の構えとACL損傷の危険因子は密接に関係していると報告されており、これまで主に矢状面上の運動学および運動力学的研究が進められてきた。しかし、コンピュータモデリング研究において前額面の運動である膝関節内外反運動がACL損傷に関与する可能性が示唆されている。このような理論的調査があるにも関わらずパフォーマンス研究はほとんど行われていない。本研究では、着地動作において特に前額面における下肢の制御機構に性差が存在すると仮説を立て、矢状面と前額面の運動学および運動力学データと最大値出現時期について定量的解析を行った。

【Method】

 [対象]屋内スポーツアスリートである男性(年齢:23.6±1.76 歳)と女性(年齢:24.5±2.26 歳)各15名。[測定環境]着地動作を再現するために作成したHang-barにぶら下がらせ、Hang-barの下に設置した床反力計と足部の間の距離が60cmになるよう調整した。そして、動作を三次元動作解析装置で測定した。[課題内容]対象者はHang-barにぶら下がり計8回垂直に着地動作する課題であった。[測定項目]形態計測、床反力、3D座標データを測定した。3D座標データから所要時間、関節可動域、関節角速度を算出した。また、逆動力学解析に基づき関節モーメントを算出した。[統計解析]性別による所要時間と最大床反力、最大関節モーメント発揮時間の比較には対応のないt検定を用いた。性別と各関節(股、膝、足関節)および性別と床反力方向(前後、垂直、左右)を独立変数をとして2×3の反復測定分散分析を行った。従属変数は、足部接地時関節角度、最大関節角度、角度変化量、関節モーメント、前後、垂直、左右の最大床反力とした。事後検定として、Bonferroni法による多重比較検定を用いた。最大膝関節伸展および膝関節内反モーメントの発揮時間をピアソンの積率相関係数にて検討した。

【Results】

 所要時間と着地時関節角度に性差は認められなかった。女性は男性と比較して、着地動作における最大膝外反と最大足関節背屈および足部回内の角度変化量が大きかった。女性は男性よりも垂直および前後方向の最大床反力が大きく、膝内反モーメントが小さかった。最大膝関節伸展および最大膝外反モーメントの発揮時間には中等度の相関が認められた。最大膝外反および最大膝関節伸展モーメントの発揮時間に性差は認められなかった。

【Discussion】 

 Deckerら(2003) によると、女性は男性と比較して足関節でのエネルギー吸収戦略を使用すると報告されている。足関節背屈および足部回内運動を組み合わせることで、足関節でのエネルギー吸収を促進させる可能性が示唆された。また、女性は膝内反モーメントの生成が困難であり、膝を外反位に偏移させながら着地動作を遂行していることが示唆された。最大膝関節伸展および最大膝内反モーメントの発揮時間および膝外反偏移が同時に生じることでACL負荷が高くなる可能性が示唆された。

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【Critical Reading】

 着地動作の研究はいくつか報告されているが、運動学データ、運動力学データ、エネルギー吸収戦略は一致した所見があるとは言えない。今回の角度変化量データは、被験者間においてもばらつきが大きく多様な着地パターンをとりうることが考えられる。[松坂1] このようなばらつきが大きい中での平均値を代表値としているため、逆動力学で算出された関節モーメントにも影響している可能性がある。また、コンピュータモデル研究とパフォーマンス研究の差の要因を検証していく必要がある。

 

担当:北村隼人

EFFECT OF WHOLE VS PART METHOD OF TRAINING ON TRANSFER LEARNING

(全体法と部分法の練習方法による転移効果について)

JOSEPH F. MURRAY.

Perceptual and Motor Skills,1981,53,883-889.

DOI:10.2466/pms.1981.53.3.883

【Introduction】

 1980年代、全体法と部分法の違いによる転移への影響に関する研究が注目されてきた。転移は大きく2つに分類されており、1つは課題間転移で、ある課題から別の課題への転移を指す。もう1つは課題内転移で、課題の一部から課題全体への転移を指す。全体法・部分法の選択方法は依然として曖昧なままであるが、いくつかの先行研究は、課題の複雑性と課題の種類による分類が選択方法を判別する上で有益であることが報告されている。複雑性から選択をする場合、単純な技能には全体法が、複雑な技能には部分法が適していることが示されている。一方、動作の種類から選択する場合系列課題と連続課題では部分法が、分離課題では全体法が優れていることを示唆している。本研究は実際の指導環境下で行われている転移に対する全体法と部分法の効果を検証することを目的としている。具体的には、柔道の受け身指導における全体法および部分法による練習が、総合的な柔道技術、知識、受け身、競技能力への転移に及ぼす影響を検証することである。

【Method】

[被験者]若年男性120名(柔道初心者)を2つのグループ(60名ずつ)に分けた。[課題]柔道の受け身とその他柔道技術の練習を行い、試合に応用することとした。[練習方法]グループ1(部分法):受け身は、座位、しゃがみ位、立位の順に行い、3つの体勢から後方、右側、左側への受け身が続いた。その後、前回り受け身に移行した。また、投げ技などに関してもいくつかの要素に分割して練習した。グループ2(全体法):受け身や投げを分割することなく練習した。実際に各投げ技を行う中での一部分として受け身の練習が実施された。[デザイン]16週間で練習とテストを行った。各クラス同じ指導者の下で1日45分、週2日練習した。テストは16週目に行い1日目に10種類の投げと10種類の受け身のテスト、2日目に競技能力(乱取り)のテスト、3日目に筆記試験を実施した。筆記試験以外の評価は2名のプロ柔道指導者の主観的評価で行った。[統計解析]ネスト型デザインによる多変量分散分析と単変量解析F.検定による統計解析を行った。

【Result】

 多変量分散分析の結果、グループの主効果のみ認められた。F.検定による事後検定の結果、受け身と競技能力に関してグループ間で有意な差を認め、グループ1(部分法)は受け身において有意に優れていた。グループ2(全体法)については競技能力において有意に優れていた。総合的技術と知識に関してグループ間に有意差は認められなかった。

【Discussion】

 今回の結果を解釈する上で、柔道の受け身が分離課題、系列課題、連続課題のどれに分類されるかが重要となる。受け身を系列課題と考えるならば、受け身という技能全体が連続的に行われる部分を含んでいることから、部分法が系列課題への転移に優れていることが示唆される。しかし、完全に学習した後の受け身技術を分離的課題と考えれば、全体法の方が分離課題への転移に優れていることが示唆される。

また、今回の結果は、グループ1(部分法)では受け身の評価で(単純な部分から複雑な全体へ)、グループ2(全体法)では競技能力の評価で(全体法からより複雑なコンテストへ)有意な転移効果がみられた。このことから単純なものから複雑なものへの順番で教えた時に優れた転移効果があると考えられる。

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【Critical Reading】

 本論文は実践場面での全体法と部分法の数少ない研究であり、実践レベルまで評価が行われている。全体法・部分法を理学療法場面に応用することを考えると、本論文のような実践場面で行われる全体法・部分法の研究は今後も積み重ねていく必要があると感じた。一方でこの実験では、練習回数の規定がなく、投げ技の練習に関しての説明も不十分であったことやプロ柔道指導者の主観的評価の基準も不明瞭であったことから、今回の結果を全体法・部分法の転移効果として判断するのには注意が必要である。

 

担当:嶋田剛義


Journal Club 2020 #24−2020.07.13


A comparison of results of 3-dimensional gait analysis and observational gait analysis in patients with knee osteoarthritis.

(変形性膝関節症患者における三次元歩行分析と観察的歩行分析の比較)

Serkan Tas, Sinem Güneri, Bayram Kaymak, Zafer Erden 

Acta Orthop Traumatol Turc. 2015;49(2):151-9.

PMID: 26012936 DOI: 10.3944/AOTT.2015.14.0158

【Introduction】

 これまで理学療法士が行う歩行分析の信頼性や妥当性を研究した報告は少なく、そのほとんどが中枢神経疾患を対象に実験がされている。また、整形外科疾患を対象とした実験はわずかに報告されているが、これらは妥当性について考慮されていない。本研究の目的は、変形性膝関節症(膝OA)患者に対し、歩行分析の信頼性と妥当性を明らかにし、その妥当性と臨床経験との関連性を明らかにすることであった。

【Method】

 [分析対象] 膝OAによる歩行障害を呈した、男性11名、女性22名の計33名(平均年齢:58.24歳)。膝OAの重症度としては、Kellgren-Lawrence分類においてgrade1が15脚、grade2が30脚、grade3が16脚、grade4が5脚であった。[分析データ 歩行分析における分析データは、6つの三次元動作解析と床反力計(8×4m)によって測定された。また、歩行映像は、矢状面および前額面よりデジタルビデオカメラにて撮影された。 [評価者]臨床経験を有する理学療法士(PT)4名。本実験では臨床経験年数によって群分けがなされ、経験年数10年未満の者はグループ1(非熟練群)に、経験年数が10年以上の者はグループ2(熟練者群)に分けられた。経験年数は、非熟練群が3と6年目であり、熟練群が12と16年目であった。[実験手順]まず、本実験で使用する評価フォーム、動作分析の仕方、歩行特性についてのレクチャーを評価者に対して実施した。本実験は2度動作分析を行う機会が設けられ、2度目は6週の間隔を空けて実施した。動作分析時、ビデオテープのスロー再生や一時停止をすることを許可した。[評価フォーム]評価指標は、歩行中の関節角度(骨盤、股・膝・足関節)と時空間的指標(立脚と遊脚の比率、歩幅、重複歩行距離、歩行率、歩行速度)から構成された。評価尺度は、かなり低下している場合は-2、わずかに低下している場合は-1、正常な場合は0、わずかに増加している場合は1、かなり増加している場合は2の5段階尺度であり、評価フォームに記載してある参考値を基に評価することとした。[統計解析]各群の検者内信頼性および検者間信頼性は, 級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)と二元配置変量モデル(two-way random model)を用いて検討した。また、三次元動作解析装置のデータと動作分析結果との関連性は、スピアマン順位相関係数(Spearman rank correlation coefficient)を用いて検討した。

【Results】

 検者内信頼性は全体的に中等度から高い一致度を示した。検者間信頼性は中等度から低い一致度を示した。三次元動作解析装置で得られた運動学的データと動作分析結果における相関係数は、全体的に中等度から低い相関を示した。非熟練群および熟練群の間に違いは認められなかった。

【Discussion】

 本研究は、これまでに行われた先行研究と比べると低い信頼性を示した。本研究は整形外科疾患を対象としていたが、先行研究は主に中枢神経疾患を対象としており、整形外科疾患よりも歩行障害が観察しやすい可能性が考えられた。また、評価フォームの違いにおいて、本研究の評価フォームは、先行研究で用いられた尺度よりも多い5段階の評価尺度を使用したため、低い信頼性を示したことが示唆された。

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【Critical Reading】

 本実験で使用された5段階の評価フォームは、グレード間の明確な基準が設けられておらず、主観的な要素が測定値に影響を及ぼした可能性が高く、これが被験者間信頼性の低下に影響したと推量された。他の先行研究においても、評価フォームによって実験結果が異なるという考察がなされており、結果に与える影響が大きい。したがって、評価フォームの決定は慎重に進める必要がある。

 

担当:松坂大毅


Journal Club 2020 #23−2020.07.06


Gender differences in lower extremity kinematics, kinetics and energy absorption during landing

(着地動作における下肢運動学・運動力学・エネルギー吸収の性差について)

Michael J. Decker , Michael R. Torry 

Clinical Biomechanics 18 (2003) 662–669

PMID: 12880714 DOI: 10.1016/s0268-0033(03)00090-1

【Introduction】

  女性は男性と比較して運動競技中に非接触型の前十字靭帯(ACL)損傷率が高いといわれている。着地動作はACL損傷率の高い動作の一つであり、女性は足部接地時に膝関節伸展角度を拡大させて動作遂行することが知られている。着地動作時に下肢関節位置および関節角速度を変化させることで負荷を調整することは知られているが、エネルギー吸収戦略における性差に関しては研究されていない。本研究の目的は、垂直落下時における着地動作の運動学的、運動学力的およびエネルギーに性差が存在するかを調査することである。

【Method】

 [対象]屋内スポーツ選手である男性12名(身長:1.8±0.06m,体重:81.8±9.1kg年齢:28.3±3.9 歳)と女性9名(身長:170±0.06 cm,体重60.1±5.6kg,年齢:26.4±4.5歳)。[測定環境]高さ60cmのジャンプ台を作成し、ジャンプ台の下に床反力計を設置した。着地動作を3次元動作解析装置のカメラで撮影した。[課題内容]被験者は胸の前で手を組み、上方に飛ばずに計8回垂直落下する課題であった。[測定項目]形態計測データ、垂直床反力データ、身体の3D座標、関節角度データを測定した。関節角度データから着地動作所要時間、関節可動域、関節角速度を算出した。また、逆動力学解析に基づき関節モーメント、関節パワー、関節仕事量を算出した。[統計解析]性別と各関節(股、膝、足関節)を独立変数として2×3の反復測定分散分析を行った。従属変数は、足部接地時関節角度、角度変化量、最大角速度、最大膝関節伸展モーメント、関節パワー、関節仕事量とした。事後検定としては、Tukey法による多重比較検定を用いた。性別による着地動作所要時間と床反力データの比較には、対応のないt検定を用いた。

【Results】

 着地動作所要時間と最大膝屈曲角度に性差はみられなかった。女性は、男性と比較して着地時に膝関節伸展角度が小さく、足関節底屈角度が大きかった。また、女性は大きな膝関節と足関節の関節可動域と最大角速度は有意に高い値を示した。床反力は二峰性(第一ピーク:F1、第2ピーク:F2)の分布を示し、性差は見られなかった。膝関節最大伸展モーメントは、男性はF1、女性はF2のタイミングで最大値を示した。女性は、男性と比較して膝関節伸展筋と足関節底屈筋の関節パワーと仕事量において高値を示した。仕事量を見ると、エネルギー吸収には男女共に最も膝関節伸展筋が衝撃吸収に寄与するのに対して、2番目に女性は足関節底屈筋、男性は股関節伸展筋が大きい寄与因子であることが明らかになった。

【Discussion】 

 女性の方がより直立位での着地姿勢を示したが、床反力においては性差がみられなかった。これは女性が主に足関節底屈筋を使用する着地戦略を用いることで、男性と同様の床反力パラメータになったと考えられる。女性は膝関節最大伸展モーメントの発揮が遅いため足関節背屈および膝関節屈曲角速度が増加し、足関節背屈および膝関節伸展筋のパワーも増加すると考えられる。直立した姿勢で着地することにより、筋疲労時には大腿四頭筋がより脛骨を前方へ引っ張ることでACLへの負荷を大きくさせることが推測される。それに対して男性の着地戦略は運動連鎖を介して、近位にエネルギーを伝達していると推測される。この結果、非接触型ACL損傷率に性差が生じている可能性がある。

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【Critical Reading】

 エネルギーデータは身長および体重によって基準化されていた。しかし、動作開始時の重心位置に性差があり、エネルギー吸収戦略ならびに動作遂行パターンに影響を及ぼす因子の1つである。そのため、基準化しただけでは動作遂行パターンの性差をとらえられていない可能性が考えられる。

 

担当:北村隼人


Journal Club 2020 #22−2020.06.29


Part and Whole Practice for a Tracking Task: Effects of Task Variables and Amount of Practice

(全体法と部分法の練習課題について:課題の変数と練習量の効果)

R.B.STAMMERS

Perceptual and Motor Skills, 1980,50,203-210.

PMID: 7367171 DOI: 10.2466/pms.1980.50.1.203

【Introduction】

  Naylorの仮説は部分法と全体法の学習について、課題の複雑性と組織化の2つの要素に沿って分類することができると述べた。Naylor &Briggsの仮説は(a)高い組織化の課題では、複雑性が増すにつれて全体法が部分法より効率的である。(b)比較的低い組織化の課題では、課題の複雑性が増すにつれて部分法が全体法よりも優れている(Naylor & Briggs, 1963)としている。また、被験者は練習中、課題における組織化の要素と複雑性の要素のいずれにも重要視しなければならないと述べている。実際の課題においては、高い複雑性と高い組織化の両方が存在する課題が存在しうる可能性があり、その場合には必ずしも全体法が効率的とは限らない。

 [仮説]複雑性と組織化の重要性は学習の過程で変化する可能性があり、学習の初期段階では、複雑性が優先的に重要となり、組織化の要素を学習する前に複雑性の要素を部分法で練習したほうが良いのではないか。(本研究は上記仮説の検証を目的としている。)

【Method】

 [課題と実験装置]本研究では、ジョイスティックとブラウン管(以下CRT)ディスプレイを使った2次元追跡が行われた。CRT上のX軸とY軸の位置を交互に変え、1秒ごとにターゲット位置が変わるもので、複数のターゲットの時分割で構成されているため高組織化の課題と考えた。全体法は2軸で実施し部分法では、1軸ごとに分けて実施した。複雑性はジョイスティックの動きとCRT上を移動する点との関係から2パターン構成され、低複雑性はジョイスティックとCRT上の点に移動する方向が一致していたのに対し、高複雑性は、ジョイスティックの動きとCRT上の点の動きが不一致なものであった。[対象と実験デザイン]12人の被験者が6つの群に分けられた。はじめに1つの全体法群と2つの部分法群に分けられた。部分法群の1つは、2ブロックの部分法(2practice以下2p)の練習後に全体法に移行した純部分法とし、全体法と比較した(part2p vs W)。2つ目は、4ブロックの部分法(4practice以下4p)を練習後、全体法に移行する群とした(part4p vs W)。さらに、これらの3群を高複雑性群と低複雑性群の2レベルに分けた。[実験手順]画面上で「準備完了」が点滅した2秒後に40秒間の追跡(40ターゲット)が開始され、その最後に「試行終了」が点滅した。8秒後に被験者の「スコア」が表示され、さらに7秒後に次の試行が開始された。課題は合計で6ブロック実施した。1ブロック10試行とし試行間に1分間の休憩を設けた。各ブロックの最後には、10回目の試行の平均「スコア」が入力された。また、ブロック間で10分間の休憩が与えた。[データ解析]スコアは被験者のジョイスティックの変位(2つのポテンショメータの動き)をA/D変換器を介してサンプリングしたもので、XとYの位置は50Hzでサンプリングされた。解析のパラメータは、被験者の平均誤差であり、デジタル二乗平均平方根(以下:DRMS)で表された。単位はmmとした。また、2(part2p vs W)×4(4ブロック)×2(高・低複雑性)デザインと2(part4p vs W)×2(2ブロック)×2(高・低複雑性)デザインで多元配置分散分析を行った。

【Result】

 複雑性のレベル間、ブロック間には有意差を認めたが、練習方法の違いでは有意差は認められなかった。しかし、実験の後半におけるpart4pと全体法を比較した場合、練習方法、複雑性およびブロックにおいて主効果を認め、全体法による有益な学習効果を認めた。また、複雑性のレベルとブロックの間には有意な交互作用があった。

【Discussion】

 本研究の課題においては、有意な差は認められなかったものの、部分法よりも全体法の方がパフォーマンスを改善させる傾向にあった。しかし、部分法から全体法へ切り替えるタイミングの違いによって学習効果が異なったことから、部分から全体への切り替えのタイミングに大きく依存している可能性がある。このことは、複雑性と組織化の相対的な重要性が学習の過程で変化する可能性があるという仮説を支持した。part4pと全体法を比較した結果から、高複雑性かつ高組織化の課題においては、全体法で練習する前に、部分法で長時間の練習をすることが、最良のアプローチとは言えない可能性があることが示唆された。この問題についての更なる研究の必要がある。

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【Critical Thinking】

 この研究は、部分法から全体法へ切り替えるタイミングに着目した数少ないデータの一つであり、リハビリテーション場面で治療を展開していく上で重要な視点であると考えられる。結果から、部分から全体への切り替えのタイミングへの依存性を論じているが、part2pとpart4pの比較が行えていないため、その効果は定かではない。また、課題の複雑性や組織化の程度に関する定義については定量化できていない点も課題である。なお、この研究は1980年のものであり、保持テストがない。加えてプレテストも不足している。よって学習効果として捉えるには注意が必要である。

 

担当:嶋田剛義

 


Journal Club 2020 #21−2020.06.15


Reliability of Observational Kinematic Gait Analysis 

(観察による運動学的歩行分析の信頼性)

D E Krebs, J E Edelstein, S Fishman

Phys Ther. 1985 Jul; 65: 1027-33

【Introduction】

 臨床では理学療法介⼊の効果検証をする際に、歩⾏分析が用いられる。これまで歩⾏分析を扱った先⾏研究では、その研究ごとに結果が異なり一定の見解が明らかになっていない。そのため、臨床で歩行分析を用いる場合には、その分析における信頼区間を明らかにする必要がある。本研究の目的としては、複数の統計⼿法を⽤いて、歩⾏分析の評価者内信頼性と評価者間信頼性を明らかにすることであった。

【Method】

 【分析対象】中枢神経疾患により下肢に歩⾏障害を呈した、男⼥ 15 名の⼩児患者(平均年齢:9.7 歳)。【撮影方法】 2 種類のKAFO (レザー製orプラスチック製)が使⽤され、各対象者2種類の歩行映像が撮影された。映像は、⽮状⾯と前額⾯から撮影された映像であった。【評価者】 5 年以上の経験がある理学療法⼠3名。【パイロット研究】本実験に先立ち、パイロット研究が行われ、本実験の分析対象を立脚相のみとすること、評価スケールは3段階評価とすること、対象とする関節運動は下肢のみの動きとすることが決定された。評価基準は、膝関節の屈曲運動を例とした場合、5°から 10°の異常は「著しく障害」、15°より⼤きい異常は「非常に障害」と評価することとした。これらの評価基準はそれぞれ、0,1,2点に置き換えられて計算がなされた。 【実験手順】 本実験は 4 つのセッションから構成された。1stセッションでは、レザー製(6名)とプラスチック製(7名)の装具を履いた各対象者の歩⾏分析を⾏い、約1週間後に行われた2ndセッションにて、各対象者が別の装具を履いた時の歩行映像を分析した。それから 1ヶ⽉後に 3rd,4thセッションが、1st,2ndセッション同様の⼿順で⾏われた。各セッションの歩⾏分析は、繰り返し分析することが許可された。【統計解析】信頼性は, ⼀致度(Agreement)、標準誤差(Standard errors of measurement :SEMs)、ピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlations)、繰り返しのある分散分析(repeated measures ANOVA)、級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)を⽤いて検討された。

【Results】

 一致度では被験者内信頼性において、完全な⼀致を示したのは全体の 69%、1点の不⼀致は 28%、2点の不⼀致は3%であった。評価者間信頼性では、完全な⼀致は67.5%、1 点の不⼀致は 30%、2点の不⼀致は 3%であった。評価者内標準誤差は最⼤誤差範囲の4%、評価者間標準誤差は 15.6%を⽰した。各評価者のセッション間における相関係数は0.60であり、決定係数は0.36であった。分散分析では、⽴脚相×評価者、関節運動×評価者においてのみ有意な差が認められた。一般化可能性における被験者間信頼性は0.73 であった。

【Discussion】

 本実験では全体的に中等度の信頼性しか認められなかったため、歩⾏分析から治療効果の判定をする際は注意して解釈をする必要がある。また、本実験では特に膝の内外反、股関節の内外転・内外旋で低い相関を⽰した。実験全体を通して、前額⾯や⽔平⾯の動きよりも⽮状⾯の動きにおいて高い信頼性が認められ、分析する動きの運動軸が信頼性に影響を及ぼしていることが示唆された。特に矢状面に関しては観察者の視軸と運動の回転軸が同⼀線上にあるため、観察が容易になる可能性があると示唆された。

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【Critical Reading】

 本実験使用しているICCは本来比率尺度のデータで使用されるべき分析手法である。しかし、本実験では順序尺度データを測定しているため、κ係数の使用が適切であると考える。また、本実験では正常歩行からの逸脱を評価しているが、分析対象の運動学データが測定されていないため、κ係数を使用して信頼性を検証できたとしても、妥当性の検証ができないと考える。

 

担当:松坂大毅


Journal Club 2020 #20−2020.05.25


Breaking It Down Is Better:Haptic Decomposition of Complex Movements Aids in Robot-Assisted Motor Learning

(複雑な動きを分解し行うことは効果的がある:ロボットアシスト運動学習における複雑な動きを補助する触覚的分解)

Julius Klein Steven J. Spencer, David J. Reinkensmeyer 

Trans Neural Syst Rehabil Eng. 2012 May;20(3): 268–275.

doi:10.1109/TNSRE.2012.2195202.

【Introduction】 

 近年、トレーニング用ロボットの開発が進み、触覚的デモンストレーションによる複雑な腕の動きのアシストをすることが可能になった。しかし、装置からの触覚入力によって複雑な四肢の動きの最適な訓練方法は十分に理解されていないのが現状である。トレーニング用ロボットを使用した運動学習について、Kahnらは装置による触覚的ガイダンスで学習効果が低下したと報告しているが、一方Feyginらは有益であったと報告している。また、リハビリテーション場面では、時に触覚的ガイダンスを使用して、複雑な動きを構成要素に分解し、学習する戦略が取られる。これを運動学習分野では「部分から全体への転移」としている。しかし、この複雑な動きに対する「部分から全体への転移」の研究も曖昧なものが多い。本実験の目的は、ロボットによる触覚的ガイダンスを使用した複雑な動きを分解し学習することの効果を検証することであった。本実験は、運動自由度(DOF)を少なくした練習(部分法)の方が、運動全体(全体法)を練習するよりも効果的に学習できるとした。さらに、運動全体を個々の関節運動に分ける際、その分け方が学習効果に影響を与えると仮定した。

【Methods】

 【Task】被験者は、自由度4のアーム装置を使用したメインモーション(θ)と呼ばれる複雑な上肢運動を学習課題とした。θは、肩関節外転-内転(θ1)、屈曲-伸展(θ2)、内旋-外旋(θ3)、肘関節の屈曲-伸展(θ4)で構成される協調運動であった。θはテニスのバックハンドに類似した運動であり、転移課題として設定されたθ’の課題は水泳のクロールに類似した運動であった。 【Participants】参加者(40名)は、4つのトレーニング群《1.全体法群、2.Eulerトレーニング群(Euler群)、3.解剖学的トレーニング群(解剖学群)、4.ビジュアルトレーニング群(ビジュアル群)》のいずれかにランダムに割り当てられた(各群10名)。 【Procedure】 全体法群はθをはじめから終わりまで通して練習した。オイラー群は4つの構成要素をオイラー座標により分けて練習した。解剖学群は肩関節と肘関節の動きに分けて練習した。ビジュアル群は、課題を前半(θ1,θ2)と後半(θ3,θ4)に分け、それに加えて最適な運動軌道経路を視覚的に提示した。次に実験の手順について、ベースライン、ベースライン転移段階ではアシストありで2回、アシストなしで1回を2セット行った。その後休息を設け、トレーニング段階ではθをアシストありで9回、アシストなしで1回を10セット実施した。休息後、短期保持、短期転移テストではベースライン段階と同様の手順で行い、1週間後、長期保持、長期転移テストを行った。本実験デザインにおけるアシストありの試行には、全被験者に対してフィードバックを与え、モニターに理想運動軌道と実際の運動軌道の両方が表示された。【Data Analysis】 本実験は理想運動軌道と実際の軌道との誤差をスコア化し、PH(平均軌道誤差)で表した。統計解析はグループ間の違いの比較にはMann–Whitney U検定を、各群内のスコア改善の分析にはWilcoxonの符号順位検定が用いた。

【Results】

 トレーニング開始時のPHにおいてグループ間に有意差はなかった。すべてのトレーニング群がトレーニング中にPHを大幅に改善させた。解剖学群はトレーニング中に最も改善した。短期保持テストと 1回目のベースラインテストを比較すると、解剖学群が他のグループと比較して最も改善され、有意差があった。転移課題はトレーニング後、短期保持テスト、初期の長期保持テストにおいて有意な改善を示さなかった。しかし、すべてのグループが、長期保持テストの終了時までにPHが有意に改善した。群間で有意差は見られなかった。

【Discussion】

 解剖学群で有意に効果があったことについて、複雑な動きをする上でその動きの重要となるポイントがどこにあるかを判断するのは難しいが、動きを分解することはより良い識別を可能にし、重要な問題に焦点を当てた練習を可能になることが示唆された。しかし、オイラー群の結果からも見られるように、むやみに要素を分けて行うのが良いというわけではない。人間の運動システムを理解し、運動の要素に含まれる情報を統合し、全体の動きを行うという処理過程を踏まえた上で、動きを分解する必要がある。

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【Critical Reading】

 運動学習における心理学研究の伝統的な測定方法や、全体法・部分法における研究成果のレビューが不足していると感じた。そのため実験環境について不十分な点が多く、特にフィードバックの与え方については頻度が高く、保持テスト・転移テストの結果から見て取れるようにフィードバックに依存していたと推量された。今後は、触覚への介入の運動学習効果を検証できるよう、フォードバックの統制が必要と考える。一方で、本研究では実験デザインで転移課題のベースラインテストを実施しており、その点については今後の実験の参考にしたい。

 

担当:嶋田剛義

A Comparison of the Center of Pressure during Stair Descent in Young and Healthy Elderly Adults

(降段動作時における若年者と高齢者のCOP軌跡の比較)

HYEON-DONG KIM 

J.Phys.Sci. 2009 21(2): 129-134.

doi:https://doi.org/10.1589/jpts.21.129

【Introduction】

 階段昇降は高い身体能力が要求され、高齢者にとって自立が困難な動作の1つである。階段昇降の中でも降段動作においては、階段事故の約4分の3を占めており死亡例も発生していると報告されている。center of motion(COM)の変位と位置は、動作遂行においてcenter of pressure(COP)と密接に関係している。COPはバランスと姿勢調節の指標として使用されており、COMの動きに対する中枢神経処理機構の反応を反映させるといわれている。現在では、階段昇降時におけるCOPとCOMの挙動や COM 変位に関する報告はあるが、加齢に伴う COP 軌跡の変化に関する研究は見受けられない。そこで本研究の目的は、若年者と高齢者における階段降段時の COP 軌跡について調査することである。

【Method】

 【被験者】若年者(平均年齢:23.6±2.4 歳)と高齢者(平均年齢:73.1±4.3 歳)それぞれ 15 名ずつの男女 30 名。取り込み基準は5つであり、Berg Balance scale が 51点以上、ADL評価であるFranchay Instrumental Activities of Daily Livingが51 点以上、Physical Function項目が21 点以上、Mini Mental Status Examinationが 26 点以上、過去12カ月間に転倒歴のない者とした。【測定環境】階段は蹴上17cm、踏み面 28cm、幅 90cm の段差を 3 段作成し、下から1 段目と 2 段目に床反力計を設置した。また、3step 目から長さ 2m、幅 1.22 の歩行路を作成した。【機器】床反力計はサンプリング周波数 1kHz で 30 秒間測定した。【課題内容】被験者に対して、階段の最上段に立ち階段降段を合計 3歩分実施させた。3段分を降段した後には歩行路を歩き続けさせた。聴覚的合図にて左下肢から動作を開始し、一足一段の快適速度にて実施した。【測定項目】COP の Anterior-PosteriorI(A-P)、Medial-Lateral(M-L)変位と COP 速度を測定した。COP 変位は、A-P(または M-L)COP 位置の最大値と最小値の合計距離(cm)と定義した。COP 速度は、足部の中を COP が移動した平均速度(cm/s)と定義した。【統計解析】 若年者群と高齢者群の間でCOP の A-P、M-L 変位及び速度の比較のために対応のない t 検定を用いた。

【Results】

 階段降段時における COP軌道を解析した結果、両足部において A-P 変位と M-L 変位のどちらも高齢者群の方が若年者群より有意に低かった(p<0.01)。また COP の平均速度も高齢者が若年者より有意に低かった(p<0.01)。

【Discussion】 

 本実験では、高齢者は若年者と比較して足部の COP 変位と COP 速度の低下を示した。その結果、A-P、M-L 変位の減少は、それぞれ前方運動量を生成する能力と左右方向の安定性を維持する能力が減少していると解釈できる。また COP 速度の減少は、高齢者が姿勢維持のためにより注意深く動作を実行する運動制御戦略をとるためと考えられる。降段動作における COP 変位と COP 速度の測定は、階段関連事故や転倒の危険因子を判別するパラメータである可能性が示唆された。

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【Critical Reading】

 今回の課題は3段の降段動作であり、その解析対象は2~3歩目と3~4歩目である。しかし、3~4歩にかけては降段動作から歩行動作に切り替わるため、2stepと3step時の立脚パターンが異なっている。そのため、左足部のCOPデータは降段動作を捉えたものとは異なる可能性がある。また、この研究はCOP軌跡のA-P、M-L、速度の数値のみが結果に記載されている。COP変位のパターン変化や実際の動作パターンが本実験の不明確であるため、考察の解釈には注意を要すると考えられる。

 

担当:北村隼人

 

 


Journal Club 2020 #19−2020.05.25


Effect of Antispastic Drugs on Rapid Force Generation of Spastic Muscle

痙縮筋の急速な力発生における抗痙縮薬の効果

Nakamura R, Tsuji I.

Tohoku J Exp Med. 1986 Dec;150(4):447-53.

doi: 10.1620/tjem.150.447.

【Introduction】

 抗痙縮薬の効果検証は、通常、痙縮患者の腱反射や伸張反射亢進の軽減を評価してきた。一般的に、薬は、痙縮の抑制と同時に筋力の低下を招くことから、運動機能との関連にも注目されている。以前の我々の研究では、痙縮麻痺の急速な膝伸展において筋力や力変化率の低下を示した。このことから、痙縮麻痺患者において抗痙性薬の効果を検証することは、運動機能低下を防ぐ上で重要となる。本研究の目的は、末梢(ダントロレンナトリウム)あるいは中枢神経(バクロフェン)に作用する抗痙縮薬が、健常者、脳卒中片麻痺患者の急速な膝伸展時の張力発生にどのような変化を与えるか検証することである。

【Method】

 8名の健常者(28〜50歳)、8名の脳卒中片麻痺患者(30〜66歳)は本研究に参加した。患者群は、実験当時、歩行自立していた。麻痺側大腿四頭筋は中等度から重度の痙縮を示した。力の出力は、抗痙縮薬(ダントロレンナトリウム、バクロフェン)内服前後の大腿四頭筋の急速かつ最大の等尺性収縮における経時変化とEMG活動を記録した。服薬間隔は、ダントロレンナトリウム(25mg)約4時間、バクロフェン(10mg)約3時間とした。測定方法はFig.1参照。被験者は、膝を速くかつ強く伸ばしてと指示された。測定は1試行ごとに1分の間隔をとり、5試行行った。大腿直筋の表面筋電図は、memoscopeに記録され、張力計の出力は、A/D変換器を介して、コンピュータに移された。Fig.1Bに算出した3つの変数(TLT,Fmax,FTmax)を示している。TLT:EMG立ち上がりから張力発生までの時間、Fmax:最大張力、FTmax:張力発生から最大張力の時間。

【Results】

 Table1に全体の平均値、標準偏差を示す(服薬前)。TLT:麻痺側は、健常者および非麻痺側と比較して有意に延長した。Fmax:各群間比較では、有意に健常者が大きく、続いて非麻痺側、麻痺側となった。FTmax:麻痺側で延長傾向にあったが、他群との有意さはなかった。服薬後の影響をTable2に示した。TLT:ダントロレンナトリウムの服薬後、健常者25%、非麻痺側24%、麻痺側11%延長した。バクロフェンでは、変化なし。Fmax:ダントロレンナトリウムでは、有意差を認めなかった。バクロフェンでは、健常者14%、非麻痺側9%、麻痺側5減少させた。FTmaxは、どの薬でも変化を認めなかった。

【Discussion】

 [服薬前]TLTの延長は、痙縮筋の構造、収縮特性が関与していることが考えられた。FTmaxの延長については、痙縮筋内の遅い運動単位の含有率が増加することや弾道運動における運動神経の発火不足によるものと考えられた。[服薬後]ダントロレンナトリウムは筋小胞体からのカルシウムイオン放出を制限することでTLT延長を招いている。バクロフェンは中枢神経の活動を抑制することでFmaxの低下の要因となっていることが考えられた。

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【Critical Reading】

 Fig1.Bに関して、EMGの立ち上がりをどのような検出をしているのか、記載がなかった。動特性は、時間的要素であることからEMGや張力発生のタイミングを詳細に知る必要がある。検出方法についての記載があれば、解析方法の理解を進めることができたと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

担当:五十嵐直樹


Reliability of videotaped observational gait analysis in patients with orthopedic impairments

(整形外科疾患を呈した患者のビデオ映像を用いた歩行分析における信頼性)

Jaap J Brunnekreef , Caro J T van Uden, Steven van Moorsel, Jan G M Kooloos

BMC Musculoskelet Disord. 2005 Mar 17;6:17.

 doi: 10.1186/1471-2474-6-17.

【Introduction】

  理学療法士(PT)が行う歩行分析は、患者の目標設定や理学療法介入の効果判定のために用いられる。観察によるPTの歩行分析を扱った先行研究では、様々な疾患で研究がされているが、整形外科疾患を呈した患者の歩行分析における研究はほとんど行われていない。本研究の目的としては、整形外科疾患患者におけるPTの歩行分析の信頼性および特徴を明らかにすることであった。

【Method】

 【分析対象】下肢の整形外科疾患を呈した男女30名(平均年齢:37.8歳)【評価者】① 非熟練群(4名):PT養成課程を専攻している学生2名と人間運動科学を専攻している学生2名。取り込み基準は、臨床での歩行分析の経験がない者。② 熟練群(4名):PT4名。取り込み基準は、PTとして10年以上の経験を有する者。③ 専門群(2名):PT2名。取り込み基準は、本研究で用いる評価シートの開発者であり、整形外科疾患患者に対する歩行分析方法や介入方法を指導している者。【評価シート】各周期中における各体節の特徴が障害されているどうか(2択)を記載する形式とした。【撮影方法】患者が快適な速度で15mの半円を歩行している様子を撮影した。カメラ位置は、前額面と矢状面の共に撮影ができるように患者が歩行している側方に設置した。[実験手順]歩行分析は、患者30名の映像を2回ずつ分析した。分析時、ビデオテープをスロー再生することや停止することを許可した。また、熟練群と専門群のみにおいて、歩行分析から実際に介入する場合の治療優先度をつけることも要求した。【統計解析】各群の検者内信頼性および検者間信頼性は, 級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)を用いて検討した。また、非熟練群と熟練群における専門群との信頼性もICCを用いて、その差を検討した。

【Results】

 検者間信頼性はICCにおいて、非熟練群で0.40、熟練群で0.42、専門群で0.57であった。検者内信頼性は、非熟練群で0.57、熟練群で0.42、専門群で0.72であった。項目別にみると、全群にわたり体幹の側屈、膝関節の伸展、前腕の振りは高い信頼性を示したが、骨盤の回旋や足関節の背屈は低い信頼性を示した。介入時の治療優先度に関しては、熟練群および専門群はともに下肢に高い優先度を示した。また、専門群のみが立脚相と遊脚相の非対称性や体幹の側屈について高い優先度を示した。

【Discussion】

  中等度の信頼性を示した原因として、骨盤の回旋や足関節の背屈などの観察しづらい歩行障害の要素が信頼性の低下に影響していると考察した。他の原因として、各患者の歩行周期が一貫しておらず、評価者がそれぞれ異なる歩行周期を観察したことが影響したと考察した。介入時の優先度について熟練群は信頼性に乏しかった下肢のみに優先度が集中したが、専門群はその他の項目においても高い優先度を示した。ゆえに、熟練群は信頼性に乏しい項目を重視した治療を行うことを意味していると考察した。

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【Critical Reading】

 本実験では専門家群が評価した分析結果を基準として、非熟練と熟練群を比較していた。しかし、専門家群の取り込み条件が、評価フォームの開発者という条件であり、この条件で両群を比較するには適切な取り込み基準ではないように感じた。また、本実験では歩行分析より治療優先度の判定も検討していた。歩行分析は観察された現象から機能障害を推論し、帰納、演繹を繰り返すことで、その確からしさ検証していく過程である。本実験では、帰納・演繹の過程を考慮せず、治療優先度のみ焦点を当てており、臨床場面を意識して行われていた本実験の趣旨を加味すると、実験手順として不足があるように感じる。

 

担当:松坂大毅