Journal Club

Scheduled to start: April 2021


Journal Club 2021 #48


Effect of the Scapula Reposition Test on shoulder impingement symptoms and elevation strength in overhead athletes

投球アスリートの肩インピンジメント症状と肩挙上力に及ぼす肩甲骨リポジションテストの影響

                                                               Angela R. Tate , Philip Mcclure.

 

                          The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy 2008;38(1):4-11.

Introduction

 肩甲骨の運動異常を特定する1つの手段として、症状の変化を確認するテスト方法がある。Kiblerらの先行研究にて、肩挙上力が肩甲骨安静時位より後退位(Scapular Retraction Test)で増加すると報告されている。今回、我々はKiblerらのテストポジションを修正し、肩甲骨の後傾と外旋を強調したScapular Reposition Test(以下:SRT)を考案した。本研究では、インピンジメントテスト陽性徴候のある者とない者において、SRTにて肩疼痛が軽減するのか、また、肩挙上力が増加するかどうかを検討した。加えて、SRTによる肩疼痛と筋力の関係性の変化についても検討した。

Method

被験者投球スポーツを行う142名(男性111名、女性31名、年齢:20.8±2.8歳)である。除外基準は、BMI30以上の者、腱板断裂または肩脱臼、外傷性肩損傷の既往歴を有する者とした。実験方法初めに、肩甲骨ニュートラル肢位で3種類の疼痛誘発テストを(NeerHawkinsJobe)検査した。テストが陽性であった場合、NRSを用い0~10の間で疼痛を評価した。その後、SRT肢位で再度疼痛誘発テストを行い、NRSを評価した。次に、Jobeテストポジションでの等尺性挙上力を肩甲骨ニュートラル肢位とSRT肢位でダイナモメータを用いて5秒間、3施行測定した。データ分析インピンジメント陽性は、3種類の疼痛誘発テストで1つ以上陽性の場合とした。肩疼痛の軽減は、NRS1ポイント以上の減少と定義した。肩挙上トルクは等尺性挙上3施行の平均値に肩峰−尺骨茎状突起間距離を乗じて算出した。統計解析肩インピンジメントの有無による肩挙上トルクの差の検定をt検定で実施した。加えて、肩甲骨位置要因とグループ要因にて2元配置分散分析を実施した。また、肩甲骨位置による肩疼痛の軽減と肩挙上力の関係性を判断するためオッズ比を算出した。

Results

肩挙上トルクは、インピンジメントの有無に関わらず、肩甲骨ニュートラル肢位よりもSRT肢位にて有意に増加した。本研究における肩挙上トルクの最小可検変化量は9.3Nmであり、SRT肢位にて有意な筋力変化を示した割合はインピンジメントを有する群で26%、有さない群で29%であった。また、インピンジメントの有無で有意な差はなかった。SRT肢位にて有意な筋力変化を表した人数とNRSで痛みが1ポイント以上の変化の有無で分割した際のオッズ比は1.45(0.58~3.67)であった。

Discussion

SRT肢位にて肩挙上トルクが有意に増加したのは、三角筋と棘上筋がより伸張位になることから張力が増加したと考えられる。しかし、インピンジメントを有する群で最小可検変化量を超えて有意に増加したのは26%だけであり、これはインピンジメント症候群の原因が多因性であることに由来していると考えられる。また、今回の対象者が大学生、かつ、症状が無症状または軽度の状態であったことや、元々の肩甲骨ニュートラル肢位で筋力発揮に適した位置であった可能性があると考えられる。

肩疼痛と筋力の関係はオッズ比から無関係であった。この結果より、肩挙上力に疼痛抑制メカニズムが関与しておらず、肩甲帯バイオメカニクスの変化が重要である可能性が示唆された。

 

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Critical Reading

 SRTは肩甲骨の位置関係を重視したテスト方法である。だが、本実験の被験者の群分けが疼痛誘発テストの有無であり、本当に肩甲骨の位置異常があるかは分からない。また、徒手的に修正した肩甲骨の位置が定量化されておらず、実験デザインの不透明性がある。

 

 

担当者名:千田悠人  

 


Journal Club 2021 #47


Better Retention of Skill Operating a Simulated Hydraulic Excavator After Part-Task Than After Whole-Task Training

ショベルカーシミュレータの操作スキルは、全体課題練習よりも部分課題練習後の方が保持される

So JCY, Proctor RW, Dunston PS, et al.

Hum Factors, 2013, 55: 449–460.

【Introduction】

  シミュレータには、機械の基本的な制御、適切な操作の技術、および現場での安全な操作スキルを向上させる機能が備わっている。しかし、建設機械の操作におけるシミュレータ練習に関する研究は限られている。また、シミュレータを使った練習においても全体練習と部分練習のどちらで行うか問題となっている。建築機器シミュレータは、作業を行うためのナビゲーションと機器の効率的な取り扱いの両方に関わる複雑な知覚運動スキルの開発、評価、および転移を促進するように設計される必要がある。[目的]ショベルカーシミュレータを用いた「トレンチ&ロード」課題の練習方法による学習効果の差を比較ことだった。

【Method】

 [対象]19〜34歳までの大学生42名(男性24名、女性18名、平均23.5±2.8歳)を対象とした。[実験機器]実験にはショベルカーシミュレータ(Simlog's社)が搭載され、ジョイスティックコントローラーが取り付けられたPCを使用した。19 inchモニターの正面に参加者を座らせた。モニターにはショベルカーの運転席の視点と同様の類似したVR映像が表示された。参加者はジョイスティックを用いてショベルカーを操作した。 [実験課題とデザイン]トレンチ&ローディング課題は、ショベルカーを操作し、掘削範囲(トレンチエリア)から土を掘り出し、その土を隣接するトラックに積む(ローディングする)というものだった。参加者には、なるべく少ないエラーでより生産性を向上させるように伝えた。実験全体について、練習期間と即時テスト、保持テストの3段階で構成した。参加者は課題の内容と基本的な操作方法について学んだのちに、練習段階で全体課題練習と部分課題練習のいずれかの群に分けられた。部分練習群ではキャリアポジショニング要素(ショベルカー操作の学習)とトレンチング要素(掘削の学習)、トラックローディング要素(トラックに土を移す学習)の各要素をそれぞれ練習した。全体練習群はトレンチ&ローディング課題を練習した。[即時・保持テスト]各テストでは、トレンチエリアとトラックの位置を変えた3つの課題をランダムで6試行実施した。即時テストは練習終了から5分後、保持テストは2週間後に行った。[統計解析]テストと試行数を参加者内要因、練習方法を参加者間要因とした混合計画における二元配置分散分析を実施した。[パラメータ] 本実験では所要時間とトラックへの移送量の結果を用いて、各試行の生産量(m3/h)を算出した。また、エラーの指標にバケットスラム回数(勢いよくバケット開閉した回数)と衝突回数(トラック等に衝突した回数)を使用した。

【Results】

 平均生産量について分散分析の結果、各テストと練習方法との間で交互作用を認めた。即時テストでは群間に有意な差がみられなかったが、保持テストでは全体課題群に比べて部分課題群で有意に平均生産量が多かった。各テストの試行間でみられるパフォーマンスの向上は、即時テストに比べて保持テストで有意に向上した。エラー数(バケットスラム回数と衝突回数)は即時テストに比べて保持テストで有意に少なかった。

【Discussion】

 本実験の結果、部分課題群は全体課題群に比べて、保持テストで高い生産性を得られた。この結果について、部分課題練習で各要素のスキルを学習した後に課題全体に必要な協調性も学習することができたためと考えられる。また、保持テストにおけるパフォーマンス向上については、テストで6試行実施したうちの最初の試行でみられた生産量の低下が原因と考えられる。この点について「過去に学習した技能を想起することに伴うウォームアップの減少」(Schmidt & Lee. 2011)、「速く、適応するための一時的な側面である」(Newell et al. 2009)などの報告で説明できる。本実験で得られたような部分課題練習の効果は、ショベルカー制御が課題の一部分であるような複雑な知覚運動課題(Gopher et al.1989など)や、機器の制御を伴う腹腔鏡下手術などの専門的スキルに適用される(Beaubien & Baker. 2004)可能性がある。

 

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【Critical Reading】

   本研究はシミュレータを用いた実験であるため、練習効果の作業現場への転移について検証されていないことは問題点であると考える。一方、本実験においては、各テストの結果のみならず、全体課題群と部分課題群それぞれの練習トライアルのパラメータが表にまとめられていた。このようなデータから両群の練習経過を辿ることによって、練習方法の違いによるパフォーマンス習得過程の特徴が明らかになる可能性があると感じた。今後の自分自身の研究をまとめる際にも参考にしていきたい。

 

担当者:嶋田剛義

 


Journal Club 2021 #46


A Clinical Method for Identifying Scapular Dyskinesis, Part2 : Validity

肩甲骨の運動異常を特定するための臨床方法 その2:妥当性

                                                               Angela R. Tate , Philip W McClure

                                               Journal of Athletic Trainin2009;44(2):165-173.

Introduction

   肩甲骨の運動異常を有する者と有さない者の視覚的評価法で妥当性を検証したものは存在しない。視覚的評価法であればスクリーニングにて肩甲骨の運動異常の有無や発症リスクがある人を簡便に特定できるため臨床上非常に価値があるものである。そこで、本研究は肩甲骨の運動異常テスト(Scapular Dyskinesis TestSDT)で障害を有する群と有さない群の運動学的尺度を比較し、テストの妥当性を検証することを目的としている。また、オーバーヘットスポーツを行う選手を対象にSDTの判定と肩疼痛の関連性を明らかにすることも目的とした。

Method

被験者全米大学体育協会のスポーツに参加する者の中で、SDTで正常または明らかな異常と判定された104名のうち本研究の趣旨に同意した66名を対象とした。実験方法SDT3次元運動データを、磁気式3次元モーション・トラッキング・システムPolhemus社)を用いて測定した。本実験では、肩甲骨の外旋・上方回旋・後傾、鎖骨の挙上・外転の3次元運動データを測定した。本測定はSDT測定日から同日または3日以内に全て行った。データ分析測定データはSDTにて正常群および明らかな異常群でそれぞれ平均化し、安静時から120度までのデータを30度毎に記述した。統計解析は、グループ要因と角度要因にて混合計画における2元配置分散分析を実施した。また、Penn Shoulder Scoreを使用し、3つの条件(①安静時②着替え時③運動時)における疼痛を0~1011段階で記載した。加えて、肩疼痛強度を3/30以上と6/30以上の2群に分け、肩疼痛2群と肩甲骨運動異常の有無でオッズ比を算出した。

Results

SDTにおける屈曲、外転運動ともに角度要因の主効果を認めた。また、屈曲時には肩甲骨上方回旋と鎖骨挙上・外転で交互作用を認めた。明らかな異常群の方が肩甲骨上方回旋および鎖骨挙上が有意に小さく、鎖骨外転は有意に大きかった。外転時には肩甲骨上方回旋・後傾と鎖骨挙上で交互作用を認めた。明らかな異常群の方が肩甲骨上方回旋および鎖骨挙上が有意に小さく、肩甲骨後傾は有意に大きかった。

疼痛の強度と肩甲骨運動異常の有無の関係を表2に示す。オッズ比の95%信頼区間は疼痛3/30以上の群で0.33~1.896/30以上の群で0.2~2.25であった。

Discussion

 SDT正常群と明らかな異常群の3次元運動データに有意差を認めた。この結果は、両群間で関節運動が異なっていることを示すものであり、SDTにて肩甲骨の運動異常を評価する妥当性を支持するものであった。また、SDTで明らかな異常と判断された者は、肩甲骨への介入をする強い根拠となり得る。

オッズ比より、肩疼痛の強さと肩甲骨運動異常の関係性はないことがわかった。これは、対象が大学のアスリートのため肩疼痛と運動異常の関連性が小さかったためと考えられる。以上より、肩疼痛を有する患者がいる臨床現場と本結果を同一に考えるべきではなく、今後更なる臨床研究が必要である。

 

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Critical Reading

今回の被験者は肩疼痛が小さく、肩関節障害を有していないアスリートであることから健常者もSDTで明らかな異常と捉えられている可能性がある。そのため、今回得られた肩甲骨および鎖骨の3次元運動データが正常群と明らかな異常群で異なることが肩甲骨運動異常を示すデータとなるかも疑問が残る。

SDTが本当に肩甲骨の運動異常を示すのか、今回明らかな異常と認められた群の3次元運動データの解釈、この2点について今後とも吟味していく必要があると考える。

 

担当者名:千田悠人

  


Journal Club 2021 #45


 A Clinical Method for Identifying Scapular Dyskinesis, Part1:Reliability.

肩甲骨の運動異常を特定するための臨床方法 その1:信頼性

                                                                Philip W McClure , Angela R. Tate

                                               Journal of Athletic Trainin2009;44(2):160-164.

Introduction

肩甲骨は3次元上の動きがあることから、臨床評価が困難な部位である。Warnerらは肩甲骨の運動異常は静的評価法よりも動的評価法にてより明らかになることを発見した。しかし、現状では肩甲骨の運動異常を特定する有効で臨床的に簡便な動的評価法は存在していない。そこで本研究の目的は、新たに開発した肩甲骨の運動異常テストであるscapular dyskinesis test(SDT)の評価者間信頼性を測定し、SDTの有用性を検討することである。

Method

被験者全米大学体育協会のスポーツに参加する142名(男性111名、女性31名)のアスリートとした。除外基準は、疼痛がNRS(numeric rating scale)7以上の者、腱板または関節唇損傷の既往歴を有する者、過去1年以内に肩の脱臼・骨折・肩の手術歴がある者、過去30日以内に上肢または上腕骨頸部への直接損傷がある者、接着剤に対してアレルギーのある者、BMI30以上の者とした。SDT【実験方法】男性はシャツを脱ぎ、女性は後胸部を観察できるシャツを着用した。各被験者は、後方2~3mに位置するカメラで撮影されながら肩関節の屈曲及び外転運動を5試行行った。1試行の運動は3秒で挙上、3秒で初期位置に戻るペースで行った。この際に、体重が68.1kg以下の人は1.4kg68.1kg以上の人は2.3kgのダンベルを把持しながら運動を実施した。【評価】直接観察するライブグループ(Live)撮影した動画を後日視聴するビデオグループ(Video)に分け肩甲骨の運動異常を評価した。Videoでは1人で大画面を視聴し、要求があれば2回再生可能とした。各評価者は、それぞれのSDTでの肩の動きを①正常動作②微妙な異常(疑わしい程度で一貫して異常が存在しない)③明らかな異常(少なくとも3/5以上で異常が存在する)の3つの尺度で評価した。評価者は標準化された動作定義と、正常及び異常な動作のビデオ例を用いた自己学習形式で肩甲骨の運動異常を検出するための訓練を受けた。データ分析SDTの評価者間信頼性を重み付きκ係数を用いて算出した。

Results

Videoのκ係数は右0.61、左0.48であり、Liveのκ係数は右0.55、左0.58であった(表2)。左右を平均した信頼性はVideo0.54Live0.57でありややLiveの方が高かった。

Discussion

 本研究で行ったSDTでは訓練を受けているトレーナーや理学療法士であればSDTを用いて視覚的に認識し、十分な信頼性を持って正常と異常を判定できることが明らかとなった。本研究の結果は、Kiblerが報告した4つのサブグループ(:下角の突出、Ⅱ:内縁の突出、Ⅲ:上角の過度な上昇、Ⅳ:正常で左右対称)で構成された視覚に基づく運動異常の信頼性(PT0.42Dr0.32)よりも高かった。この要因としては、Kiblerらの評価法は肩甲骨アライメントの非対称性を重視していることに対し、SDTの評価尺度は胸郭に対する相対的な位置関係を重視していることにあると考える。Koslowらの研究では肩甲骨の非対称性の測定は肩甲骨の運動異常を示すものではないと結論づけている。よって、非対称性を重視したKiblerの評価方法よりも、相対的な位置関係を重視したSDTの方が優れた評価法であると言える。

 

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Critical Reading

SDTは、肩甲骨の運動異常を特定する評価法でありながらも、肩甲上腕関節の影響を取り除けていない課題設定である。そのためSDTで本当に肩甲骨の運動異常を特定することができているのか疑問が残る。肩甲骨の運動異常を特定するためにも、肩甲上腕関節の動きを除外し、肩甲骨単独の運動課題となる設定で行う必要があると考える。

 

担当者名:千田悠人

  


Journal Club 2021 #44


Motor sequence learning and the effect of context on transfer from part-to-whole and from whole-to-part.

運動シーケンス学習と、部分から全体、全体から部分への転移における文脈の影響

 

                                                                 Rhein Z, Vakil E

                                                                                       Psychological Research, 2018, 82: 448–458.

 

【Introduction】

  学習の転移に関する先行研究において、学習課題の練習量が転移に影響すると報告されており(Rand et al. 2000; Vakil et al. 2002)、さらに課題間転移は、課題間でどの程度共通の要素を含んでいるかによって決定されること(Thorndikeの同一要素説)が報告されている。その一方で、全体法と部分法の研究結果は必ずしも同一要素説を支持しない (Speelman & Kirsner 2001)とした見解もある。[目的]学習課題を全体から部分の練習条件で行なった場合と全体を継続した練習条件との比較、部分から全体条件と部分継続条件との比較を行い­、それぞれの転移特性を明らかにすることとした。なお、本実験では、「全体から部分」または「部分から全体」に課題条件を変更することによりパフォーマンスが改善した場合、転移が生じたと判断した。

【Methods】

[対象]87名の学部生(男性28名、女性59名)で無作為に4群に割り付けた。初めに被験者を部分群(n42)と全体群(n45)に分けた。実験中に、部分群の中から部分課題を継続して行う部分継続群(n=19)と部分課題から全体課題を行う部分全体群(n=23)にさらに分けた。全体群も同様に全体継続群(n=20)と全体部分群(n=25)に分かれて課題を行なった。また、学習量の影響を確認するため上記の87名とは異なる被験者でブロック数を半分とした短い部分全体群(n=18)を設けて追加の実験を行なった。[実験課題]系列反応時間課題(以下:SRT課題)を学習課題とした。AからD4つのキーが記されたキーボードを用いて反応時間(以下:RT)を測定した。サンプリング周波数は1000Hzとした。言語教示は「画面に表示される4つの要素のうち1つに赤い点が表示されます。それに対応するキーを利き手の人差し指でできるだけ速く押してください」とした。[実験手順]部分群はADBACDからなる6要素のシーケンスを18回繰り返し、1ブロック(108試行)実施させた。全体群はBDCADBACDABC12要素のシーケンスを9回の繰り返し、1ブロック(108試行)実施させた。また、ブロック1から6までの間、被験者は全体群と部分群にそれぞれ分かれて課題を実施した。その後、ブロック7ではランダムに配置された課題を全被験者が行った(ランダムブロック)。最後にブロック84群に分かれて各課題を行なった(転移ブロック)。[データ処理]赤い点が表示されてから対応するキーを押すまでの時間とした。[統計解析]各シーケンスのRTの中央値を求め、中央値の平均値をブロックごとに算出した。混合計画における二元配置分散分析を用いて解析を行なった。

【Results】

 ブロック1-6の結果、全体群と部分群で有意な差を認め、交互作用は認められなかった。ブロック6とランダムブロックを比較した結果、群間で有意差は認められなかったが、課題条件とブロックで交互作用が認められた。ランダムブロックと転移ブロックを比較した結果、課題条件とブロックで交互作用が認められ、すべての群で有意にRTが減少し、部分継続群でRTが最も減少した。ブロック6と転移ブロックを比較した結果、部分全体群ではRTが有意に増加した。他の群ではRTが有意に減少した。また、その後に実施した追加実験の解析の結果、部分全体群と短い部分全体群との間では同様の結果が得られた。

【Discussion】

 学習の転移について、学習の初期よりも後期段階の方が転移にかかるコストが大きい (Vakil et.al, 2002)とした報告や運動シーケンス学習の転移は練習量に依存する(Korman, Raz, Flash,Kami, 2003)という報告がある。この観点より、部分群では学習の自動化が進んでいた学習後期の段階であったのに対し、全体群はまだそのレベルに達していなかったため転移が可能であったと推察される。また、転移ブロックの直前に行われたランダムブロックが結果に干渉した可能性が示唆された。

 

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【Critical Reading】

 本実験ではこれまでの先行研究でほとんど言及されていない全体から部分への転移について検証されていた。また、本実験からSRT課題の学習において要素を省略するよりも要素を追加した方がパフォーマンスは低下することが確認できた。一方、考察でも述べられていたように、練習期間と転移ブロックとの間にランダムブロックが設けられていたため、純粋な学習の転移効果が確認できていたか疑問が残る。今後、自身の研究を進めていく上で転移ついて改めて情報を整理していく必要があると感じた。

 

 

担当者名:嶋田剛義

  


Journal Club 2021 #43


Influence of clinical experience and instruction on typical cases on the inter-rater reliability of observational gait analysis

(視覚的歩行分析の評価者間信頼性における典型的な症例に対する臨床経験と指導の影響)

 

                                                                             Hiroki Tanikawa, Kei Ohtsuka, Junya Yamada

Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science. 2019 Mar;12(1):14-20.

 

【Introduction】

  視覚的歩行分析は、いくつかの利点がある一方、その評価は主観的である。これまで歩行分析の信頼性を検討した報告はあるが、一貫した知見は報告されていない。さらに、歩行分析の信頼性を向上させるための方法を検討した報告もまだされていない。本研究の目的は、脳卒中片麻痺患者の異常歩行パターンの重症度における評価者間信頼性を調査すること。また、臨床経験と評価前の情報提示における影響を調査することであった。

【Methods】

[被評価者]本実験では、50人の片麻痺患者が集められた。取り込み基準は、「ぶん回し歩行」かつ/もしくは「膝伸展スラスト」かつ歩行介助者を必要としない者であった。対象者の年齢は57±15歳、下肢のBrunnstrom recovery stageの中央値はⅣであった(範囲:Ⅰ〜Ⅵ)。被験者はトレッドミル上にて通常歩行を実施させた。評価映像は、ビデオカメラにて側面および背面から撮影した。撮影映像から4人の熟練理学療法士(physical  therapists:PT)(経験年数:中央値 15.8年)が異常歩行パターンの重症度を5段階の尺度にて評価させた。[評価者]30人のPTを評価者として募った。PTの経験年数の中央値は5.8年であった(範囲:0.4〜14.4年)。本実験では、平均経験年数が等しくなるように2群(教示群、非教示群)に分けた。それから、各群にて経験年数別に2群(5年未満群、5年以上群)になるように割り当てた。教示群のみ、動作分析における一般的な事例の説明(※1)を行い、歩行分析を実施させた。一方の非教示群には、一切の説明を実施せずに歩行分析を実施させた。[手順] はじめに、全ての評価者に対し2つの異常歩行パターンの説明を実施した。次に、教示群に対して、熟練が5段階にて判定した内容についての説明(※1)を実施した。それから、教示群・非教示群ともに各片麻痺患者の歩行映像(1症例あたり15秒間)を視聴させ、異常歩行パターンの重症度を5段階の尺度で評価させた。[データ解析・統計解析] 異常歩行の有無における評価の一致度を確認するために、5(正常)または1〜4(わずかに〜かなり)と評価した割合を確認した。また、観察的評価時の信頼性における経験年数と一般的事例の説明の影響を検討するため、カッパ係数と重み付きカッパ係数、Spearmanの順位相関係数、Wilcoxonの符号順位検定を用いた。

【Results】

 異常歩行の有無における評価の一致度は、ぶん回し歩行にて、膝伸展スラストともに、教示群の方が非教示群よりも高い値を示した。重症度の信頼性においても、教示群の方が非教示群よりも高い値を示した。ぶん回し歩行の一致率は、経験年数5年以上群で教示の影響が見られた。一方、5年未満群にて、教示の影響は見られなかった。膝伸展スラストの一致率は、経験年数5年以上群の方が5年未満群よりも高い値を示した。

【Discussion】

本実験にて、教示群は非教示群よりも高い信頼性を示した。これは、一般的事例の説明が評価者の主観的尺度の校正に作用したものと考えられる。さらに、5年以上群が5年未満群よりも高い信頼性を示したことから、経験年数と一般的事例の提供における組み合わせが、信頼性向上に寄与する可能性がある。

 

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【Critical Reading】

  本実験では、熟練PTが評価した「一般的事例」の評価基準の提示が信頼性向上に寄与するかを検討した。結果は、信頼性向上に影響したことを示唆するものであったが、「一般的事例」の評価基準は、熟練PTの経験から評価されており、妥当性に関して考慮されていない。歩行分析にて臨床経験の有無が妥当性に影響しないことも報告されている(Serkan,2015)ため、本実験の歩行分析における妥当性に関しては注意して解釈する必要がある。

 

担当者名:松坂大毅

  


Journal Club 2021 #42


The comparison of motor performance between part and whole tasks in elderly persons

(高齢者における部分課題と全体課題の運動パフォーマンスの比較)

 

                                                                                                       Ma HI, Trombly CA

The American Journal of Occupational Therapy, 2001, 55: 62–67.

 

【Introduction】

運動学習の研究において、全体練習と部分練習の違いに関する検討されているが、それら研究は、作業療法士が臨床で患者に指導する機能的課題とは異なるものがほとんどである。また、全体練習と部分練習の運動制御における問題点として、課題を部分に分けて練習することで課題全体の文脈に含まれる部分とは異なる課題特性となることが懸念されている(Bennett et.al, 1995、Schmidt & Lee, 1998)。さらに、生態心理学(Gibson, 1979、Reed, 1982)の観点からは、機能的課題を分解すると、あまり意味の持たない部分課題が作られ、課題全体のパフォーマンスを妨げる可能性が示唆されている。[目的] 健常高齢者を対象に,署名課題における部分課題と全体課題のパフォーマンスを運動学的に比較すること。[仮説] 部分課題と比較し全体課題条件でより組織化され、力強く、滑らかなパフォーマンスとなる。

【Method】

[対象] 20人の高齢者(男性7名、女性13名、69.5±3.87歳、内2名が左利き)を対象とした。[実験デザイン] クロスオーバー比較実験デザインを取り入れた。ペン立てに入ったペンと3インチ平方の紙を用いた。 [実験機器] 3次元動作解析装置を使用し、赤外線マーカーを利き手の尺骨茎状突起に貼付した。サンプリング周波数は100Hzとした。[署名課題] 課題は3段階からなり、第1段階でペンへリーチして握り、 第2段階でペンを紙に近づけ、 第3段階で名前を署名するように構成されていた。各条件で練習3試行とテスト5試行実施した。解析にはテスト試行のみを使用した。[課題条件] 全体課題条件では視覚的開始信号後に第1段階から第3段階を1まとまりとし、続けて署名課題を実施させた。部分課題条件では開始信号後に各段階を順次実施させた。各段階の間に2秒から3秒の休止時間を設けた。[データ処理・解析]各段階の開始と終了については、Y軸方向への速度が5mm/secを超えたときを開始、5 mm/secを下回ったときを終了と定義した。一部被験者でこの条件に該当しない試行があり、追加の基準としてマーカーのY位置が開始位置から最も離れた点を第1段階の終了、第2段階の開始とした。また、解析の対象は第1段階と第2段階であった。 [解析パラメータ]解析パラメータには、動作時間、PV/AV(最大速度と平均速度の比率であり、エネルギーコストの指標)、最大速度(力強さの指標)、動作単位数(動作中の加速と減速の数であり、滑らかさの指標)の4つを用いて解析を行った。代表値はテスト5試行の平均値とした。[統計解析]混合計画による二元配置分散分析を実施した。

【Result】

第1段階において、すべてのパラメータで全体課題条件と部分課題条件の間に有意差を認め、全体課題条件の方が優れたパフォーマンスを示した。第2段階においては、PV/AV以外で全体課題条件と部分課題条件の間に有意差を認め、全体課題条件で優れていた。

【Discussion】

 本研究の結果は、部分課題条件と比較し全体課題条件でより時間効率がよく、力強く、滑らかなパフォーマンスを示し、仮説を支持するものであった。この結果について、生態心理学理論(Gibson, 1979、Reed, 1982)によれば、運動のパフォーマンスは文脈に含まれる情報に影響されると考えられている。本実験において全体課題は文脈が保たれており、日常生活で行う動作に近い条件であったのに対し、部分課題は人為的に構成された課題だった。このことから、課題の文脈が保たれていたことが全体課題条件でより良いパフォーマンスを引き出すことができた要因と考えられる。今回の結果から、介入初期に全体課題ができない場合であっても、なるべく早期から全体課題での練習を開始し、最終的な課題の目標を見据えた練習を行うべきであると考えられる。

 

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【Critical Reading】

本実験は、全体法と部分法の先行研究の中では数少ない、動作の円滑性にも着目している研究である。一方で、実験環境についてはペンと紙の位置などの記載がないため、実際にどのような運動をしたのか、どれほど運動に影響を与えていたかが不明である。また、各段階の開始と終了について、Y軸方向への速度を用いた分け方をしていたが、全試行の20%が基準に該当しなかったことなど、分け方がやや曖昧な印象を持った。そのため特に動作単位数の結果に影響を与える可能性があったと考えられる。

 

担当者名:嶋田剛義

 


Journal Club 2021 #41


Shoulder Function and 3-Dimensional Scapular Kinematics in People With and Without Shoulder Impingement Syndrome

(肩インピンジメント症候群を有する人と有さない人の肩関節機能と肩甲骨の3次元運動特性)

 

                                                                                                       Philip W McClure  Lori A Michener.

Physical Therapy 2006;86(8):1075-1090. 

【Introduction】

 肩峰下インピンジメント症候群(Shoulder subacromial impingement syndrome:SAIS)は上肢挙上運動時に肩峰と烏口肩峰靭帯の前下面に腱板、肩峰下滑液包、上腕二頭筋腱が圧迫された状態である。SAISを有する際の肩甲骨の動きや筋力、ROMを調査した先行研究の報告はばらつきがあり、一貫した知見は得られていない。本研究の目的は上肢挙上運動時の肩甲骨の3次元運動、肩関節の自動ROM、胸椎と肩前方突出の安静時の姿勢、筋力を健常者と比較することでSAIS患者の身体的特徴を調査することである。

【Method】

[対象者]SAISと診断された45名(171.7cm±9.4cm45.2歳±12.8歳)及びSAISを有さない45名(172.0cm±10.2cm43.6歳±12.4歳)が参加した。除外基準は腱板完全断裂または急性炎症の徴候、頸椎関連の症状、肩甲上腕関節の不安定性、肩の手術歴があるものとした。[測定方法]肩甲骨、鎖骨の3次元運動は電磁式動作解析システムを用いて測定した。運動は、矢状面と肩甲骨面での自動挙上運動及び、2ndポジションでの肩外旋運動とした。肩関節の自動ROMはゴニオメータを用いて測定した。胸椎の姿勢は重力式傾斜計、肩前方突出の姿勢は大工用定規を用いて測定した。筋力はダイナモメーターを用い等尺性収縮にて測定した。[データ分析]3次元運動データは縦軸に肩甲骨及び鎖骨の各運動尺度、横軸に肩関節運動として図を作成した。また、SAISの有無による比較として被験者間及びRO M要因の2元配置分散分析を実施した。ROM、筋力、姿勢の測定についてはt検定を用いて群間比較を実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。

【Result】

3次元運動データの結果は、肩関節屈曲にて上方回旋と鎖骨挙上時に有意な交互作用を認めた。また、肩甲平面挙上では肩甲骨の後傾、上方回旋、鎖骨の後退で有意な交互作用を認めた。一方、2ndポジションでの外旋運動では有意な差を認めなかった。肩関節のROMと筋力の項目では、SAISを有する群は有さない群に比べて全ての測定項目において有意に少なかった。胸椎と肩前方突出の安静時の姿勢でも両群で有意な差は認めなかった。

【Discussion】

本研究では、肩甲骨と鎖骨の運動特性には両群で有意な差を認めたが臨床的に意義のある差ではなかった。原因として、SAISは「症候群」のためいくつか種類があり、肩甲骨に限局した運動異常があるのが1部の対象者であったことが考えられる。SAIS群で筋力と肩関節のROMで低下していたのは、インピンジメントによる疼痛が低下に関与していると考えられる。また、肩関節のROMと筋力はSAIS群で明らかに少なく、肩や上部胸椎の安静時の姿勢には差が認められなかった。SAIS群で肩甲骨の後傾、上方回旋、鎖骨の後退が大きいのは肩峰下スペースを広げる代償反応と解釈できる。姿勢で有意差がなかったのは、上部胸椎の可動性低下が見られなかったためと考えられる。

 

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【Critical Reading】

SAISの有無による肩甲骨、鎖骨の3次元運動の基礎データを確認できた。しかし、SAISを有する群で肩甲骨、鎖骨の関節運動の差が大きく出なかった原因追求で肩甲骨障害があることを特定しきれない現状の課題が浮き彫りとなっている。そのため、肩甲骨障害を判定できる評価法の開発が必要であり、妥当な方法論の確立が必要となると考える。

 

担当者名:千田悠人

 


Journal Club 2021 #40


Effects of distinct practice conditions on the learning of the o soto gari throwing technique of judo

(練習条件の違いが柔道の大外刈りの習得に及ぼす影響)

Gomes FRF, Bastos FH, Meira C de M, et al.

J Sports Sci, 2017, 35: 572–578. 

【Introduction】

柔道の試合は、開放的かつ複雑なスキルが含まれた、絶えず変化する環境であると見なすことができる。しかし、柔道の伝統的な練習方法において、取り(技を掛ける選手)は打ち込み動作を繰り返し、受け(相手の攻撃を受ける選手)は何も反応せずに技を受けている。また、柔道の試合で注目すべき要素に「崩し」(受けのバランスを崩すこと)がある。崩しは、技の一連の流れの中で最初に行われ、その後の「作り」(技を掛ける姿勢を作る)や「掛け」(技を掛け、受けを投げる)に続いていく。試合では崩しを行うために相手との駆け引きをする崩しの前の動作が重要となる。「大外刈り」(柔道の足技)の練習において、崩し前の動作を加えた練習や試合に近い状態の練習効果(練習の特殊性の効果)が、未だに十分に理解されていない。また、柔道の技は部分(崩し、作り、掛けなど)に分けて学習すべきかといった問題がある。[目的] 崩しに着目した大外刈りの学習に対する練習方法の違いが運動学習効果に与える影響について検討すること、練習の特殊性と全体練習・部分練習の効果を明らかにすることを目的とした。[仮説] 崩し前の動作を加えた大外刈りは連続した技であり、各要素が前の要素に依存しているため、全体練習での練習が優れている。また、従来の伝統的練習方法と比較して全体練習でより崩しの学習効果が高い。

【Method】

[対象・課題]柔道経験がない64名の子供(平均9.19 ± 1.41 歳、男性29 名・女性35 名)を対象とした。被験者を静的伝統練習群(STP群)と動的伝統練習群(MTP群)に17名ずつ、全体練習群(WPP群)と部分練習群(PPP群)に15名ずつの計4群に割り付けた。課題は崩しに着目した大外刈りを学習課題とした。 [実験手順]本実験では、練習前テストを実施した後に練習を行った。また、練習終了直後に練習後テスト、練習終了翌日に保持テストを実施した。各テストの様子をビデオカメラで撮影した。練習前テストの前に検者が一度大外刈りを実演し、その後被験者に3試行を実施させた。練習は各群で10試行を1セッションとした合計4セッション実施させた。STP群には、受けは動かず、取りが崩しから掛けまでを、MTP群には、受けはすり足を行い、取りが動いている受けに対して崩しから掛けまでを、WPP群には、崩し前の動作から掛けまでを通して反復させた。PPP群には、崩し前の動作から掛けを部分に分け、それらを漸進的に実施させた。各群に対してセッションごとに言語教示を与え、大外刈りを実演した。練習後テストと保持テストは、練習前テストと同様の手順で3試行を実施させた。 [パフォーマンス評価]先行研究で使用されたチェックリスト(Gomesら,2002;2010)を用いて、取りの崩しと作りのパフォーマンスを点数化した。評価は柔道家(黒帯2段)が録画された映像を元に行った。[統計解析]群間の比較にKruskal-Wallis検定を用いて、事後検定にMann-Whitney U検定を行った。群内における分散分析にFriedman 検定を用いて、事後検定にWilcoxon順位和検定を行った。

【Result】

群間分析の結果、STP群とMTP群、WPP群との間に有意差を認めなかった。また、WPP群とPPP群を比較した結果、有意差を認めなかった。一方、群内分析における実際の崩しのパフォーマンスの結果、STP群を除く3群で練習前テストと保持テストに有意差を認め、保持テストで有意に高値を示した。

【Discussion】

本実験の結果、伝統的な練習方法では、崩しに関連する動作パターン(例:柔道衣の袖を引っ張るなど)を学習できても、実際に崩しの技術は学ぶことができないという先行研究の結果を支持するものだった。また、崩し前の動作を含む練習は技術の習得を妨げずに実践場面に向けたより効果的な学習ができる可能性があると示唆された。さらにWPP群とPPP群の結果から、大外刈りに崩し前の動作を加えた全体練習は、子どもの情報処理能力に影響を与えるだけの負荷にならなかったことが示唆された。

 

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【Critical Reading】

  本実験は、言語教示が統一されていない点や評価方法の記載が不十分な点など方法が統制されていない点を問題と感じる。一方で、本実験は実践課題に全体法と部分法の練習を取り入れた数少ない実験である。また、本論文を抄読し、全体法と部分法の研究でこれまで行われてきた実験心理課題による研究と本実験のような実践課題を用いた研究との中間の研究が欠落していることを再認識することができた。

 

担当者名:嶋田剛義

 


Journal Club 2021 #39


 Scapular Positioning in Patients With Shoulder Pain : A Study Examining the Reliabilityand Clinical Importance of 3 Clinical Tests

(肩痛患者における肩甲骨のポジショニング〜3つの臨床検査の信頼性と臨床的重要性を検討した結果)

Jo Nijis, Nathalie Roussel, Kim Vermeulen, Greet Souvereyns

Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(7):1349-55. 

【Introduction】 

 上肢の機能を最適化するためには、安静時や運動時の肩甲骨の位置を適切に保つ必要があることが広く認識されている。しかし、臨床的な観点からは肩の痛みを有する患者の肩甲骨アライメントを信頼性のある有効な方法で評価するための方法は存在していない。そこで本研究は肩関節痛患者の肩甲骨の位置を評価するための3つの臨床検査について(1)評価者間信頼性(2)内部一貫性(3)臨床的重要性を検討した。

【Method】 

 被験者:肩障害を有する29名。除外基準は、最近の外科手術に伴う肩の痛みに対して理学療法を受けている者であった。測定者:測定を行うPTは診療所(10施設)と病院の外来部門(3施設)から募集し、2名のPTが参加した。臨床検査:【肩峰―ベッド間距離】姿勢は背臥位とし、2項目(リラックス、肩甲骨内転位)の肩峰とベッドの間の距離を垂直に測定した。【肩甲骨内縁―Th4棘突起】姿勢は背臥位とし、2項目(リラックス、肩甲骨内転位)の肩甲骨の内側縁とTh4棘突起を水平に測定した。【LSST】姿勢は立位とし、3項目(リラックス、hans on hip position、肩側方挙上+最大内旋位)のポジションで肩甲骨下角とTh棘突起を水平に測定した。手順:初めに被験者に肩関節障害質問票(SDQ)と視覚的アナログスケール(VAS)を記入してもらった。その後、①肩峰―ベッド間距離②肩甲骨内縁―Th4棘突起③LSSTの順に測定を行った。測定は1人目のPTが両側の肩を測定した後、2人目のPTが同一被験者を同様に測定した。統計解析:評価者間信頼性はICCを算出。内部一貫性はCronbach係数を算出。臨床的重要性の検討のために(1)自己申告の尺度(SDQとVAS)と臨床検査の関連性をピアソンの積率相関分析(2)臨床検査の結果を肩障害有する群と有さない群でStudentのt検定を実施した。有意水準は1%未満とした。

【Results】

 被験者29名のうち女性が19名、肩障害は右肩が18名であった。平均肩の期間は13.7か月だった。痛みのスコアはSDQが58.3%±20.1%、VASが11.3mm±16.3mmだった。臨床検査の評価者内信頼性(ICC)については肩峰―ベッド間距離で.88、.91を、肩甲骨内縁―Th4棘突起では.50、.70を、LSSTは.82、.86、.70を超えていた(表3)。肩甲骨の位置の評価における3つのテストの内部一貫性に関するCronbach係数は両評価者ともに.88であった。ピアソンの積率相関分析の結果、自己申告の尺度と臨床検査の間に有意な相関はなかった。肩疾患の有無で臨床検査を比較すると、検者1では7項目中4項目、検者2では7項目中6項目、疾患を有する側の平均値が高かった。(表1、2)

【Discussion】 

 評価者間信頼性は肩峰―ベッド間距離とLSSTの2つのテストで高い信頼性が見られた。内部一貫性は.88と高く、3つの臨床評価が同じ基本的な側面を評価していることを示唆している。自己申告の尺度と臨床検査の間に相関が認められなかったことより、3つのテストいずれも症状の有無を区別することが難しく、臨床的重要性(肩疾患の有無の判別)については疑問が残る。しかし、様々な先行研究で肩疾患の有無で差が見られると報告されていることからさらなる実験、検討が必要だと考えられる。 

 

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【Critical Reading】

 本研究で3つの臨床試験の評価者間信頼性、内部一貫性が把握できた。ただ、自己申告の尺度(肩の疼痛、機能評価)と、臨床検査(肩甲骨の静的アライメントの評価)は異なる性質をみる尺度のため、両者で相関や臨床的重要性を判断するのは妥当な方法でないと考える。そのため、各アウトカムが何を目的とする尺度なのかを吟味して使用していく必要がある。

 

担当者名:千田悠人

 


Journal Club 2021 #38


 Effects of core strength training on core stability.

(体幹強化トレーニングが体幹の安定性に及ぼす影響)

Shih-Lin Hsu,PTS.

The Journal of Physical Therapy Science.30:1014-1018,2018.

 

【Introduction】 

 体幹の安定性は、高齢者や障害者において姿勢保持だけでなく体位変換にも重要な役割を果たしている。腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋などのコアマッスルはフィードフォワード機能として重心位置の調節や、運動時に体幹の安定性を高めスポーツによる傷害の予防に役立つと考えられている。また、バルサルバ法を行なっている時に、コアマッスルを共収縮させるとバルサルバ法を行っていない時に比べて体の安定性が増すという報告から、バルサルバ法は姿勢制御にも影響を与えていると考えられる。そこで、本研究の目的はコアトレーニングがバルサルバ法を行った場合と行わなかった場合で、体幹の安定性に及ぼす影響を調べることとした。

【Method】 

 対象者は健常若年成人24名で、トレーニング群12名(男性8名、女性4名)と対照群12名(男性7名、女性5名)に。トレーニング群では、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋を鍛えるトレーニングを週5回、4週間実施させた。具体的なトレーニング内容について、腹横筋と多裂筋のトレーニングは30秒×10セット、横隔膜のトレーニングは3kgの重りを腹部に乗せた状態で腹式呼吸を10分、骨盤底筋のトレーニングは大腿にタオルを挟んだ状態の座位で会陰筋を最大収縮させる運動を15回×2セット実施させた。また、トレーニング前後では姿勢制御課題を実施した。姿勢制御課題は、バルサルバ法実施時と未実施時でそれぞれ2回行い、トレーニング前(以下:pre)とトレーニング後(以下:post)に、床反力計を用いて重心動揺を評価した。測定姿勢は、①静止座位(腕を胸の前で組み、できるだけ動かない)、②ダンベル挙上(5kgのダンベルを肘伸展させた状態で頭上に持ち上げ、保持する)、③ファンクショナルリーチ(前方へ最大リーチし、保持する)、④突発的外乱(静止座位の状態で後方から3kgのバッグを被検者の肩甲骨間に当てて、姿勢を保持する)の4つであった。評価パラメータには、①圧中心(以下:COP)の総軌跡長(以下:LNG)、②前後方向のCOP最大変動量と左右方向のCOP最大変動量を乗じて算出した面積(以下:REC AREA)、③RECAREAの2乗平均平方根(以下:RMS AREA)の3つを用いた。検定方法には、独立t検定(群間の比較)と従属t検定(群内の比較)を使用した。

【Results】

 静止座位の結果では、トレーニング群のバルサルバ法実施時、RECAREAがpreに対してpostで有意に大きかった。ダンベル挙上とファンクショナルリーチの結果、いずれも全パラメータで有意な差は認めなかった。突発的外乱の結果、バルサルバ法実施時と未実施時の両方でpost時にトレーニング群が対照群より有意にLNGが短かった。

【Discussion】 

 静止座位課題で、トレーニング群のバルサルバ法実施時にREC AREAのpostが有意に大きかったのは、対象者数が少ないことによる第2種の過誤の影響が考えられる。突発的外乱課題で、トレーニング群でLNGが有意に短かったのはCOPが前方に移動した後、より早く静止座位に戻ることが出来たからであると考える。また、上記の2つ以外のパラメータで有意差が生じなかった原因として、対象者数の不足や不適切なトレーニング強度などが考えられる。そのため、今後は対象者の変更や対象者数の増加、適切なトレーニングの強度設定、結果指標の再検討などをした上で追試をする必要がある。

 

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【Critical Reading】

 本研究では、トレーニング群と対照群だけでなく、バルサルバ有無など比較要素が多かったことや、パフォーマンスの指標となるパラメータやテストも複数混合していた。このことから本実験の結果で、どの点に着目すべきか曖昧な印象を持った。しかし、姿勢制御課題においてバルサルバ法の有無による違いを検討した点については、腹圧上昇と姿勢制御の関係を示す有用なデータの一つになるのではないかと考える。

担当者名:佐藤大生

 


Journal Club 2021 #37


 

Part and whole perceptual-motor practice of a polyrhythm

(ポリリズムの部分と全体の知覚運動練習)

Sarah Kurtz, Timothy D. Lee

Neuroscience Letters 338 (2003) 205-208

【Introduction】 

 メトロノームと上肢の空間的・時間的運動を協調させる際、メトロノームとの関係が複雑になる(ポリリズム)ほど演奏は難しくなる。ポリリズムのパフォーマンスは、聴覚刺激の知覚や練習方法によっても影響を受けると報告されている。先行研究によると、部分練習は片手演奏の学習には効果的であるが、両手で協調的にポリリズムを演奏する際の課題の全体から部分への転移効果はほとんどないとされている。ポリリズムを学習する際の問題として部分練習を行う際の知覚情報の寄与がある。この問題を説明するものに、イベントコーディング理論が挙げられており、部分練習の非効率性に知覚が寄与していること示す根拠とされている。この理論によると、部分練習はコードに表現される知覚情報が減少するため、ポリリズムの学習には適していないと考えられる。[目的]ポリリズム課題を使用し、両手のメトロノーム聴覚刺激(情報)を与えることによる部分練習の転移効果を明らかにすることとした。

【Method】 

 [対象者] 36名のボランティア(22~28歳、全員右利き)を12人ずつ3群(部分練習群、全体練習群、部分/全体練習群)に無作為に割り付けた。[実験課題]1周期(1800ms)のうち、左手2拍(タップ間距離900ms)、右手3拍(タップ間距離600ms)タップする両手でのポリリズム課題(2:3ポリリズム)とした。[実験デザイン]本実験課題は2日間で3段階に分けて行った(段階1は1日目、段階2・3は2日目)。段階1では各群の練習を実施させた。部分練習群のうち半数の参加者には、左手で20試行実施させた後、右手で20試行実施させた。残りの半数には、逆の順序で実施させた。全体練習群には、両方のタップに対するメトロノーム音を聞きながら両手でのタップを20試行実施させた。部分/全体練習群には、両方の音を聞きながら片手ずつ20試行実施させた。段階2では段階1と同じ練習方法で5試行ずつ実施させた。段階3では、3種類の転移テストをそれぞれ3試行実施させた。テストは、両手でのポリリズム課題と左手のみのタップ課題、右手のみのタップ課題の3つとした。[実験環境]被験者は、テーブルの上に固定された指先サイズのマイクロスイッチをタップした。[データ解析・統計解析]メトロノームの音とタップ情報を分析対象とし、パフォーマンスの指標はタップ間の持続時間の標準偏差とインターバル時間比とした。インターバル時間比は左手に対する右手の比率とし、ミスなくタップできた場合の比率は1.5であった(左手/右手=1.5)。統計解析には、二元配置分散分析を用いた。事後検定にTukeyの検定を用いて多重比較を行った。

【Results】

 タップ間の持続時間の標準偏差において、片手課題では群間に有意な差は認められず、ポリリズム課題では、全体練習群が他の2群よりも有意に小さかった。インターバル時間の比率において、片手課題では群間に有意な差は認められず、ポリリズム課題では、全体練習群と部分/全体練習群で部分練習群よりも有意に優れており、1.5に近い値を示した。

【Discussion】 

 部分練習群のインターバル時間の比率を詳しく見るとポリリズムではなく、単純なリズムを実施する傾向にあった。この結果は、先行研究と同様の傾向を示した。しかし、部分練習群がメトロノーム聴覚刺激を知覚的に認識できていなかったのか、あるいは認識した上で実行できていなかったのかは今回のデータでは不明であり、今後検討が必要といえる。また、部分/全体練習群の結果をイベントコーディング理論の観点から見ると、運動要素の部分練習をポリリズムの聴覚刺激(メトロノームのみ両手)により補うことで、一部の転移を促進させた可能性があり、さらにこのポリリズムの聴覚的コードによって、本実験課題のリズムでのパフォーマンスを促進することができたと考えられる。一方、部分練習群における各タップ間隔が長くなっていたことについては、部分練習群で学習したコードでは、ポリリズム構造の一部の学習にとどまり、両手による一連のポリリズムを学習するには不十分だったことが示唆された。 

 

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【Critical Reading】

 本研究の実験方法に関して、練習前テストが設定されていないため、結果が学習によるものかどうかについては判断する上で注意が必要である。しかし、本実験の知覚情報が運動パフォーマンスに影響を与えるという結果は、今後の研究を進める際に実験環境を統制する上では参考になる視点である。

 

担当者名:嶋田剛義

 


Journal Club 2021 #36


Measurement of Scapular Asymmetry and Assessment of Shoulder Dysfunction Using theLateral Scapular Slide Test : A Reliability and Validity Study

(LSSTを用いた肩甲骨の非対称性の測定と肩関節機能障害の評価:信頼性と妥当性に関する研究)

C J Odom,A B Taylor,C E Hurd,C R Denegar.

Physical Therapy2001;81(2):799-809.

【Introduction】 

 肩甲骨のアライメントの評価法はいくつかあり、その中の1つとしてKiblerが提唱したLSST(LateralScapular Slide Test)がある。Gibsonらは上記のテストにおいて低い評価者間信頼性を示したことを報告している。また、測定値の変動が大きい面や左右差の信頼性、肩の機能障害の有無を予測するための妥当性が未だに確立されていない現状がある。上記のことから、本研究の目的は①LSSTで得られる肩甲骨左右差のICC(1,1),ICC(2,1)を明らかにすること②肩障害の有無によるLSSTの有効性の検証とした。

【Method】 

被験者:ピッツバーグ大学のスポーツ医学センターから46名(18歳から65歳(30.0±11.1))の被験者を採用した。肩疾患を有する者が20名、有していない者が26名。肩疾患20名のうち19名が右利き、1名が左利きであった。損傷側は11人が右肩、9人が左肩であった。除外基準は姿勢や骨の変形があるもの、過去1年以内に手術を受けたもので神経筋骨格系の機能障害の既往があるものとした。取り込み基準は、肩外転90°以上の運動を行え、維持することができる18歳から65歳までのものとした。

測定方法:各テストポジション(肩外転0位,40位,90位)にて胸椎棘突起から肩甲骨下角までの距離を左右とも測定した。測定する際は印のついていない約45cmの紐を用いた。その紐の一端を胸椎棘突起当てて、その位置を維持したまま肩甲骨下角までを引っ張りそこに目印をつけた。別の機会に、一人がメジャーにて紐の目印までの直線距離を0.1cm刻みで測定しLSSTの距離とした。肩の病変の有無は測定中の理学療法士には分からないようにした。また自分の測定値と、他の理学療法士が測定した値は共有しないようにした。測定する理学療法士は、整形外科の外来で1年以上働くものを条件とした。

データ分析:測定値は、肩障害者は障害側―非障害側で、非障害者は右―左の値を差し引いて差の値を求め、記述統計を行なった。その後、2群の差を調べるために対応のあるt検定を実施。データの信頼性を見るために肩甲骨距離左右差のICCを求めた。加えて、肩甲骨の差の各測定値についてSDとSEMを算出し、測定の誤差を求めた。

【Results】

 LSST左右差のデータの信頼性(ICC)は全ポジションで高い値にはならなかった。また、肩障害群、非障害群どちらも左右差が小さく、データのバラツキ(SDとSEM)も大きかった。対応のあるt検定にて、障害側と非障害側の左右差を比較したが、統計学的有意差は認められなかった(p>0.05)。

【Discussion】 

 LSSTはICC(1,1)、(2,1)の信頼性が共に低く、データのばらつきも大きいため、肩甲骨の静的評価法としての信頼性が低いという結果になった。また、障害側と非障害側の左右差にも統計学的有意差が認められなかったことから、LSSTは肩甲骨の非対称性の有無と大きさを評価するためには妥当な方法でないことが示唆された。 

 

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【Critical Reading】

 肩甲骨の静的アライメントの定量的評価法であるLSSTの信頼性に着目した本論文であるが、その結果ICC(1,1)、(2,1)のどちらも低いテストであるという結果が参考になった。ただ、本研究の取り込み基準が幅広い疾患と年齢を対象としていること、信頼性をLSSTの左右差の平均値に対して実施していることを加味すると被験者間の計測値にばらつきが生じる可能性がある。そのため、取り込み基準をより詳細な疾患や対象年齢、関節可動域、筋力を規定して測定する必要があると考える。

 

担当者名:千田悠人

 


Journal Club 2021 #35


The Effect of Core Training on Posture

(コアトレーニングが姿勢に及ぼす影響)

Sibel Karacaoølu 

Academic Journal of Interdisciplinary Studies MCSER Publishing, Rome-Italy Vol 4 No 1 S2 April 2015.

【Introduction】 

 姿勢とは各セグメントを最適な位置に配置することであり、体を動かす度に関節がとる位置の組み合わせと定義される。望ましい姿勢とは、「関節にかかる圧力が最も少なく、エネルギー消費が最も少ない姿勢」と定義できる。体幹には姿勢を正しくする筋肉が含まれており、体幹を鍛えることは正しい姿勢をとるという観点からも重要である。コアトレーニングには腹部、腰部、股関節を調節し、安定させる筋肉を鍛える運動が含まれる。以前、座り仕事をしている女性に対して、コアトレーニングの効果を分析した先行研究はあったが、スポーツ選手の姿勢に与える影響についての研究は未だない。そこで本研究の目的は、コアトレーニングが男子バレーボール選手の姿勢へ及ぼす影響について明らかにすることとする。

【Method】 

 研究デザインとしては「pre-postテストの対照群を持つ準実験モデル」を使用。対象者は19~24歳の男子バレーボール選手21名で、群分けは治療群(11人)と対照群(10人)とした。評価方法としては、NYPA(New York Posture Analysis)評価用紙を使用し、試験開始時(pre)と10週間後(post)に評価。NYPAでは、13個の身体部位に起こる変化を評価する。正常な姿勢は5点、中等度の姿勢問題は3点、重度の姿勢問題は1点、合計は最大65点、最小13点となる。45点以上を「非常に良い」、40~44点を「良い」、30~39点を「中間」、20~29点を「弱い」、19点未満を「悪い」とした。コアトレーニングプログラムは、治療群のみ適用にし、週3日(月、水、金)、10週間にわたり計30回を実施。プログラムはウォーミングアップ、コアエクササイズ、クーリングで構成。最初の6週間は中級レベル、最後の4週間は上級レベルのコアトレーニングを実施。検定方法としては、独立T検定(群間の比較)と、従属T検定(群内の比較)を使用。

【Results】

 preテストでは、治療群と対照群に各項目で差は認められなかった(表1)。postテストでは、対照群に対して治療群で、肩の中心、体幹、腰、姿勢のトータルスコアの改善が見られた(表2)。治療群のpre-postテストを比較した結果、介入により首、胸、肩の中心、腰に改善を認めた(表3)。対照群でのpre-postテストを比較した結果、各項目で改善は認められなかった(表4)。

【Discussion】 

 本研究の結果、コアトレーニングはスポーツ選手の姿勢を改善することが明らかになった。特に、肩、体幹、腰部で改善がみられ、コアトレーニングが体幹筋の持久力や強さに影響を与えるということを示唆している。また、Selvendizらの先行研究でも今回の結果を支持する結果が示されている。対照群では改善が見られなかったことから、日常生活は姿勢改善には影響しないことを示唆している。 

 

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【Critical Reading】

 使用されたコアトレーニング内容の記載がなく、NYPAでは測定時の指示の内容や測定基準などがわからないため、実験として不透明な部分が多い。また、NYPAは順序尺度のため、代表値としては平均値ではなく中央値を用いた方が適切ではないのかと感じた。

 

担当者名:佐藤大生


Journal Club 2021 #34


Measurement of Scapular Asymmetry and Assessment of Shoulder Dysfunction Using the Lateral Scapular Slide Test : A Reliability and Validity Study

知的障害のある労働者を対象とした部分法と全体法の比較

 Nettelbeck T, Kirby NH

Journal of Occupational Psychology, 1976, 49: 115–120.

【Introduction】 

 部分法と全体法の相対的な優位性についていくつか議論されているが、知的障害者を対象とした研究では部分法による有効性が多く報告されている。また、実験室でのデータにおいて漸増的部分法(最初に課題を部分に分けて練習した後、徐々に大きな要素に結合させて練習する方法)は、純部分法に優る有効性は示されていない。一方、単純な実験室の課題よりも複雑な産業環境において、漸増的部分法の練習で、課題を構成する要素間での転移効果が示されている(Salvendyら,1973)。さらに、彼らは漸増的部分法による練習の利点として、学習者が課題の構成要素を結合させる際に重要な部分に注意を向けることに役立つことを挙げている。[目的]軽度の知的障害を有する若年女性を対象とした、全体法、純部分法および漸増的部分法の学習効果を比較することであった。[仮説]実験課題は工業用ミシンに糸をセットすることであり、産業界で用いられる実用的な課題であるため、漸増的部分法が最も学習の効率が良いであろうと仮説を立てた。

【Method】 

 [対象者]女性30名(平均22歳:17歳〜33歳)で、ウェクスラー成人知能スコア48〜83点(平均67±9点)であった。[実験環境および手順]10名ずつ3群(練習方法)に割り付けた。3群はIQと年齢の平均値が概ね一致していた。実験課題は、工業用ミシンに糸をセットすることとした。糸をセットするために必要な12ステップを組み合わせ、4つの独立した構成要素A、B、C、Dを設定した。本実験課題においては、試行を4回連続でミスなく遂行できた場合に運動学習効果として認められた。各群の練習方法について、純部分法群には、A、B、C、Dを個別に練習させた後、最後に課題全部をまとめて実施させた。漸増的部分法群には、A、Bの個別練習、A、Bを組み合わせた要素の練習、Cの個別練習、ABCをまとめた練習、Dの個別練習、の順に行わせ、最後に課題全体をまとめて実施させた。全体法群には課題全体の最初から最後までを反復して練習させた。練習前に検者が課題を1回実演した後、検者の指導のもとで被験者が課題を1回実施した。練習中にエラーが生じた場合は、試行後にフィードバックを与え、正しい手順をもう一度指導した。パラメータとして各試行の所要時間と、エラー数の合計を記録した。練習終了から1ヶ月後に対象者30人中29人が事前の指導なしで全課題のテストを受けた。練習と同様にエラーが生じた試行後に指導が行われた。

【Results】

 練習初期において、全体法群よりも部分法群でエラー数が有意に少なく、さらに所要時間も有意に短かった。漸増的部分法群と純部分法群を比較すると、エラー数と所要時間に有意な差は認められず、1ヶ月後のテストにおいても群間に有意な差は認められなかった。

【Discussion】 

 本実験では、対象を軽度の知的障害を有する者とし、比較的独立した要素に分割できる作業課題において、全体法よりも部分法による練習が相対的に有利であることが示唆された。しかし、純部分法と漸増的部分法の間に有意な差は認められなかった。漸増的部分法の特徴として、純部分法よりも指導者に多くの時間と注意が要求されると言われており、また、課題が組立作業や製造課題の場合には多くの練習教材を必要となる。この特徴について、Toye (1969)は、理論的な観点では必ずしも漸増的部分法が効果的な練習方法と言えないが、仕事などの日々変化する状況に耐えうる応用的な練習方法として重要であると強調している。また、様々な要素の統合が求められる複雑な課題や、他の練習方法での学習が困難である特定の個人に対しては、漸増的部分法による練習が効果的である可能性が示唆された。

 

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【Critical Reading】

 本実験の方法に関して、練習の試行回数が統制されていないことや具体的な実験デザインの未記載などの不明点が多い。したがって、実験結果は慎重に解釈する必要がある。一方で、全体法・部分法の基礎研究において機能障害を有する者を対象とした実験は少ないため、貴重な知見である。

 

担当者名:嶋田剛義

 


Journal Club 2021 #33


The Role of the Scapula in the Rehabilitation of Shoulder Injuries

(肩障害のリハビリテーションに対する肩甲骨の役割)

Micheal L. Voight, DPT, OCS,SCS,ATC;BrianC. Thomseon,SPT

Jounal of Atheletic Training 2000;35(3):364-372

 

【purpose】

 肩甲骨周囲の評価や治療はよく忘れられており、このことは肩甲骨の機能不全につながる。そのため、肩の機能や仕組みを理解し、障害された肩甲帯周囲のリハビリテーション知識、技術について理解することを本論文の目的としている。

【anatomy】

 肩甲骨は胸郭(鎖骨)と靭帯を介して肩鎖関節を作っている。肩甲骨は多くの筋群によってその位置が保持されている。肩甲上腕関節には回旋筋腱板が存在し、協調して働くことで、肩甲上腕リズムが維持されている。しかし、筋力低下や筋疲労、微小外傷、軟部組織のインピンジメントによってこの作用が障害され、円滑な上肢の関節運動が損なわれると報告されている。

【the role of the scapula】

 肩甲骨には大きく3つの役割がある。1つ目は、肩甲上腕関節の動的安定性の維持である。特に肩甲上腕リズムでの受け皿としての機能と、インピンジメントの防止が重要である。2つ目は、筋の付着部としての役割である。また、筋の付着によって肩甲骨のアライメントが保たれている。さらにはフォースカップル機構を可能にさせている。3つ目は、足や体幹のエネルギーを上肢に伝える役割を担っている。

【pathomechanics】

 肩甲骨周囲で発生するほとんどの生体力学的な異常や過用による障害の多くは、肩甲骨の安定を保つ筋群の機能変化と関係が深い。このことは、肩甲骨のアライメント異常や肩甲上腕リズムの異常、肩の能力低下につながる。また、肩甲骨安定に関する筋疲労の研究もあり,筋疲労も肩甲骨のアライメント異常に関与することが報告されている。

【evaluation】

 肩甲骨の静的評価法は肩甲骨を後方から評価し、動的評価法はゆっくり滑らかに運動させ評価する。Kiblerは、肩甲骨内転運動を等尺性収縮で5〜20秒間行うテストを考案している。このテストは、肩甲骨の筋力低下があると15秒以下で痛みを生じるとされている。また、脊柱と肩甲骨下角の距離を見るLSS(Lateral scapular slide)テストも考案しており、異常な左右差は、1.5cmとしている。

【rehabilitation】

 障害初期には筋疲労を生じない程度で実施し、徐々に痛みが減少してきたら運動強度を高くしていく必要がある。介入の始めはストレッチからが良いと言われており、拮抗筋のストレッチも重要である。運動やストレッチを行う際は、正しいフォームで実施することが重要である。

 以下に、肩甲骨の安定性と動作を改善するコアテクニックを紹介する。

①  scapular clock(図4) ②towel slide(図5) ③Pro Fitter standing weight shift(図6)④PNF pattern(図7)  ⑤lawnmower(図8) 

 以下に、肩甲骨の位置、肩甲上腕リズムの促進、インピンジメントの可能性を減らす運動を紹介する。① Ball stabilization(図9) ②PNF D2 pattern(図10) ③Alternating serratus anteriorpunches(図11)④Plyometric exercises using weighted balls with a Plyoback(図12) ⑤Latissimus pull down(図13)

 

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【Critical Reading】

  本論文を読んで、肩甲骨の役割を幅広く学ぶことができた。ただ、本論文中で紹介されている内容は実際に効果を検証しているわけではなく、1例の紹介である。そのため、どれだけの効果があるのかが不透明であるため、より深い内容を参考文献や教科書で読み進めていく必要がある。

 

担当者名:千田 悠人

 


Clinical Measurement of Postural Control in Adult

(成人における姿勢制御の臨床測定)

FB HORAK.

Volume 67/Number 12,December 1987.

【Introduction】

 姿勢制御とは、重力下で平衡を維持する能力である。重力環境において人は常に不安定な状態にあることから、姿勢制御は常に行われている可能性がある。これまでのバランステストの多くは、大きな外乱を用いることにより、保護反応の出現が予測されるものであった。しかし、姿勢制御とは反射のみならず、様々な機能が組織化されてなされるものである。この姿勢制御の複雑な機能的要素を特定するための測定ツールは開発されていない。本文では、姿勢制御を評価するための新しい測定ツールを開発する際に考慮すべき基本的な以下の要素について説明する。1)生体力学的要素、2)運動協調要素、3)感覚要素。

【Biomechanical】

 姿勢制御を評価する最初のステップは、筋骨格系を評価することである。筋骨格系の障害は、平衡維持と運動戦略に影響を与える可能性がある。平均的な成人の立位姿勢では、耳介、肩峰、大転子、外側顆、外果が重心線に含まれる。足部への重心投影では、重心は両足部の間にあり、外果の前方2cmに配置される。姿勢調節は、評価尺度を使用するか、解剖学的ランドマークとグリッド線または鉛直線を比較して、ゴニオメーター、定規を用いることで測定出来る。重心は、床反力計またはstabilimeterにより、静止立位で推定出来る。立位におけるセグメント間と重心の関係の標準的な測定方法は、臨床に役立つ。

【Motor Coordination】

 様々な条件下での平衡反応の正確な運動学的記述は、まだ開発されていない。動揺に対する典型的な反応として、足関節戦略、股関節戦略およびステップ戦略が報告されている。それらの戦略は、支持基底面の広さや揺れの大きさによって、使い分けられる。足関節戦略は、広い支持基底面で小さな外乱、股関節戦略は、狭い支持基底面で大きな外乱、ステッピング戦略は、足関節・股関節戦略では対応出来ない場合に用いられる。また、姿勢制御は、フィードバックだけでなく、フィードフォワードの結果としても発生する。フィードバックとフィードフォワードによる重心を調整するための基本的な運動戦略は、非常に似ている。

【Sensory Organization】

 以前に、感覚条件を変更して行うバランステストが考案されている。2つの異なる床面(安定および不安定)と3つの異なる視覚状態(開眼、閉眼、および不明瞭な視野)を体系的に組み合わせることで6つの異なる感覚条件でのテストを可能とした。しかし、姿勢制御の臨床試験が信頼出来るものであるためには、感覚状態、平衡位置、口頭指示、行動基準、および使用された運動戦略が明確に定義されている必要がある。また、各条件で複数の試行を許可することにより、練習の重要性も考慮する必要がある。

 

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【Conclusion】

 姿勢制御は複雑であり、現在のバランスの測定では評価できない。姿勢障害のリビリテーションを具体的かつ効果的にするためには、測定によって姿勢の問題をその基本的な構成要素に分離する必要がある。理想的には、姿勢制御を評価するためのツールには、1)姿勢制御システムの機能と効率性の両方を反映する測定、2)感度や選択性が高く、3)信頼性が高く有効であり、4)理学療法士が実践するために実用的な手段(実施しやすい)、この4つが含まれているとよい。

 

担当者名:佐藤 大生

 


Journal Club 2021 #32


Changes in Practice Schedule and Functional Task Difficulty: a Study Using the Probe Reaction Time Technique 

(練習スケジュールと機能的課題難易度の変化:プローブ反応時間法を用いた研究)

Kazunori Akizuki, YuKari Ohashi

J. Phys. Ther. Sci. , 2013;25: 827–831

【Introduction】

 ブロック練習よりランダム練習の方が運動学習に優れていると報告されている(文脈干渉効果)。一方で、複雑な課題を用いた先行研究では、課題難易度と学習者の技能レベルに依存すると言われている。その説明として、Challenge point frameが提案されており、課題難易度を名目的課題難易度(課題固有)と機能的課題難易度(課題と技能レベルと練習条件に関連)に分類している。また、この提案によれば、課題の情報量と学習者の情報処理能が一致した時(最適点に近づいた時)に最も効率的に学習効果が得られるとしている。また、二重課題は注意容量の測定に多く使用されており、プローブ反応時間(以下:PRT)により一次課題への注意要求を評価することができる。よって本研究の目的はPRTを用いた二重課題で機能的課題難易度を測定することで、練習方法が機能的課題難易度に与える影響を明らかにすることであった。

【Method】

[Subject]男子学生14名(平均年齢21.5±1.1歳)とした。[Procedure]実験課題は、2つの課題で構成され、一次課題は歩行課題であり被験者は棘果長の60%、80%、100%の3つの歩幅条件に合わせて歩くものとした。歩行はトレッドミル上にて快適歩行速度で実施させた。被験者には踵に圧センサを装着した実験用靴を履かせた。1試行は25秒とし開始時と終了時に合図を与えた。被験者には課題中、真っ直ぐ前を見て行うように指示した。二次課題はPRT課題であり、音(50ms)を聞き、できるだけ早く「パ」と言って反応する課題だった。音は異なる間隔で5回提示された。

実験デザインは、被験者をブロック群とランダム群の2群に7名ずつ分けた。実験は 3段階(プレテスト、練習、ポストテスト)で4日間実施した。プレテストでは一次課題のみ実施し、結果の知識(以下:KR)を提供せず15試行(3種類の歩幅×5試行)実施させた。練習では二重課題を30試行実施させた。ブロック群には1種類の歩幅を10試行連続して実施させた。ランダム群には3種類の歩幅を10試行中にランダムで実施させた。PRT課題の音刺激は試行中に5回ランダムに提示された。各試行終了後に被験者に口頭で歩幅誤差に関するKRを与えた。10秒後、次の試行を開始した。ポストテストはプレテストと同じ条件で2~4日目に実施された。ポストテスト終了後、3分間の休息をとり、次の練習に移った。[Data analysis]パラメータは歩幅誤差とPRT延長率であった。歩幅 (cm)はトレッドミル速度(cm/msec)にステップ時間(msec)を乗じて算出した。ステップ時間は、一方のセンサの踵接地検出から他方の検出までの時間とした。歩幅誤差は提示された歩幅から実際の歩幅を引いた絶対値を棘果長で割った値とした。PRT延長率は歩幅提示時のPRTを歩幅の提示しない通常歩幅のPRTで割ったものとした。 [Statistical analysis] 統計解析には反復測定分散分析が用いられ、従属変数を歩幅誤差およびPRT延長率、独立変数を練習条件と測定日とした。有意水準はα=0.05とした。

【Results】

練習段階の歩幅誤差では、主効果および交互作用を認め、ブロック群で有意に誤差が少なかった。テスト段階の歩幅誤差においても主効果および交互作用を認めた。プレテストでは両群に有意差は認められなかったが、ポストテストではランダム群で有意に誤差が少なかった。練習段階のPRT延長率は主効果および交互作用を認め、1日目は両群に有意差を認めず、2日目以降はブロック群で有意に低値を示した。

【Discussion】

 本研究の結果、練習方法に関する先行研究と一致し、文脈干渉効果を支持するものだった。この結果は忘却再構成仮説と分散仮説により説明ができる。重要なのは、どちらの仮説もランダム練習による認知的負荷の増加が練習中のパフォーマンスを低下させるが運動学習を促すことである。本研究では文脈干渉効果により機能的課題難易度が変化したことが示唆され、ランダム練習で学習効果が高かったことから、機能的課題難易度が増加し最適点に近づいたと考えられる。よって、単純課題はランダム練習を、複雑な課題はブロック練習を行うことで機能的課題難度を最適点へ近づける可能性があると示唆される。

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【Critical Reading】

本研究の機能的課題難易度の最適点に関して、最適点に近づいたかの判断については、結果からみた解釈であるため、実際に近づいたかの判断は不明な点である。また歩幅誤差の結果から、3日目以降では練習、テストともに約1%の誤差であり、これを運動学習効果の差と判断するには注意が必要と考える。

 

担当者名:嶋田 剛義