Journal Club

Scheduled to start: April 2022


Journal Club 2022 -11.14


Long-term Prognosis and Impact of Osgood-Schlatter Disease 4 Years After Diagnosis

Osgood-Schlatter病の診断から4年後の長期予後とその影響について

著者:Clara Guldhammer, Michael Skovdal Rathleff, Hans Peter Jensen et.al 

雑誌名:The Orthopaedic Journal of Sports Medicine.2019.1-6

【Introduction】

膝関節の痛みは思春期に多く見られ、Osgood-Schlatter病(以下OSD)が最も頻度の高い疾患である。OSDの症状は12ヶ月~24ヶ月間持続する。OSD患者の約90%は症状が消失するため、「自然治癒する成長期の疾患」として認識されている。しかし、OSDの診断から約8年経過しても、身体活動やスポーツ活動に影響を及ぼしていることが報告されている。これまでの研究では患者報告によるアウトカムの数が少ない。そのため、OSDの長期的な予後や影響について、エビデンスに基づいた情報提供をすることが不十分である。本研究の目的は、OSDの診断から2~6年後の追跡調査にて、痛み・膝関節機能・身体活動・QOLを評価することとする。

【Method】

対象はICD-10-CM診断コードでOSDと診断された84名とし、SMSやFacebookを利用し、回答を依頼した。3日以内に回答が無い場合、リマインダ―を送信し再度回答を求めた。アンケートは患者情報(名前・性別・追跡調査までの年数)、膝の痛み(OSDの診断を受けた年齢・痛みの部位・痛みの継続期間・OSD以外の診断・現在の痛みの有無、1週間前の痛み・強さ・頻度)、膝関節機能(The Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score Sports/Recreation subscale「しゃがむ時」「走る時」「ジャンプする時」「膝を捻る・回す動作」「膝を突く動作」)、QOL(The youth version of the EuroQol 5 dimensions 3 levels:EQ-5D-3L-Y)、スポーツ活動(現在及び過去のスポーツ・スポーツの変更の有無)、治療(治療を受けた医療職種・治療の内容・鎮痛剤の使用の有無と頻度)の5つで構成した。統計解析は初めにQ-Qプロットにてデータの正規性を視覚的に確認した。次に、膝の痛みの有無による男女間の比較にX2検定・膝の痛みの有無による各スコアの比較に対応のないt検定を用いた。

【Results】

アンケートには、43名(男性31名、女性12名)が回答し、26名(約60%)が追跡調査時に痛みを訴えた(追跡調査期間の中央値3.75年)。初診時の平均年齢は12.6±3.2歳、追跡調査までの平均経過年数は3.75年であった。膝の痛みの継続期間は中央値90ヶ月であった。さらに、42.9%が日常的に痛みを有していた。KOOS Sports/Recreation subscale ・EQ-5D-3L-Yでは膝の痛みのある人が痛みのない人より有意に低かった(p<0.001)。スポーツ活動は、膝の痛みを訴える人のうち14名(53.8%)が活動時間を0-1時間未満に減少させていた。治療方法は、膝の痛みを有する患者の約70%が何らかの治療を受けていた。また、膝に痛みを有する26名のうち14名(約54%)がスポーツ活動量を減少させていた。

【Discussion】

本研究の結果から、OSDと診断された患者の60%以上が追跡調査時にも膝の痛みを有していた。OSDの診断から9年後に追跡調査を行った先行研究でも24%の患者が痛みを訴えていたにもかかわらず、OSDの長期的な影響を解明した研究はほとんど見受けられない。そのため、OSDは「時間経過とともに自然治癒する疾患」と考えられていたが、本研究の結果から、すべての患者が従来の考え方に該当するとは限らないことを示唆した。KOOS Sports/Recreation subscaleとEQ-5D-3L-Yの低下は痛みと痛みに伴う制限であることが示唆された。本研究はOSDと診断された方を対象としているため、診断の妥当性が高い。しかし、追跡調査時に臨床検査や超音波検査を実施しなかったことが本研究の限界である。今後は、OSDの症状と長期的な予後と影響について、さらなる前向き研究が必要である。

 

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【Critical Reading】

KOOSのスコアは順序尺度であるため、統計解析を実施せず、一覧表で提示するのが適切でないかと考える。さらに、KOOSの採点は各項目の平均点であるが、どの質問項目で減点していたのか詳細に記載すべきであると考える。

 

担当者:秋田 遥駿 


Three-Dimensional Clavicular Motion During Arm Elevation : Reliability and Descriptive Data 上肢挙上中の鎖骨の3次元運動:信頼性と記述データ

著者 : Paula M Ludewig , Stacy A Behrens , Susan M Meyer

雑誌名:Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy  2004;34(3):140-149.

【Introduction】

肩甲骨の運動は胸鎖関節(SC)と肩鎖関節(AC)の両者の組み合わせにて実現する。しかし、生体内の鎖骨の運動を測定することは困難であることからSCとACの複合運動は、しばしば単一の肩甲胸郭関節の運動として説明されている。これまで、上肢挙上中の鎖骨の動きを定量的に測定した報告は無く、肩甲骨運動への寄与は不明である。そのため、本研究では上肢挙上中の鎖骨の動きを表面センサーで測定し、無症状者における3次元運動を説明すること、また、その信頼性を明らかとすることを目的とした。

【Method】

被験者健常成人30名(年齢26.9±5.2歳、体重72.3±12.8kg、身長164.8±7.1cm)。無症状であることを既往歴の聴取・肩関節可動域検査・頸部可動域検査・疼痛誘発テスト・視覚的姿勢評価・前屈側弯テストなどのスクリーニングテストで確認した。除外基準は、肩140°挙上出来ない者、頸椎症性の病的症状を有する者とした。使用機器Polhemus社のモーションキャプチャーシステムを使用した。サンプリング周波数は30Hzとした。手順トラックセンサーを胸骨・鎖骨中央・肩峰に粘着テープで貼付し、鎖骨とセンサーの動きを視覚的・触覚的に確認した。初めにリラックスした立位姿勢を5秒間取り、静止時の運動学データを測定した。その後、上肢挙上運動を1周期4秒のリズムで3回反復させ、運動時の運動学的データを測定した。運動方向は矢状面・前額面・肩甲平面の3方向とした。上肢挙上は検者の目測で約120°になるまでとした。被験者内信頼性を明らかにするため、同検者11名にて同被験者を2回測定した。また、被験者間信頼性を明らかにするために、別の検者が5名の同被験者を測定した。加えて、5名の被験者は翌日も同様の手順で再測定し、日間信頼性を算出した。データ分析各被験者が各運動方向に運動した際の鎖骨の3次元運動を算出した。鎖骨の運動は、胸郭に対する上腕骨の挙上角度が10~110°(10°間隔)までのデータを算出した。また、信頼性データは上腕骨挙上角度が25°・50°・75°・100°・115°の際の数値を採用した。信頼性統計にはクラス内相関係数(ICC)と標準誤差(SEM)を用いた。

【Results】

各上腕骨挙上角における鎖骨運動の信頼性はICCが0.9以上、かつ、SEMが1°程度だった。再テストにおける信頼性は同日の被験者内・被験者間信頼性はSEMで概ね1~2°であり、日間SEMは2~4°であった。リラックス立位姿勢における、鎖骨の平均位置は挙上が−1.6°±3.3°、後退が18.2°±5.8°、後方回旋が0.5°±2.5°であった。上肢挙上に伴い、どの運動面でも鎖骨の挙上と後方回旋が出現した。一方、後退は屈曲時にはほとんど変化せず、外転時には増大する傾向にあった。

【Discussion】

 上肢挙上に伴い、鎖骨運動は挙上と後方回旋が増大することが分かった。また、鎖骨の後退は外転時と屈曲時で異なる動きをすることが分かった。測定信頼性では、評価者内信頼性及び評価者間信頼性、共に高い精度で測定可能であることが分かった。今後は、疾患を有する者の鎖骨運動データを解析し、肩甲骨運動異常への関連を明らかにしていく必要がある。

 

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【Critical Reading】

 本研究は上肢挙上中における鎖骨の運動を測定した初めての研究である。複数の研究で上肢挙上に伴い鎖骨の挙上・後方回旋・後退が出現すると報告されているが、本実験方法では屈曲時に後退するパターンと前方突出するパターンが存在すると述べられていた。これは、屈曲運動時は指先の前方リーチが生じている場合とそうでない場合があると考えられる。そのため、指先軌道が肩関節運動軸を中心とした半円となるよう統制することで鎖骨の運動パターンが顕著となると考える。

 

担当者:千田 悠人


Journal Club 2022 -11.07


Knowledge of Results for Motor Learning:Relationship Between Error Estimation and Knowledge of Results Frequency

運動学習における結果の知識:誤差推定と結果の知識の頻度との関係

著者名:Mark A. Guadagnoli Robert M. Kohl

雑誌名:Journal of Motor Behavior, 2001, Vol 33, No 2, 217-224 

【Introduction】

性差の影響を検討した複数の報告が存在しており、表面筋電図(sEMG)を使用した研究では、同強度の反復運動課題においては女性の方が高い正規化sEMG活動が出現することが報告されている。また、持続的筋収縮課題では女性は男性よりも疲労しにくいことがよく知られている。しかし、持続的動的反復課題中の性差について明確な報告はない。そこで、本研究では持続的動的反復課題中にて上肢帯の筋協調性の性差を明らかとすることとした。

【Method】

被験者17名の女性(年齢22.6±2.6歳、体重59.2±10.6kg、身長164.8±7.1cm)と、21名の男性(年齢24.4±3.8歳、体重76.8±11.7kg、身長178.2±7.0cm)だった。参加基準は、年齢18歳~35歳、BMI18.5~24.9kg/m2、NMQによる首や肩の筋骨格系症状がない、過去7日以内に首や肩の疼痛がない(VAS 0)こととした。除外基準は、循環器系やリウマチ、炎症性疾患を有するもの、投球スポーツを行なっているもの、反復手作業を行なっているものとした。sEMG僧帽筋(鎖骨線維(CUT)、肩峰線維(AUT)、中部線維(MT)、下部線維(LT))と前鋸筋(SA)に貼付した。サンプリング周波数は2000Hzとした。最大随意収縮(MVC)は各線維3回実施した。運動課題課題は座位にて2cm2・2gのピースを把持・操作を必要とする持続反復運動課題(SMT)である。ピースは6種類あり、卓上にピースをはめる板を設置した。ペースは1分間に21個とし、1時間連続して実施した。利き手肩を外転60°位でキープして実施できるよう肘の下に紐を設置した。データ分析sEMGは30-450Hzのバンドパスフィルターにて処理をした。MVCデータとSMTデータを二乗平均平方根(RMS)処理した。処理したデータからSMT/MVCにて正規化RMSを算出した。SMT開始時と終了時のSMTデータおよび正規化RMSデータから標準偏差(SD)と変動係数(CV)を算出した。また、正規化相互情報量(NMI)から各筋ペアの協調性を算出した。

統計解析時間要因(開始時/終了時)と性別要因(男性/女性)にて混合計画における二元配置分散分析を実施した。事後検定はボンフェローニ補正を用いた検定を行った。有意水準は危険率5%未満とした。

【Results】

1時間課題を行えたのは男性2名のみだった。ほとんどの参加者が途中で中止となった。正規化RMSより、男性に比べて女性の方がAUTとSAの値が有意に高かった。また、開始時に比べて終了時のAUT・LT・SAの値が有意に低かった。SDとCVは開始時よりも終了時のMT・LT・SAの値が有意に高かった。性別で有意な差は認めなかった。NMIはAUT―LT・AUT―SA以外の筋ペアで開始前よりも終了時に有意に値が低くなった。性別で有意な差は認めなかった。

【Discussion】

今回の持続的動的反復課題において、性差を認めたのは正規化RMSのAUTとSAのみであった。疲労状態になった終了時においては、筋活動減少・運動変動性増加・各筋の協調性低下が見られた。性差の影響が少なかったのは、本課題では筋に与える負荷量が小さかったこと、先行研究と方法論が異なり課題特異性が関与している可能性があると考えられる。

 

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【Critical Reading】

 本課題設定では、卓上のどの部位にリーチを行うかで各筋のsEMG活動に変化が生じる可能性が高い。そのため、課題設定として運動学的尺度を統制し、筋活動を同条件にて比較する必要があると考える。また、肩甲上腕関節の影響が大きい課題のため、三角筋や上腕二頭筋等の筋活動も計測する必要があると考える。または、課題設定の際に肩甲帯のみの課題とする等、運動と解析を一致させる必要がある。

 

担当者:幾島 健太 


Journal Club 2022 -10.24


Are there sex differences in muscle coordination of the upper girdle during a sustained motor task? :持続的運動課題中における上肢帯の筋協調性の性差はあるか?

著者:Marina Machado Gid , Ana Beatriz Oliveria , Leticia Bergamin Januario

雑誌名:Journal of Electromyography and Kinesiology 2019;45:1-10.

【Introduction】

性差の影響を検討した複数の報告が存在しており、表面筋電図(sEMG)を使用した研究では、同強度の反復運動課題においては女性の方が高い正規化sEMG活動が出現することが報告されている。また、持続的筋収縮課題では女性は男性よりも疲労しにくいことがよく知られている。しかし、持続的動的反復課題中の性差について明確な報告はない。そこで、本研究では持続的動的反復課題中にて上肢帯の筋協調性の性差を明らかとすることとした。

【Method】

被験者17名の女性(年齢22.6±2.6歳、体重59.2±10.6kg、身長164.8±7.1cm)と、21名の男性(年齢24.4±3.8歳、体重76.8±11.7kg、身長178.2±7.0cm)だった。参加基準は、年齢18歳~35歳、BMI18.5~24.9kg/m2、NMQによる首や肩の筋骨格系症状がない、過去7日以内に首や肩の疼痛がない(VAS 0)こととした。除外基準は、循環器系やリウマチ、炎症性疾患を有するもの、投球スポーツを行なっているもの、反復手作業を行なっているものとした。sEMG僧帽筋(鎖骨線維(CUT)、肩峰線維(AUT)、中部線維(MT)、下部線維(LT))と前鋸筋(SA)に貼付した。サンプリング周波数は2000Hzとした。最大随意収縮(MVC)は各線維3回実施した。運動課題課題は座位にて2cm2・2gのピースを把持・操作を必要とする持続反復運動課題(SMT)である。ピースは6種類あり、卓上にピースをはめる板を設置した。ペースは1分間に21個とし、1時間連続して実施した。利き手肩を外転60°位でキープして実施できるよう肘の下に紐を設置した。データ分析sEMGは30-450Hzのバンドパスフィルターにて処理をした。MVCデータとSMTデータを二乗平均平方根(RMS)処理した。処理したデータからSMT/MVCにて正規化RMSを算出した。SMT開始時と終了時のSMTデータおよび正規化RMSデータから標準偏差(SD)と変動係数(CV)を算出した。また、正規化相互情報量(NMI)から各筋ペアの協調性を算出した。

統計解析時間要因(開始時/終了時)と性別要因(男性/女性)にて混合計画における二元配置分散分析を実施した。事後検定はボンフェローニ補正を用いた検定を行った。有意水準は危険率5%未満とした。

【Results】

1時間課題を行えたのは男性2名のみだった。ほとんどの参加者が途中で中止となった。正規化RMSより、男性に比べて女性の方がAUTとSAの値が有意に高かった。また、開始時に比べて終了時のAUT・LT・SAの値が有意に低かった。SDとCVは開始時よりも終了時のMT・LT・SAの値が有意に高かった。性別で有意な差は認めなかった。NMIはAUT―LT・AUT―SA以外の筋ペアで開始前よりも終了時に有意に値が低くなった。性別で有意な差は認めなかった。

【Discussion】

今回の持続的動的反復課題において、性差を認めたのは正規化RMSのAUTとSAのみであった。疲労状態になった終了時においては、筋活動減少・運動変動性増加・各筋の協調性低下が見られた。性差の影響が少なかったのは、本課題では筋に与える負荷量が小さかったこと、先行研究と方法論が異なり課題特異性が関与している可能性があると考えられる。

 

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【Critical Reading】

 本課題設定では、卓上のどの部位にリーチを行うかで各筋のsEMG活動に変化が生じる可能性が高い。そのため、課題設定として運動学的尺度を統制し、筋活動を同条件にて比較する必要があると考える。また、肩甲上腕関節の影響が大きい課題のため、三角筋や上腕二頭筋等の筋活動も計測する必要があると考える。または、課題設定の際に肩甲帯のみの課題とする等、運動と解析を一致させる必要がある。

 

担当者:千田 悠人 


The relationship between peak height velocity and physical performance in youth soccer players:少年サッカー選手の最大発育(身長)速度と運動能力の関係

著者:RENAAT M. PHILIPPAERTS, ROEL VAEYENS, MELISSA JANSSENS et al.

雑誌名:Journal of Sports Sciences, March 2006; 24(3): 221 – 230

【Introduction】

 運動能力は、思春期男子における生物学的成熟度と関係があり、早熟型と晩熟型ではより顕著に見られ、パフォーマンスも優れている。このような個人差は一般的に一過性である。晩熟型は、早熟型に多くのパフォーマンスの面で追い付く。しかしながら、サッカーにおける選考や選抜の機会が増えると、早熟型の選手が選ばれる傾向がある。これまで発達の時期における体格やパフォーマンスの変化を特徴付けるために最大発育速度(Peek height velocity:PHV)が用いられてきた。しかしながら、思春期のサッカー選手のPHVに対する運動能力の縦断的報告が得られていない。本研究の目的は男子サッカー選手における思春期のPHVに対する身体能力の発達を調査し、一般青年男子と比較することである。

【Method】

 対象は5年連続測定可能であった76人のうち、33名(研究開始時の年齢10.4-13.7歳、平均12.2±0.7歳)とした。測定項目は身長・体重・パフォーマンステスト(Eurofit test of physical fitnessとサッカー選手特有のパフォーマンステスト)とした。Eurofitの項目はFlamingo balance(FBA)、Bent arm hang(BAH)、Standing long(SLJ)、Sit-ups(SUP)、10×5 m shuttle run(SHR)、Plate tapping(PLT)、Sit and reach(SAR)、Shuttle run(ESHR)が含まれる。手指の握力テストは今回の分析では使用しなかった。サッカーに特化した項目としては、30m dush(DASH)と5×10m shuttle sprint(SSPRINT)、Vertical jump(VTJ)、Shuttle run(STEMPO)身長・体重・パフォーマンステストのデータは先行研究で用いられてきた修正非平滑化多項式法に当てはめた。測定は年1回(M1-5)行われたが、半年間隔を考慮(T1-7)した。その時点での速度(V1-7)を推定することができる。はじめに、4つの年次増加分(I1,I2,I3,I4)を計算し、1年間隔からの誤差を補正する。次に、2次(V2,V4,V6)及び、3次(V1,V3,V5,V7)の多項式を用いて、半年間隔の速度値を推定した。身長とパフォーマンス変数に関する個々の速度曲線は、身長のピーク速度で整列させた。平均速度曲線が作成でき、PHVの前後数か月の単位で定義された。

【Results】

身長のピーク速度と体重のピーク速度の平均年齢は同じであった(13.8±0.8歳)。身長と体重のピーク速度はそれぞれ9.7 ±1.5㎝year-1 と 8.4±3.0 kg*year-1 であった。FBA、PLT、BAH、SLJ、VTJ、SSPRINT、DASH、ESHR、STEMPOはPHVと同時に発達のピークを迎えた。SARはPHVの1年後に発達のピークを迎えた。

【Discussion】

 33名の選手のPHV時の年齢はウェールズの選手よりやや早い傾向を示すが、ヨーロッパ男子のPHV年齢(13.8-14.2歳)の範囲内である。思春期男子の筋力は平均してPHV後に発達のピークを迎えるがBAH・VTJ・STJはPHV時に発達のピークを迎え、その後も増加を示した。SUP・SHR・SSPRINTはベルギー・スペイン男子のデータと対照的であった。DASH・STENPOは先行研究と一致した。SARはベルギー・スペイン男子の結果と対照的であったがスペイン男子の結果とは同様の傾向を示した。ESHRはスペイン男子はPHVの8か月後発達のピークを迎えるのに対し、本研究ではPHVと同時に発達のピークを迎えていた。

 

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【Critical thinking】

 さらに、早熟と晩熟の定義付けがなされていない。Sit and reachについて、考察では腰椎柔軟性について触れている。Sit and reachは長座体前屈であるため、腰椎ではなくハムストリングスの柔軟性を示していると考える。そのため、腰椎の内容で考察を述べていくのは限界があると考える。

 

担当者:秋田 遥駿


Journal Club 2022 -10.17


Learning a partial-weight-bearing skill:effectiveness of two forms of feedback

部分荷重スキルの学習:2種類のフィードバックの有効性

著者名:C J Winstein , P S Pohl, C Cardinale, A Green, L Scholtz, C S Waters

雑誌名:Physical Therapy . Volume 76 . Number 9 . September 1996

【Introduction】

 部分荷重(PWB)は、理学療法士(PT)がよく教えるスキルである。PTがPWBを教える頻度は高いものの、最も効果的な練習条件は何か、さらには、一般的にこのスキルがどの程度習得可能であるかに焦点を当てた研究はほとんどない。臨床の場面において、同時フィードバック(FB)でのPWBのトレーニングがよく使用されている。最近の研究では、結果の知識(KR)を使用したPWBスキルの学習効果が示された。[目的]PWBでの同時FBと最終FBの練習効果を比較することである。[仮説]最終FBが同時FBよりも即時的なパフォーマンスには不利であるが、長期的なパフォーマンスでは有利である。

【Methods】

[対象者]60名(年齢:26.2±3.8歳、体重:66.2±12.6kg、目標体重:19.9±3.8kg)、松葉杖の使用方法を理解しているPT学生とした。[除外基準](1)2年以内に松葉杖を使用した、(2)身体または感覚障害があるもの、(3)体重が49.5kg未満または592kg以上とした。[課題]松葉杖を使用した状態で、体重計に乗り体重の30%を片側上下肢にかける。[手順]練習試行を80試行(40試行×2ブロック)、保持テストを20試行とした。[群](1)同時FB群、(2)最終FB群(①要約1-KR群、②要約5-KR群)の計3群とした。[データ解析]10試行を1ブロックとした。習得期(1~8ブロック)と保持テスト(9、10ブロック)、ブロック8と保持テストを分析した。従属変数は、被験者間の比較のために正規化し、正規化絶対誤差(NAE)と正規化変動誤差(NVE)を算出した。NAEは、実測荷重量と目標荷重量の差の絶対値を%とし、誤差の大きさを示す。NVEは、1ブロックの平均値における被験者内のばらつきを示す。[統計解析]混合計画における二元配置分散分析、多重比較法としてBonferroni法、有意水準は0.05とした。

【Result】

 [習得期]NAE:ブロック1から8にかけて、誤差が減少し、ブロック間・群間に有意差があった(p<.0001)。NVE:ブロック1から8にかけて、誤差が減少し、ブロック間・群間に有意差があった(p<.0001)。[保持期]NAE:ブロック間に有意差があり(p<.02)、群間にも有意差があった(p<.04)。NVE:ブロック間・群間に有意差がなかった。[習得期-保持期]NAE:群間に有意差があった(p<.0001)。同時FB群は誤差が大きかった(p<.0001)。NVE:群間に有意差があった(p<.0001)。同時FB群はばらつきが大きかった(p<.0001)。

【Discussion】

 本研究は、PWBにおける同時FBと最終FBの有効性を比較することであった。その結果、同時FBよりも最終FBの方が効果的であることが示された。同時FB群は、最終FB群と比較して、習得期の成績は安定していたが、保持期で同時FB群の成績は低かった。したがって、同時FBは、FBが利用できる場面ではパフォーマンスの正確性と再現性の両方を促進するが、FBがない場面ではパフォーマンスの正確性が低下することが示された。同時FBの学習効果の低下は、PWB課題や他の課題を用いた先行研究と一致した結果であった。同時FBは、運動に関する直接的な情報としてFBを利用できる。一方で、最終FBは、能動的な情報処理を促進させることができるため、運動学習に有効である。今後の検討としては、本研究では静的な運動課題であったため、動的な運動課題での検討が必要である。さらには、高齢者や障碍者を対象として検証も必要である。

 

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【Critical Reading】

 実験手続きとして、言語教示の内容が不明であるため、課題の理解が結果に影響した可能性がある。また、練習前テストを設けられていないため、被験者の練習前パフォーマンスの影響が懸念される。

 

担当者:幾島 健太


Journal Club 2022 -07.04


Qualitative clinical evaluation of scapular dysfunction: a reliability study

肩甲骨機能不全の定性的臨床評価:信頼性の検討

著者:W. Ben Kibler , Tim L. Uhl , Jackson W.

雑誌名:Journal of Shoulder and Elbow Surgery 2002;11(6):550-556.

【Introduction】

肩甲骨安静位と動的運動の変化は、インピンジメント、不安定性、腱盤損傷など多くの種類の肩障害と関連して広く認識されてきた。これらの変化は、反対側と比較した異常な運動や位置であり、肩甲骨の機能障害の臨床的徴候であると考えられてきた。これまで肩甲骨の運動異常を客観的に定量化するため、視覚的評価、体幹からの偏位量、3次元電磁波評価などが考案されてきた。しかし、これらの評価法は高価な機器を必要とする欠点があること、静的評価では肩甲骨の動的運動異常を適切に評価することが困難である問題点があった。そのため、我々は視覚観察にて肩甲骨の運動異常を評価する肩甲骨機能不全の臨床評価システムを考案した。本研究の目的は、本評価法の評価者内信頼性および評価者間信頼性を明らかとすることである。

【Method】

被験者26名(年齢29.5±9歳、体重81.2±15.95kg、身長178±11.9cm)。うち6名は肩の損傷歴がなく、可動域は正常であった。20名は腱板炎や肩関節不安定症、関節唇損傷の診断を受けているものとした。肩甲骨機能不全の臨床評価システム Type1:肩甲骨下内側の突出。Type2:肩甲骨内側縁の突出。Type3;肩甲骨上縁の隆起。Type4:左右対象。測定手順被験者は安静立位にて肩関節外転運動を3施行行った。運動面は前額面上と前額面より45°前方(肩甲平面)の2種類とし、運動速度は45°/秒で統一した。検査時、204cm離れた位置から運動課題をビデオ撮影した。各被験者のビデオ記録を盲検評価者が確認し、臨床評価システムType1~4に分類した。最初のビデオテープ観察日から17日後に2名の同評価者が同ビデオを視聴し、再度各被験者を評価した。統計解析理学療法士2名、医師2名が観測したデータを使用し評価者間信頼性をκ係数を用いて算出した。また、1名の理学療法士と1名の医師の初日と17日後の両データにて評価者内信頼性を算出した。

【Results】

医師の評価者間信頼性は0.31、理学療法士の評価者間信頼性は0.42であった。被験者内信頼性は医師で0.59、理学療法士で0.49であった。本評価法には中等度の一致度と信頼性があった。

【Discussion】

本評価法は、肩甲骨運動異常を簡便で非侵襲的、かつ、比較的迅速に評価可能である。また、肩甲骨運動異常を有する患者をより特定のパターンに分類するための診察手段として有用である。しかし、本研究の評価者間信頼性及び評価者内信頼性は中等度であり若干低いことが分かった。この原因として、4つのパターンでは十分説明できない可能性や、複合的なパターンの存在、3回の反復運動では不十分な可能性、ビデオ撮影では2次元しか捉えることができない、などの問題点が考えられる。そのため、本評価法を改良することで、より臨床家の中で肩甲骨の運動異常の分類を標準化出来る可能性がある。

 

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【Critical Reading】

肩甲骨運動異常は静的位置または動的運動異常を指す定性的な表現である。本臨床システムのType1~4は、安静時と肩挙上運動時のどちらにも定義が存在するため、肩甲骨運動異常を判別する評価法としては申し分ないと考えられる。ただ、本研究の実験方法では、運動課題中のどのタイミングで、各評価者がType1~4を選択したのかが不明瞭である。一般的に肩甲骨運動異常は、安静時・肩挙上位・肩挙上運動中など各フェーズによって出現しやすいTypeが異なることが報告されている。従って、安静時・肩挙上位・肩挙上運動中のフェーズ毎にTypeを選択させ、本評価法の信頼性を検討する必要があると考える。

 

担当者:千田 悠人


Anterior knee pain: an update of physical therapy(膝前部痛:最新の理学療法)

著者名:Suzanne Werner

雑誌名:knee Surg Sports Traumatol Arthrosc (2014) 22:2286–2294

【Introduction】

 膝前部痛は身体活動量の多い人に共通して見られる膝の不定愁訴の1つである。原因は不明であり、膝蓋骨の解剖学的な異常や膝屈伸時の膝蓋骨マルアライメントにより生じる膝伸展機構障害など多因子性であることも示唆されている。しかし、何故伸展機構障害が生じるのかは報告されていない。さらに、膝前部痛は思春期のオーバーユースに起因する可能性があると主張する著者もいる。

【Clinical examination】

[Symptoms and findings]

 膝前面痛の患者は多くの症状や訴えがある。臨床所見は下肢全体を注意深く観察するべきであり、大腿骨内旋増加は膝蓋骨のsquintingを引き起こす。

[Pain versus patellar instability problems]

 膝前部痛患者の多くは非特異的な疼痛を訴える。部位は前外側や後外側に及ぶ。また、膝蓋骨の不安定感を訴える者もいる。膝蓋骨が不安定な患者は、膝蓋骨の過可動性、トラッキング障害が顕著であり、運動中に訴えることが多い。

[Patellar position]

膝蓋骨の位置は矢状面上で大腿骨と平行、膝関節を20°屈曲位時の大腿骨内・外側顆の中間部に存在すること

が最適である。膝蓋骨の外側への傾斜は、膝前部痛の患者に比較的多く見られる。その原因は、膝蓋骨内側縁が外側縁より高くなるよう、外側膝蓋支帯のはたらきによるものである。内側広筋(VMO)の筋力低下は、膝蓋骨を外側への傾斜を助長する可能性がある。膝蓋骨尖が大腿骨長軸に対して外側にある場合、膝蓋骨の外旋を呈し、外側膝蓋支帯のタイトネスを示唆する。

[Weakness of knee extensors]

 膝前部痛の患者は、膝伸展筋が弱化していることが多い。膝前部痛の患者は膝伸筋と屈筋のアンバランスが頻繁に示され、膝伸展筋の筋力低下と膝屈曲筋が正常であることに依存する。その結果、健常者と比較し、ハムストリングス・大腿四頭筋の比(H/Q比)が高値になる。

[Vastus medialis versus vastus lateralis]

膝前部痛の患者では、内側広筋(VM)の筋力低下がよく見られる。一般的にVMは活動性が低く、伸展機構の中で最も脆弱な筋である。対して、外側広筋(VL)は高い活動性を持ち、膝伸展筋の中で最大の筋量と伸展力を構成しているため、VMとVL間のアンバランスに繋がる可能性がある。筋電図を用いた研究報告では、VLの収縮はVMO(内側広筋斜走繊維)の収縮より早く、膝前部痛患者ではコントロール群と比較し、運動制御に差があることが報告されていた。

[Muscle flexibility]

 Smithらは膝伸筋と屈筋の柔軟性の低下が膝前面痛と相関していることを明らかにした。大腿筋膜張筋と腸脛靭帯のタイトネスは膝前面痛と関連し、特に腸脛靭帯のタイトネスは膝蓋骨の外側偏位や外側へのトラッキング、外側傾斜を生じ、内側膝状体の弱化を引き起こす。特に膝前部痛患者は外側膝蓋支帯のタイトネスを示し、膝蓋骨の外側傾斜を引き起こす可能性がある。

 

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【Critical Reading】

これまで、OSDの要因についての報告では柔軟性・筋力・スポーツの活動頻度が主な視点であった。今回、膝前部痛に関するレビュー論文では膝蓋骨や膝蓋骨トラッキングに関連する靱帯の関与が確認でき、新たな視点となった。柔軟性については、これまでのOSDに関する報告と同様の見解を得ることができた。

 

担当者:秋田 遥駿


Journal Club 2022 -06.06


STRENGTH PROFILES IN HEALTHY INDIVIDUALS WITH AND WITHOUT SCAPULAR DYSKINSIS

肩甲骨運動異常を有する健常者と有さない健常者における筋力プロフィール

著者:Daniel C. Hannah , Jason S. Scibek , Christopher R. Carcia

雑誌名:The international Journal of Sport Physical Therapy 2017;12(3):390-401.

 

【Introduction】

肩甲骨の役割に関する研究は増え続けているが、肩甲骨の運動異常は発症させる正確な原因は完全には解明されていない。先行研究では、投球スポーツを行う被験者の中で肩甲骨運動異常有無群に群別し、運動異常を有する群では僧帽筋下部線維の筋活動が有意に低いという結果が報告されている。ただ、健常成人において同様の先行研究は存在しておらず、基礎データの収集が必要だと考える。そのため、今回の研究では健常成人を肩甲骨運動異常の有無で群分けし、肩関節複合体の筋活動を比較することを主目的とした。作業仮説は、肩甲骨運動異常を有する群で筋力が低下しているとした。

【Method】

被験者デュケイン大学健康科学部から本研究に志望した学生40名(年齢22.2±2.4歳、身長169.9±8.7cm、BMI23.7±3.1kg/m2、男性12名・女性28名、左利き3名・右利き37名)を対象とした。参加基準は①18歳から40歳②頸部や利き手(ボールを投げる方)肩の損傷や病歴がないこととした。除外基準は①筋力や上肢ROMに影響を及ぼす神経学的疾患がある②140°以上肩挙上不可③利き肩の手術歴がある④関節リウマチの診断がある⑤現在妊娠しているとした。データ収集中、肩甲骨運動異常を有する被験者が多い(68%)ことが判明した。そのため、13組のペアとなるよう運動異常を有する被験者14名を除外した。SDT McClureらが考案したScapular dyskinesis test(SDT)によって肩甲骨運動異常の有無を判断した。MMT僧帽筋上部、僧帽筋中部、僧帽筋下部、前鋸筋、棘上筋、内側回旋筋群、外側回旋筋群を測定した。筋力はHHDを用い定量的に計測した。測定は2秒間力を漸増し、3秒間最大努力させた。全ての筋で3施行行い、平均値を代表値とした。また、平均値を体重(N)で除し、基準化した。統計解析肩甲骨の運動異常の有無と筋力の差を比較するために独立変数を運動異常の有無、従属変数をMMT筋力とした混合計画における二元配置分散分析を行った。また、従属変数を筋力比(UT/LT、UT/MT、LT/MT、SA/UT、SA/MT、SA/LT、LR/MR)にて二元配置分散分析を行った。

【Results】

肩甲骨の運動異常と筋力の間に有意な交互作用を認めなかった。また、肩甲骨の運動異常による有意な主効果も認めなかった。一方、筋力では有意な主効果を認めた。筋力比も同様の結果だった。

【Discussion】

本研究は、肩甲骨運動異常を有する健常者と有さない健常者の肩周囲筋の筋力を比較した初めての研究である。結果は、両群に有意差な筋力差を認めなかった。このことは、健常者の肩甲骨運動異常の発症に寄与する要因は最大筋力ではない可能性を示唆するものであり、神経筋のコントロールなど他の筋パフォーマンスの要因が影響していると考えられる。また、健常者は意外にも肩甲骨の運動異常を有していることが明らかとなり、興味深い結果も得られた。そのため、健常者における肩甲骨の運動異常の有病率をさらに明らかにするため、今後さらなる調査も必要だと考えられる。

 

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【Critical Reading】

SDTは肩甲帯動的評価法なのに対し、MMT筋力の測定方法が静特性に依存していることが結果に影響していると考える。そのため、著者ら同様に神経筋のコントロールを課す動的な課題にて比較することが必要だと考える。しかし、肩甲骨周囲筋のみの動特性を評価する肩甲帯動的評価法は存在していない。今後、肩甲帯のみを課題とした評価法を開発し、肩甲骨運動異常の有無を明らかにしていく必要がある。

 

担当者:千田 悠人


Journal Club 2022 -05.30


Prevalence and Associated Factors of Osgood-Schlatter Syndrome in a Population-Based Sample of Brazilian Adolescents

思春期ブラジル人を対象としたOsgood-Schlatter Syndromeの有病率とその関連因子

Gildasio Lucas de Lucena , Cristiano dos Santos Gomes, and Ricardo Oliveira Guerra.

The American Journal of Sports Medicine. 2011:39;415-420.

 

【Introduction】

 思春期の男女はOsgood-Schlatter(以下OS)syndromeを含めた筋骨格系の影響を受けやすく、一般的に女性は8-13歳、男性は10-15歳で発症する。これは、骨端軟骨周囲の腱が急激に伸張することで骨端線に対し、過大な負荷が生じる。現在、世界では若手アスリートに対し、高いパフォーマンスを要求することが増えている。中でもバスケットボール・サッカー・バレーボールなどの多くの競技は筋・腱への過度な負荷や高い活動頻度が特徴的である。多くの場合、指導者が不在の中で不適切なトレーニングが行われるため、思春期の筋骨格系に外傷性及び退行性の変化が見られる。従って、本研究の目的は、OS syndromeの疫学的側面とその関連因子について思春期ブラジル人の人口調査に基づいて明らかにすることである。加えて、思春期の発達とスポーツ活動の条件下でOS syndromeの病因を明らかにすることとした。

【Methods】

対象は、ブラジルNatal-RN市の学校に在籍する青年期の児童とした。測定パラメータは、1.身体測定(身長、体重)、2.柔軟性(腸腰筋、大腿直筋、ハムストリングス)、3.下肢筋力、4.疼痛検査、5.パフォーマンステストを実施した。腸腰筋・大腿直筋の柔軟性評価は、Thomas testとその変法を用いた。大腿直筋短縮の判定基準は、対側下肢を屈曲した際、検査側の膝関節が伸展すると陽性とした。ハムストリングスの柔軟性はKendallらが推奨するStraight leg raise testにて実施し、股関節屈曲70°未満で陽性とした。大腿四頭筋・ハムストリングスの筋力検査はKendallらによって提唱された徒手筋力検査にて実施した。疼痛検査はVASを用いた。パフォーマンステストとして片脚・両脚ホップテストを測定した。統計学的分析はSPSS15.0にて行った。絶対度数及び相対度数の分布を解析し、OS syndromeの有病率を算出した。次に因果関係の仮説モデルやオッズ比の大きさに従い、説明モデルを構成した。OSの主要な要因をステップワイズ法・ロジスティック回帰分析にて説明モデルを構成した。

【Results】

 本研究では全956名(男性474名:49.6%,女性482名:50.4%)を測定した。本研究の年齢層は12-15歳(13.7±1.04)であった。スポーツは484名(50.6%)が行っており、472名(49.4%)は未実施であった。スポーツ選手のうち活動中に疼痛が生じたものは111名(22.9%)であった。大腿直筋短縮は74.6%で認められた。OS syndromeは94例で確認した。OS syndromeの発症は大腿直筋短縮と強い関連性が認められた。また、目的変数をOS syndromeの発症、説明変数を性別・年齢・身長・体重・性的成熟度・スポーツ活動・大腿直筋柔軟性としたロジスティック回帰分析の結果は、OS発症とスポーツ活動・大腿直筋柔軟性に有意な関連があることが認められた。

【Discussion】

本研究は疫学的観点から思春期ブラジル人のサンプルを用いて、OS syndromeの発症と原因に関連する人口統計学・身体的側面・臨床所見に焦点を当てた。平均年齢やスポーツ活動頻度、OSの検出数など本研究で得られた多くの知見はKujalaの研究から裏付けられた。思春期における骨組織の成長促進は、OS発症の危険因子となり得ることが認識されており、筋組織の成長が伴っていない状況で発生すると,筋腱移行部への過負荷を誘発する可能性がある。OS syndromeに関する要因についての最終的な説明モデルはスポーツの活動頻度と大腿直筋の柔軟性低下が主な予測因子となり得ることを示唆した。

 

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 【Critical Reading

 大腿直筋の柔軟性に関する測定方法は自動運動にて実施可能であるため、利便性・簡便性が高い。しかし、本研究における生物学的成熟度や性的成熟度の定義付けがなされていなかった。さらに、下肢筋力の測定は検者の力加減に依存するためHHDにて測定し、定量化するべきだと考える。疼痛検査においても疼痛の出現時期に関する記載が無かったため、細部まで調査するべきである。

 

担当者:秋田 遥駿


Representing others’ actions: just like one’s own? 

他者の行為の表現:自分の行為と同じように?

著者名:Natalie Sebanz, Gunther Knoblich, Wolfgang Prinz

雑誌名:Max Planck Institute for Psychological Research, Amalienstrasse 33, 80799 Munich, Germany Received 9 December 2002; accepted 13 February 2003

 

【Introduction】

 私たちの行為の多くは、単独で行われるのではなく、社会的文脈、特に他者の行為から影響を受けている。他者が私たちの行為にどのような影響を与えるかという研究には、主に2つの分野がある。一つ目は、社会的促進に関する研究であり、他者の存在や他者との共同行為によるパフォーマンスへの影響である。二つ目は、観念運動アプローチであり、他者の行為を観察することで、自分も類似した行為をとろうとする特定の傾向に関する研究である。多くの場合、人々は同じ行為をとるのではなく、課題の異なる側面を担当し、補完的な行為をとっている。本研究の目的は、他者の補完的な行為が、自分の行為にどのような影響を与えるかを調べることである。

【Method】

[Experiment 1] 参加者は40名(18~35歳)、指の方向(左or正面or右)およびリングの色(赤or緑)が画面に提示にできるだけ反応する改変したsimon課題とした。条件は、two-choice条件(個人実施/20名)、個人go-nogo条件(個人実施/10名)、共同go-nogo条件(10名)である。two-choice条件では、それぞれ一色ずつ左右のボタンで反応した。go-nogo条件では、1つのボタンを押し、どちらかの色に反応した。各条件において、参加者は無作為の順序で126試行を4ブロック実施した。

[Experiment 2] 参加者は36名(17~31歳)、実験1と同様の課題を実施した。条件は、プレゼンス群(20名)、フィードバックなし群(16名)である。また、実験1と異なる点がいくつかある。プレゼンス群では、隣にいる他者が何もしない状態で、共同go-nogo課題の自分の担当を行った。フィードバックなし群では、ボタンを押す音が聞こえないように耳栓とヘッドホンを装着し、ボタンを押す手を箱中に入れた。

【Results】

 [Experiment 1] エラー率は、two-choice条件(2.9%)、共同go-nogo条件(1.7%)、個人go-nogo条件(1.6%)であった。条件(個人go-nogo、共同go-nogo)と一致性(一致、neutral、不一致)の分散分析の結果、一致性に有意な主効果があり、かつ条件(two-choice、共同go-nogo、個人go-nogo)と一致性に交互作用があった。さらに、条件(共同go-nogo、two-choice)と一致性の分散分析の結果、条件と一致性のそれぞれに有意な主効果があった。

[Experiment 2] エラー率は、プレゼンス群の個人go-nogo条件では1.1%、共同go-nogo条件では1.6%、フィードバックなし群の個人go-nogo条件では1.8%、共同go-nogo条件では1.1%であった。群(プレゼンス、フィードバックなし)、条件(個人go-nogo、共同go-nogo)、一致性(一致、neutral、不一致)の分散分析の結果、それぞれの要因で有意な主効果があった。また、フィードバックなし群では、一致性で有意な主効果があり、群、条件、一致性で交互作用があった。さらに、事後検定(Newman-Keuls検定)でフィードバックなし群(共同go-nogo条件のみ)で一致と不一致に有意な差があった。

【discussion】

 今回の結果は、他者の行為が必要ない課題でも他者の行為が自身の行為に影響を与えることを示す証拠となる。私たちの考えでは、two-choice課題で通常観察される効果と同様に、共同go-nogo課題においても空間的な一致性効果が発見されたことは、他者の行為の選択肢があると他の反応に関する空間範囲も含まれ、刺激に関連しない空間範囲と重なっている。したがって、刺激から得られる空間情報に対する反応が自動的に活性化される。今回の実験で観察された共同一致性効果は、社会的文脈で出現する刺激に特有のものか、または空間範囲によるものかは、未解決である。今後、特に刺激側で空間的な一致性効果が生じるための追加的な実験が必要である。さらに今回の結果は、社会的相互作用が知覚と行為システムの密接な関連に依存することを示唆する証拠である。この関連を概念化する一つの方法は、ある具体的なレベルにおいて、計画された行為と観察された行為は機能的に同じであるという観念運動理論の仮説であり、この直接的な証拠は、fMRIやPETによって得られている。

 

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【Clinical Reading】

 実験設定として、パーテーションなどの仕切りがなく相手の行為が見えているため、結果に影響する可能性がある。また、試行回数がとても多いため、参加者の疲労などを考慮した試行設定が必要である。さらに、観念運動理論を明らかにするためには、fMRIやPETを使用しなければならないため、簡便性に欠ける。

 

担当者名:幾島 健太

 


Journal Club 2022 -05.23


Functional reach: a new clinical measure of balance.

ファンクショナルリーチ:バランスの新たな臨床評価法

著者:Pamela W Duncan, Debra K Weiner

雑誌名:Journal of Gerontology1990;45(6):192-197.

 

【Introduction】

直立姿勢維持は小さな支持基底面内の上で複雑なタスクが必要である。これまで、立位でのバランス評価として様々な静的タスクや動的タスクが考案されてきた。動的タスクの代表として圧力中心軌跡(以下:COPE)が知られているが、高価な機器を必要とするため臨床での使用には限界がある。今回、我々はCOPEと同様に動的バランス能力を示す指標としてFunctional Reach(以下:FR)を考案した。本研究の目的は、FRの信頼性と精度の検証及びFRに影響を及ぼす因子の推定である。

【Method】

被験者若年群(20-40歳、男16名、女28名)、中年群(41-69歳、男22名、女28名)、高年群(70-87歳、男20名、女14名)にて合計128名とした。除外基準は左利き、主要な整形外科または神経学的診断を有する者、過去6ヶ月以内に原因不明の転倒をした者、10分間立位保持できない者、上肢挙上制限がある者、肩関節に疼痛を有する者、感覚障害及び筋緊張異常を有する者とした。使用機器床反力計、FR測定用電子システム、48インチ測定器(ヤードスティック)FRリラックスした立位にて肩を測定器に対して垂直となるよう挙上した。手はグー、足部は裸足とした。その姿勢で1歩も動かずに、できる限り前方にリーチさせた。リーチ時は上肢を壁に接触させないようにした。もし、壁に触れた場合や1歩踏み出した場合はやり直しとした。測定は3回行い、代表値は3回の平均値とした。手順被験者に3つのブロックを設けた。第1ブロックでは簡便な神経学的検査と骨格系検査を実施した。正常な者のみ本研究への参加とした。第2ブロックでは床反力計とFR測定用電子システムを用いFRを測定した。第3ブロックではヤードスティックを用いFRを測定した。評価者間信頼性を検証するため、3ブロック目の17名の測定値を盲検化された2人の検者が記録した。また、再試験信頼性を検証するため14名の被験者が1週間以内に再テストを実施した。統計解析FR測定値を平均値と標準偏差で記述統計した。信頼性はICCを用いて評価した。精度は変動係数(標準偏差/平均値×100)を用いて評価した。相関はピアソンの積率相関を用いた。年齢と体格の影響は連続変数に対する線形モデリング手法を用いて解析した。

【Results】

年齢の増加及び身長が低いとCOPE及びFR測定値が減少する傾向が強かった。COPEとFRの相関は電子システムで0.71、ヤードスティックで0.69だった。また、身長及び四肢長とFRの相関は全ての0.8以上だった。再試験信頼性(ICC(1,3))は、COPEが0.52、電子システムが0.81、ヤードスティックが0.92だった。評価者間信頼性(ICC(1,3))はヤードスティックで0.98だった。変動係数はCOPEで7.5%、電子システムで4.4%、ヤードスティックで2.5%だった。

【Discussion】

FRは、日常生活上でも行われる立位でのリーチをシミュレートする測定方法である。そのため、バランス検査のみの位置付けとされていたこれまでの動的評価法とは異なり、FRを測定すること自体に意味があると考えている。今回の結果で、FRは優れた精度と評価者間信頼性を有していた。また、安価で信頼性の高い検査であることから、新たな動的バランスを測定する臨床評価法として我々はFRを提案する。今回、FRの測定値に影響を与える因子は、身長と年齢であることがわかった。今後はFRの測定特性を確立させていくと共に、高齢者の虚弱の指標としてFRを活用していく検証を進めていく。

 

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【Critical Reading】

 新たな評価法を確立する上で、COPEとFRの相関を記載し、基準関連妥当性を担保しながらもFR自体がより安価で簡便、かつ、測定方法自体に意義があると説明した本文献は大変参考になった。

 

担当者:千田悠人

 


Journal Club 2022 -04.25


Action Coordination in Groups and Individuals:Learning Anticipatory Control

集団と個人の行動調整:予測的制御の学習

Gunther Knoblich, Jerome Scott Jordan 

Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 2003,

Vol. 29, No. 5, 1006–1016

【Introduction】

個人が独立して行動する場合には、目の前の行動を内部で調整することができる。しかし、集団で行動する場合にはそのような調整は不可能である。先行研究では集団は内部プロセスの共有がないにも関わらず、予測した調整の学習をしていることから本研究の目的は、その能力の基礎となるメカニズムを調べることである。

【Method】

[対象] 111名(男性:41名、女性:70名)、年齢:19~35歳。[条件]個人(+):15人、個人(-):18人、グループ(+):30人(15組)、グループ(-):48人(24組)。[手順・実験機器] 画面中央にターゲット・トラッカーを500ms間表示し、トラッカーがターゲットに重なるようにした。両群の条件の共有される情報は、課題表示のみ。訓練試行:すべての参加者で12回。境界線に達した後、ターゲットが反対方向へ移動(方向転換:各試行×3回)。試行数:40回×3ブロック。ターゲット速度:遅い(3.3°/s)or速い(4.3°/s)。キーを押す強さ:弱い(0.7°/s2)or強い(1.0°/s2)。個人:左・右キー。グループ:各メンバー×1のキー(利き手でキーを押す)。左側の人:キーを押す➡左へ加速、右側の人:キーを押す➡右へ加速。個人(+)・グループ(+)条件:右のキーを押すと600Hz、左のキーを押すと200Hzの音が100msの間鳴る。試行順序:ランダム。[データ解析]一般的なパフォーマンス:データから6つの従属変数を導いた(パフォーマンス、協調戦略の獲得と実行)。パフォーマンス指標:絶対誤差。ターゲットターン:トラッカー-ターゲット距離・トラッカー速度の解析。予測調整戦略(Anticipatory coordination strategy:ACS)使用程度:3つの従属変数(①境界領域での予測的なブレーキの割合、②予測的にブレーキをさせるためにキーを押す回数/加速させるためにキーを押す回数、③連続する予測しないブレーキ間の時間的距離)。

【Results】

一般的なパフォーマンス(図2):ANOVA:条件、ブロック、難易度に有意な主効果があった。それぞれの要因において交互作用があった。Newman-Keruls検定:[ブロック1]個人(+)・グループ(+)、個人(-)・グループ(-)に有意な差があった。[ブロック3]グループ(-)・個人(-)、グループ(+)・個人(+)に有意な差はなかった。トラッカーとターゲットの距離(図3):AONVA:ブロック、難易度に有意な主効果があった。条件×難易度、条件×ブロックに交互作用があった。Newman-Keruls検定:[ブロック1]グループ>個人が有意に高かった。[ブロック3]条件間に有意な差はなかった。トラッカー速度(図4):ANOVA:条件、ブロック、難易度に有意な主効果があった。それぞれの要因において交互作用があった。Newman-Keruls検定:[ブロック1]速度:両グループ>個人、両グループ間に有意な差はなかった。[ブロック3]速度:グループ(-)>グループ(+)>個人が有意に高かった。予測的なブレーキ(図5):ANOVA:条件、ブロック、難易度に有意な主効果があった。それぞれの要因において、交互作用があった。Newman-Keruls検定:[ブロック1]両グループと個人との間に有意な差があった。[ブロック3]個人>グループ(+)>グループ(-)が有意に高かった。干渉率(図6):ANOVA:条件、ブロック、難易度に有意な主効果があった。それぞれの要因において、交互作用はなかった。Newman-Keruls検定:(難しい課題)グループ(-)>グループ(+)・個人で干渉率が高くなった。(易しい課題)グループ(-)>グループ(+)>個人が有意に高かった。予測ブレーキ間の遅れ(図7):ANOVA:条件、難易度に有意な主効果があった。ブロック×条件のみに交互作用があった。Newman-Keruls検定:(難しい課題)[ブロック3]グループ(+)・個人>グループ(-)で遅れが有意に大きかった。

【Discussion】

今回の結果から3つの主張の根拠となる。①行動フィードバックの顕著性は、ACSの使用および学習能力に影響を及ぼさない。②グループは個人よりも多くの調整問題に遭遇したが、これらの問題のほとんどは、課題の要求が増大する中でACSを発揮しようとしたことに起因する。③グループはパートナーの行動代替の状態に関する外部の手がかりを提供された場合、ACSの学習と実施に関する問題を克服することができた。

 

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【Clinical Reading】

本研究において、事前に12回の訓練試行を実施していたが、実施した意図の記載がなく不明である。また、試行の順序をブロック内でランダムにすることで難易度が格段に上がるため、課題の類似性が乏しく予測的な調整の学習効果を知るには難しいと考えられる。

 

担当者:幾島 健太

 


Journal Club 2022 -04.18


Differences in the activity of activity of the shoulder girdle and lower back muscles owing to postural alteration while using a smartphone .

スマートフォン使用時の姿勢変化による肩周囲筋および腰部筋の活動量の違い

                                                               Gen Adachi, Tomoki Oshikawa 

                          The Journal of Medical Investigation2020;67(3.4):274-279.

【Introduction】

 近年多く人がスマートフォン(以下:スマホ)を使用している。スマホを頻繁に使用する人は慢性的な腰痛、頚部痛、肩こりの発症が高いことが報告されている。また、スマホ使用時は、頚部前方突出や肩甲骨外転位など不良姿勢を取ることで、頚部筋の過活動や負担増加を呈すことが先行研究で報告されている。これまでスマホの使用と姿勢制御に関する研究は主に頚部に着目した研究が行われてきており、肩周囲筋や腰部筋の活動については散見されない。そこで、本研究の目的はワイヤー筋電図及び表面筋電図を用いて測定し、スマホ使用時の肩周囲筋及び腰部筋の活動の差異を明らかにすることとした。

【Method】

被験者健常成人男性16名(年齢:21±2歳、身長:170.9±5.1cm、体重:68.1±10.2kg)が本研究に参加した。除外基準は過去3ヶ月以内に腰痛、頚部痛、肩こりを発症したものとした。実験方法【姿勢分析】被験者の耳珠、肩峰、第7頚椎棘突起(以下:C7)、上前腸骨棘(以下:ASIS)、上後腸骨棘(以下:PSIS)、大転子にマーカーを貼付した。良姿勢は大転子と耳珠・肩峰が近い位置とした。不良姿勢は大転子と耳珠・肩峰が離れている位置と定義した。測定角度はC7と耳珠を結ぶ前方頭部角度(以下:FHA)、C7と肩峰を結ぶ前方肩角度(以下:FSA-C7)、大転子と肩峰を結ぶ前方肩角度(以下:FSA-GT)、ASISとPSISの傾きによる骨盤前傾角(以下:APT)を算出した。また、C7からの垂直線とASIS・PSISの中点を結ぶ垂直線との距離をASIS・PSISの距離で除し、100で乗した矢状軸距離率(以下:SVA)を算出した。【筋活動測定】バイポーラ筋内ワイヤー電極にて大菱形筋(以下:Rhom)、表面電極にて僧帽筋上部(以下:UT)、僧帽筋中部(以下:MT)、僧帽筋下部(以下:LT)、腰部脊柱起立筋(以下:LES)、多裂筋(以下:LMF)の筋活動を測定した。【最大随意等尺性収縮】全姿勢の施行終了後、最大随意筋収縮量(以下:MVIC)を測定した。無作為の順序でMVICを5秒間測定し、測定間に30秒の休息を設けた。【データ処理】各姿勢を10秒間保持し、中間5秒を解析した。筋活動は二乗平均平方根値を算出し、MVICで基準化した%MVICを算出した。統計解析全データの平均値と標準偏差を記述統計した。良姿勢と不良姿勢における各データを対応のあるt検定を実施した。

【Results】

不良姿勢は良姿勢に比べFHAの角度が有意に大きかった。一方、FSA-GT、APT、SVAの角度は有意に小さい結果となった。FSA-C7の角度に有意な差は認めなかった。筋活動では、不良姿勢のRhomとLTが有意に小さかった。一方、LESとLMFは有意に大きい結果となった。

【Discussion】

本結果より肩甲骨の良姿勢を保つためにはRhomとLTの活動が必要であることが分かった。先行研究ではRhom、MT、LTの機能低下が頚部痛、肩痛に繋がることが報告されており、今回の結果からスマホ使用による不良肢位はこれらの疼痛を誘発する可能性があることが示唆された。

腰部筋活動は不良姿勢で有意に増加しており、このことは体幹屈曲に伴う相殺トルクだと考えられる。腰部筋の筋活動増加は、筋・筋膜性腰痛に繋がる可能性がある。

 

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【Critical Reading】

 不良姿勢における頚部前方突出をFHA、SVAにて定量的に担保していることが参考になった。一方、肩前方突出においては肩甲骨のアライメントを評価する必要があるため、肩峰-肩甲三角とした計測にする必要があると考える。また、不良姿勢時の声がけを統制し、検者間信頼性を担保すべきだと考える。

 

担当者名:千田 悠人

 


The Osgood‑Schlatter disease: a large clinical series with evaluation of risk factors, natural course, and outcomes

オスグッドシュラッター病:危険因子・自然経過・予後に関する大規模臨床シリーズ

Hartmut Gaulrapp・ Christian Nührenbörger

2022 ;46(2):197-204

【Introduction】

現在、青年期スポーツの過負荷による急性あるいは慢性の脛骨結節(Tibial-tuberosity:TT)の局所疼痛は、現在、Osgood-Schlatter-disease(OSD)として知られている。動作時痛は、身体活動中やその後に発生し、局所的腫脹を伴う可能性がある。しかしながら、スポーツ場面を考慮した基礎的・臨床的研究は不足しており、OSDと身体活動の因果関係が不明確である。したがって、本研究の目的は、大規模なOSDグループを対象に、スポーツ特有の発生率、自然経過、後遺症、スポーツ活動の変化、安静時痛について明らかにすることとした。

【Methods】

2015〜2019年の期間で126名(18歳未満)の調査を行った。小児整形外科を受診、OSDの包括的基準(身体活動中または後、TTの疼痛が出現すること)を満たした者を対象として縦断研究を実施した。確定診断のため、身体検査、超音波、X線(側面像)、身長、体重を測定し、BMIを算出した。大腿直筋の短縮は踵臀距離にて測定した(正常:身長の2%未満、軽度:5%未満、中等度:10%未満、重度:10%以上)。データ収集として主なスポーツ歴・利き脚・頻度・症状の出現・最近6ヶ月の成長率を質問した。最終的には、動作時痛・安静時の局所痛・その時点の競技について質問をした。フォローアップは動作時痛の鎮静後に行った。

【Results】

男性101名、女性25名の平均年齢は12.8歳であった。全員の平均疼痛期間は6.7ヶ月、発症年齢は12.1歳と報告した。全126名(158膝)の患者のうち、左膝に89名、右膝に69名、両側に32名がOSDを発症していた。調査した集団はサッカー選手64名、バスケットボール選手18名、陸上選手7名、武道家6名、ハンドボール選手5名、その他は16名、スポーツ未実施者は10名であった。経験年数の平均は5年、3.1日/週であった。疼痛は常に運動後に出現していた。運動後1時間以内に疼痛を感じた者は67%、5時間以内に疼痛を感じた者は28%、5時間以上経ち疼痛を感じた者は5%であった。しかし、6%は運動中に疼痛を感じていた。片膝の罹患はサッカー選手全体の69.6%であった一方で、他の種目では有意な差は見られなかった。フォローアップは105名に実施できた。126名中105名(83.3%)の追跡調査が行えており、OSDの完治年齢は13.8歳であった。活動中・後のOSDの症状は平均19.1ヶ月で男女間・種目間に有意差は認められなかった。さらに、患者の症状消失が期待できる時期は16ヶ月目以降で50%、25ヶ月目以降で75%であった。78.8%の患者は膝を着く動作やTTを直接触れるような動作の際は支障のない疼痛が持続していた。また、28.3%の患者は競技を変更した。

【Discussion】

 OSDは主にサッカー・バスケットボールで活躍する思春期男子に発症する。バスケットボールの有病率はOSDの患者の中で最大の割合を占め、サッカー選手の6.2倍とも証明されている。先行研究ではジャンプ後の片側着地において膝関節伸展モーメント時の角運動量が最大であるのに対し、両脚着地はその1/2であった。先行研究では姿勢制御において軸脚が蹴り脚より優れている可能性を指摘しており、静的張力を伴うためであると報告されている。これは年齢を重ねる毎に強まるとされ、思春期のアスリートは酷使の影響を受けやすく、膝関節を損傷しやすい。また、OSDは90%以上が自然治癒であり活動量も自身で調節可能であるため最終的な結果は良好であることは本研究で証明された。今回はOSD患者の1/3が競技を変更していたが、先行研究にて不定愁訴の無い人も同様に変更していたと報告されており、本研究もそのためであると考えられる。

 

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【Critical Reading】

 本研究における「支障の無い疼痛」の定義について明確な記載が無かった。また、OSDの疼痛持続期間(図3)について、縦軸・横軸の単位の標記が無く、解釈に時間を要した。加えて、疼痛が消失する時期では16ヶ月目以降で50%、25ヶ月目以降で75%とあるが、25ヶ月目以降のグラフの傾きが他の時期とは異なり、急激に上昇しているため、この時期の特徴を考察するべきだと考える。アンケート調査の内容や項目は参考になった。例としてスポーツの項目では種目・経験年数・活動頻度など細部まで調査を行っていた。しかし、アンケート調査は発症時点や過去の経験に基づいた内容であると考えられ、想起バイアスが生じている可能性も否定できないため、解釈には注意する必要がある。

 

担当者名:秋田 遥駿