松坂 大毅 ーDaiki MATSUZAKA
略歴
<学歴>
2019 東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科 卒業
2021 東北文化学園大学大学院健康社会システム研究科前期課程 修了
<職歴>
2019 介護老人保健福祉施設美里(非常勤)
2019 特別養護老人ホーム国見苑 (非常勤)
2020 介護老人保健施設 やるきになる里 通所リハビリテーション(非常勤)
2020 ゆう貝ヶ森(非常勤)
2021〜 イムス明理会仙台総合病院
受賞
第23回宮城県理学療法学術大会 新人賞
研究テーマ・キーワード
職種・資格
メールアドレス
pt51511069◯gmail.com
(〇を@に置き換えて下さい)
<原著論文>
松坂大毅 、我妻 昂樹、嶋田 剛義、幾島 健太、藤澤 宏幸
理学療法教育,2023
松坂 大毅, 鈴木 博人, 我妻 昂樹 , 村上賢一, 鈴木誠, 藤澤 宏幸
理学療法におけるストレッチング技術の効果的な教授方法の検討
ー心理学における運動学習理論を応用してー
理学療法教育,2023
松坂 大毅,鈴木 博人,我妻 昂樹,村上賢一,鈴木 誠,藤澤 宏幸
ストレッチングにおける理学療法士の技術特性について
−肩関節外旋制限モデルを用いて−
東北理学療法学, 2021
<国内学会>
松坂大毅、我妻昂樹、嶋田剛義、藤澤宏幸
理学療法士の観察による歩行分析技術の信頼性と妥当性について(第2報) -経験年数の違いからみる技能向上の可能性とその要点-
第13回日本理学療法教育学会学術大会
松坂 大毅、藤澤 宏幸
行動制約モデルを用いた大腿骨近位部骨折患者の理学療法:行為レベルの目的を明確にしたアプローチの一提案
第12回日本運動器理学療法学会学術大会,2024
松坂大毅 、我妻 昂樹、嶋田 剛義、幾島 健太、藤澤 宏幸
理学療法士の観察による歩行分析技術の信頼性と妥当性について(第1報)
第12回日本理学療法教育学会学術大会
松坂大毅 、菅田晃平、芦生あすか、大場靖子、冨澤誠、菊池七恵、石垣悦子
急性期病棟を併設する回復期リハビリテーションにおける整形外科疾患患者の予後予測(第一報)- 大腿骨近位部骨折患者に着目して -
回復期リハビリテーション病棟協会 第41回 研究大会
松坂大毅 、鈴木博人、我妻昂樹、嶋田 剛義、藤澤 宏幸
理学療法士の歩行観察における困難感に関するアンケート調査
第11回日本理学療法教育学会学術大会
松坂大毅、岡野美月、鈴木博人
放線冠梗塞による運動麻痺により歩行能力低下をきたした症例へ理学療法介入ー介入経過中皮膚癌告知による精神的変調も考慮してー
第25回 宮城県理学療法学会学術大会
経験学習から見た理学療法士のジレンマ事例における調査報告
第5回日本理学療法哲学・倫理学研究会フォーラム
松坂大毅、鈴木博人 、我妻昂樹、村上賢一、 鈴木誠、藤澤宏幸
ストレッチング技術の要素により優れた教授方法が異なるー手本観察・徒手誘導・自己練習での検討ー
第24回宮城県理学療法学術大会
松坂 大毅、鈴木 博人、我妻 昂樹、村上 賢一、鈴木 誠、藤澤 宏幸
理学療法士のストレッチング技術の効果的な教授方法に関する研究
心理学における運動学習理論を応用して
第25回日本基礎理学療法学会学術大会(仙台・web)
松坂大毅、鈴木博人、我妻昂樹、村上賢一、鈴木誠
ストレッチング技術の効果的な教授方法に関する研究:pilot study
ー熟練した理学療法士の技術特性ー
第23回宮城県理学療法学術大会
松坂大毅、鈴木博人、我妻昂樹、村上賢一、鈴木誠、藤澤宏幸
ストレッチング・エクササイズにおける理学療法士の技術特性について
-肩関節外旋制限モデルを用いて-
第38回東北理学療法学術大会(山形・web)
<その他>
松坂大毅、鈴木博人、我妻昂樹、嶋田剛義、幾島健太、藤澤宏幸
理学療法士の観察による歩行分析技術の信頼性と妥当性について
第7回 基礎理学療法学 若手研究者ネットワーク シンポジウム
松坂大毅
私が研究をしている意味
第10回 イムスリハビリテーション学術大会
松坂大毅、鈴木博人、我妻昂樹、嶋田剛義、藤澤宏幸
理学療法士の歩行観察における困難感に関するアンケート調査
第6回 基礎理学療法学 若手研究者ネットワーク シンポジウム
松坂大毅、鈴木博人、藤澤宏幸
経験学習から見た理学療法士のジレンマ事例における調査報告
第5回日本理学療法哲学・倫理学研究会フォーラム
(視覚的歩行分析の評価者間信頼性における典型的な症例に対する臨床経験と指導の影響)
Hiroki Tanikawa, Kei Ohtsuka, Junya Yamada
Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science. 2019 Mar;12(1):14-20.
【Introduction】
視覚的歩行分析は、いくつかの利点がある一方、その評価は主観的である。これまで歩行分析の信頼性を検討した報告はあるが、一貫した知見は報告されていない。さらに、歩行分析の信頼性を向上させるための方法を検討した報告もまだされていない。本研究の目的は、脳卒中片麻痺患者の異常歩行パターンの重症度における評価者間信頼性を調査すること。また、臨床経験と評価前の情報提示における影響を調査することであった。
【Methods】
[被評価者]本実験では、50人の片麻痺患者が集められた。取り込み基準は、「ぶん回し歩行」かつ/もしくは「膝伸展スラスト」かつ歩行介助者を必要としない者であった。対象者の年齢は57±15歳、下肢のBrunnstrom recovery stageの中央値はⅣであった(範囲:Ⅰ〜Ⅵ)。被験者はトレッドミル上にて通常歩行を実施させた。評価映像は、ビデオカメラにて側面および背面から撮影した。撮影映像から4人の熟練理学療法士(physical therapists:PT)(経験年数:中央値 15.8年)が異常歩行パターンの重症度を5段階の尺度にて評価させた。[評価者]30人のPTを評価者として募った。PTの経験年数の中央値は5.8年であった(範囲:0.4〜14.4年)。本実験では、平均経験年数が等しくなるように2群(教示群、非教示群)に分けた。それから、各群にて経験年数別に2群(5年未満群、5年以上群)になるように割り当てた。教示群のみ、動作分析における一般的な事例の説明(※1)を行い、歩行分析を実施させた。一方の非教示群には、一切の説明を実施せずに歩行分析を実施させた。[手順] はじめに、全ての評価者に対し2つの異常歩行パターンの説明を実施した。次に、教示群に対して、熟練が5段階にて判定した内容についての説明(※1)を実施した。それから、教示群・非教示群ともに各片麻痺患者の歩行映像(1症例あたり15秒間)を視聴させ、異常歩行パターンの重症度を5段階の尺度で評価させた。[データ解析・統計解析] 異常歩行の有無における評価の一致度を確認するために、5(正常)または1〜4(わずかに〜かなり)と評価した割合を確認した。また、観察的評価時の信頼性における経験年数と一般的事例の説明の影響を検討するため、カッパ係数と重み付きカッパ係数、Spearmanの順位相関係数、Wilcoxonの符号順位検定を用いた。
【Results】
異常歩行の有無における評価の一致度は、ぶん回し歩行にて、膝伸展スラストともに、教示群の方が非教示群よりも高い値を示した。重症度の信頼性においても、教示群の方が非教示群よりも高い値を示した。ぶん回し歩行の一致率は、経験年数5年以上群で教示の影響が見られた。一方、5年未満群にて、教示の影響は見られなかった。膝伸展スラストの一致率は、経験年数5年以上群の方が5年未満群よりも高い値を示した。
【Discussion】
本実験にて、教示群は非教示群よりも高い信頼性を示した。これは、一般的事例の説明が評価者の主観的尺度の校正に作用したものと考えられる。さらに、5年以上群が5年未満群よりも高い信頼性を示したことから、経験年数と一般的事例の提供における組み合わせが、信頼性向上に寄与する可能性がある。
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【Critical Reading】
本実験では、熟練PTが評価した「一般的事例」の評価基準の提示が信頼性向上に寄与するかを検討した。結果は、信頼性向上に影響したことを示唆するものであったが、「一般的事例」の評価基準は、熟練PTの経験から評価されており、妥当性に関して考慮されていない。歩行分析にて臨床経験の有無が妥当性に影響しないことも報告されている(Serkan,2015)ため、本実験の歩行分析における妥当性に関しては注意して解釈する必要がある。
担当者名:松坂大毅
Accuracy and Reliability of Observational Gait Analysis Data:Judgments of Push-off in Gait After Stroke
(観察的歩行分析の正確性および信頼性について:脳卒中患者における歩行のpush-offの判定)
Jennifer L McGinley , Patricia A Goldie, Kenneth M Greenwood, Sandra J Olney
Phys Ther. 2003;83(2):146-60.
【Introduction】
歩行分析(OGA)は広く用いられており、研究が多数行われているが、その正確性や妥当性を保証しているエビデンスは少ない。歩行機能と関連すると言われている立脚後期のpush-offにおける分析においても研究が行われているが、その信頼性は低いとされ、実験手法や統計学的手法にも問題点が挙げられる。本研究の目的は先行研究を踏まえ、脳卒中後患者のpush-offの分析における信頼性や妥当性について明らかにすること。
【Methods】
[評価者]評価者は18人の理学療法士とした。本実験では臨床経験年数によって群分けをし、経験年数5年未満の者は非熟練群(平均経験年数:2.8年)に、経験年数が5年以上の者は熟練者群(平均経験年数:8.3年)に分けた。[分析対象]分析対象は脳卒中片麻痺患者であり、男性7名、女性4名の計11名とした。[装置・手順]分析対象者の歩行データは、分析対象者が快適な歩行速度で9mの歩行路を歩いたデータを用いた。片麻痺患者には反射マーカーを取り付け、矢状面から50Hzの高速カメラを撮影した。床反力データは、床反力計から測定した。測定データは、Butterworth recursive filter処理を実施した。評価者は、測定前に通常の足関節についての運動学的・運動力学的説明やpush-offについての説明を15分間受けた。各評価者は、ビデオテープより分析対象者の歩行を評価し、その際に映像の停止、繰り返し、スロー再生は認めなかった。測定は、4週間の間隔を設けて計2回実施した。[評価尺度]本実験では、push-offが見られない場合を0点、その上限を21点、通常のpush-offを11点とし、0から21点の比率尺度を用いて歩行映像におけるpush-offの値を評価させた。[データ解析・統計解析]評価者の正確性を検討するため、実測値との相関をピアソンの積率相関係数を用いた。また、評価尺度の正確性について検討するため、各評価者の相関係数における標準誤差を用いた。加えて、push-offにおける評価者内信頼性および評価者間信頼性を検討するため、級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)を用いた。
【Results】
各評価者が推測した値と実測値との間については、0.69から0.91の相関を示し、その平均値は0.84であり強い相関が見られた。各評価者の推測値における標準誤差については、0.38から0.67W/kgの値を示し、平均値は0.51であった。評価者間信頼性は0.79、評価者内信頼性は089であった。臨床経験おける正確性および評価者内信頼性の関係性においては、違いが認められなかった。
【Discussion】
本研究における正確性や信頼性を示す指標は、先行研究よりも高い値を示した。その理由として、これまで複数の評価変数を扱った先行研究とは異なり、本研究がpush-offのみの単一の評価変数を使用したことが高い正確性や信頼性に寄与したと示唆された。また、臨床経験年数の違いによって、分析の信頼性に差が認められなかった点については、本研究が単一の評価変数のみを扱ったことが影響していることが挙げられた。これまで複数の評価変数を用いていた先行研究の結果を踏まえると、評価変数の増大により経験年数の差による違いが現れることが示唆された。
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【Critical Reading】
本研究はpusu-off時における床反力について、床反力計による実測値と観察による推定値の誤差を検討しており、観察者が床反力を正確に推測可能かについて着目していた。しかし、psuh-offは歩行速度と相関があると報告されていることから、床反力の発生量は歩行速度から推測が可能であることが考えられ、実際に観察者が直接的に床反力を認識していたかどうかは定かではないと捉える。
担当:松坂大毅
Gaze Behavior of Gymnastics Judges: Where Do Experienced Judges and Gymnasts Look While Judging?
(体操競技審判員における視線行動:経験豊富な審判員と体操選手はどこを見ているか?)
Alexandra Pizzera , Carsten Möller , Henning Plessner
Res Q Exerc Sport. 2018;89(1):112-119.
【Introduction】
近年、体操競技など技術の質的側面を判定する際の意思決定過程について、視線行動の観点から明らかにする試みがなされている。これまでの先行研究にて、判定者がその競技を遂行可能である場合、より正確に判定することができるとの報告がある。しかし、この点に関して未だ詳細なメカニズムは明らかになっていない。本研究では、審判免許レベルの違いおよび判定する競技経験の有無(specific motor experience:SME)により視線行動がどのように異なるかを明らかにすることを目的とした。
【Methods】
[被験者]被験者は35人の女性審判員。本実験では判定課題であるハンドスプリングが遂行可能な者をSME有、不可能な者を SME無群とした。さらに、審判免許レベルにおいても群分けされ、国際免許レベルがAからCの者をhigh-level judges群(HLJ群)、レベルDの者をlow-level judges(LLJ群)とした。[ビデオ映像]被験者には、体操選手が行うハンドスプリングをFederation Internationale de Gymnastique(FIG)基準に準じてビデオ映像から判定するように指示した。映像は、7人の体操選手がハンドスプリングを3回ずつ行い、計21回からなる映像とした。さらにその映像を熟練した3人の審判員に判定させ、参照スコアを設定した。[視線追跡装置]Tobii TX300を使用し、各被験者の視線行動を記録した。[手順]はじめに、被験者に対して審判経験、一般的な運動経験、SMEについてのアンケートを実施した。アンケート終了後、被験者をモニターの前に座らせ、FIG基準に従って判定するように指示した。判定する機会は一回のみとした。[データ解析・統計解析]データ解析として、判定の正確性について各被験者の判定スコアと参照スコアとの誤差を算出した。視線データは、視線追跡装置から運動の相ごとに解析し、映像観察中に視線を向けていた位置を算出した。また、注視数および注視時間についても算出した。統計解析として、審判免許レベルおよびSMEの有無の違いにおける注視数、注視時間について検討するため、一元配置分散分析を用いた。さらに、判定の正確性についても検討するため、Mann-Whitney-U検定を用いた。
【Results】
審判免許レベルの違いの比較では、注視数についてHLJの方がLLJよりも有意に高い値を示したが、注視時間については有意な差が認められなかった。SME有無の違いにおける比較では、SME有群がSME無群よりも有意に注視数および注視時間にて高い値を示した。さらに注視領域について、HHJはLLJに比べ上肢を注視していたのに対し、SME有群はSME無群に比べ下肢を注視していた。
【Discussion】
HLJ群の方がLLJ群より上肢を注視していた理由として、パフォーマンス成功の判断をする上で上肢が良い指標となるため、HLJ群がより上肢へ視線を向けていたことが示唆された。また、HLJ群は上肢をより注視していたのに対し、MSE有群は下肢を注視しており、注視領域が異なっていた。そのため、優れた技術を有する審判および体操競技者によって判定時の戦略が異なることが示唆された。
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【Critical Reading】
本実験では免許レベルの違いにおける視線行動に着目し、その結果、高いレベルを有する者が判定時に上肢をより注視していた。この結果から、筆者らは上肢への注視を促すことで判定技能が向上すると示唆した。しかし、他の先行研究では視線が誘導されることで判定時のパフォーマンスをが低下すること(Savelsbergh et al.2002)や、「見ていること」と「情報を得ていること」は必ずしも一定しないということ(田中,2003)、熟練者の視線行動が判定技能と関連していることは未だ証明されていないことなどから、一概に視線の誘導が判定時のパフォーマンスに結びつくとは言い難いと考える。
担当:松坂大毅
Visual behaviour of tennis coaches in a court and video-based conditions.
(コート上条件とビデオ視聴条件におけるテニスコーチの視線行動の分析)
Francisco Javier Moreno Hernandez, Francisco Avila Romero, Vicente Luis del
International Journal of Sport Science. 2006;5(2):28-41.
DOI: 10.5232/ricyde2006.00503
【Introduction】
これまで、視覚システムが情報を獲得するのに最も有益な方法であることが報告されている。Mcleodらは、視覚について、対象とする動きや環境の特徴を最も正確に知覚するものであると報告している。また、視覚システムには注視や注意が関与しており、これらはトレーニングによって培われた知識が影響していることが示唆されている。本研究の目的は、レベルの異なるテニスコーチを対象とし、視線行動における観察条件による影響を明らかにすることとした。
【Methods】
[分析対象]評価者は10人のスペイン人コーチであった。本実験ではコーチの経験年数で群分けがなされ、高い国際レベルでの経験を8年以上有している者を熟練群、国際インストラクターレベルでの経験が4年未満の者を未熟練群とした。分析対象は、3人のテニスプレーヤーによるトップスピンサーブであった。[測定手段]視線追跡装置を用いて視線データを測定した。視線データは、1s間あたり50フレームにて視線の動きを分析した。[注視点] 注視場所は、以下4つの領域に分けて分析した。Enhanced ball (EBA):ボールを持つ側の肩関節、前腕部、手部、ボールの領域。Enhanced perform(EPA):ラケットを持つ側の肩関節、前腕部、手部、ラケットの領域。Upper body(UB):体幹および左右の上肢の領域。Lower body(LB):股関節、下腿、足部の領域。[パラメータ] 注視回数と注視時間をパラメータとして採用した。本研究では、空間位置において視線が60ms以上保たれた場合を注視とした。[手順]本研究は、3つの手続きから実施した。まず、評価者に対し、サーブの様子を撮影したビデオ映像を視聴させて分析を実施させた(二次元条件)。次に、実際にサーブを行っている様子を分析させ(三次元条件)、最後に、もう一度、ビデオ映像を分析させた(二次元条件)。観察内容は、テニスプレイヤーが行った10回のトップスピンサーブであった。測定中は、エラー検出過程を再現するため、評価者にサーブに対するフィードバックを口頭にて行うように要求した。[統計解析]従属変数はEBA,EPA,UB,LBの4領域の注視回数と注視時間、独立変数は視聴条件(二次元or三次元)とコーチの経験レベル(熟練群or未熟練群)とした。統計解析には一元配置分散分析を用いた。
【Results】
注視回数は、視聴条件に関わらず熟練群が未熟練群よりも少なかった。注視時間は、熟練群が未熟練群よりも長い時間注視をしており、二次元条件の方が三次元条件よりも長く注視していた。注視場所別に見ると、両群ともにUB領域において最も多く注視をしており、かつ長い時間注視していた。
【Discussion】
本研究は、コーチのエラー検出過程における視線行動の特徴を分析することを目的とした。その結果、熟練群・未熟練群ともに、二次元条件において三次元条件よりも長い時間注視していた。これは、Treismanらの報告と一致しており、コーチ達は三次元条件の方が馴染みやすく、迅速にエラーを検出できていた可能性があるためと示唆された。その一方で、アスリートの視線行動の特徴を研究したAbunethyは、本研究やTreismanらの報告とは異なり、三次元条件の方が二次元条件よりも長い時間注視していたことを報告しており、この違いについては未だ明らかにはされていないため今後、さらなる研究が必要である。
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【Critical Reading】
本研究は、テニスコーチの注視を研究対象としていた。視覚での知覚は、注視で知覚する場合と周辺視野で知覚する場合があり、これらは観察対象の大きさや距離などによって変化する可能性がある。本研究では、この点に関する記載はされておらず、実験の再現性や妥当性を担保する上でも記載が必要であると考える。
担当:松坂大毅
(変形性膝関節症患者における三次元歩行分析と観察的歩行分析の比較)
Serkan Tas, Sinem Güneri, Bayram Kaymak, Zafer Erden
Acta Orthop Traumatol Turc. 2015;49(2):151-9.
PMID: 26012936 DOI: 10.3944/AOTT.2015.14.0158
【Introduction】
これまで理学療法士が行う歩行分析の信頼性や妥当性を研究した報告は少なく、そのほとんどが中枢神経疾患を対象に実験がされている。また、整形外科疾患を対象とした実験はわずかに報告されているが、これらは妥当性について考慮されていない。本研究の目的は、変形性膝関節症(膝OA)患者に対し、歩行分析の信頼性と妥当性を明らかにし、その妥当性と臨床経験との関連性を明らかにすることであった。
【Method】
[分析対象] 膝OAによる歩行障害を呈した、男性11名、女性22名の計33名(平均年齢:58.24歳)。膝OAの重症度としては、Kellgren-Lawrence分類においてgrade1が15脚、grade2が30脚、grade3が16脚、grade4が5脚であった。[分析データ] 歩行分析における分析データは、6つの三次元動作解析と床反力計(8×4m)によって測定された。また、歩行映像は、矢状面および前額面よりデジタルビデオカメラにて撮影された。 [評価者]臨床経験を有する理学療法士(PT)4名。本実験では臨床経験年数によって群分けがなされ、経験年数10年未満の者はグループ1(非熟練群)に、経験年数が10年以上の者はグループ2(熟練者群)に分けられた。経験年数は、非熟練群が3と6年目であり、熟練群が12と16年目であった。[実験手順]まず、本実験で使用する評価フォーム、動作分析の仕方、歩行特性についてのレクチャーを評価者に対して実施した。本実験は2度動作分析を行う機会が設けられ、2度目は6週の間隔を空けて実施した。動作分析時、ビデオテープのスロー再生や一時停止をすることを許可した。[評価フォーム]評価指標は、歩行中の関節角度(骨盤、股・膝・足関節)と時空間的指標(立脚と遊脚の比率、歩幅、重複歩行距離、歩行率、歩行速度)から構成された。評価尺度は、かなり低下している場合は-2、わずかに低下している場合は-1、正常な場合は0、わずかに増加している場合は1、かなり増加している場合は2の5段階尺度であり、評価フォームに記載してある参考値を基に評価することとした。[統計解析]各群の検者内信頼性および検者間信頼性は, 級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)と二元配置変量モデル(two-way random model)を用いて検討した。また、三次元動作解析装置のデータと動作分析結果との関連性は、スピアマン順位相関係数(Spearman rank correlation coefficient)を用いて検討した。
【Results】
検者内信頼性は全体的に中等度から高い一致度を示した。検者間信頼性は中等度から低い一致度を示した。三次元動作解析装置で得られた運動学的データと動作分析結果における相関係数は、全体的に中等度から低い相関を示した。非熟練群および熟練群の間に違いは認められなかった。
【Discussion】
本研究は、これまでに行われた先行研究と比べると低い信頼性を示した。本研究は整形外科疾患を対象としていたが、先行研究は主に中枢神経疾患を対象としており、整形外科疾患よりも歩行障害が観察しやすい可能性が考えられた。また、評価フォームの違いにおいて、本研究の評価フォームは、先行研究で用いられた尺度よりも多い5段階の評価尺度を使用したため、低い信頼性を示したことが示唆された。
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【Critical Reading】
本実験で使用された5段階の評価フォームは、グレード間の明確な基準が設けられておらず、主観的な要素が測定値に影響を及ぼした可能性が高く、これが被験者間信頼性の低下に影響したと推量された。他の先行研究においても、評価フォームによって実験結果が異なるという考察がなされており、結果に与える影響が大きい。したがって、評価フォームの決定は慎重に進める必要がある。
担当:松坂大毅
Reliability of Observational Kinematic Gait Analysis
(観察による運動学的歩行分析の信頼性)
D E Krebs, J E Edelstein, S Fishman
Phys Ther. 1985 Jul; 65: 1027-33
【Introduction】
臨床では理学療法介⼊の効果検証をする際に、歩⾏分析が用いられる。これまで歩⾏分析を扱った先⾏研究では、その研究ごとに結果が異なり一定の見解が明らかになっていない。そのため、臨床で歩行分析を用いる場合には、その分析における信頼区間を明らかにする必要がある。本研究の目的としては、複数の統計⼿法を⽤いて、歩⾏分析の評価者内信頼性と評価者間信頼性を明らかにすることであった。
【Method】
【分析対象】中枢神経疾患により下肢に歩⾏障害を呈した、男⼥ 15 名の⼩児患者(平均年齢:9.7 歳)。【撮影方法】 2 種類のKAFO (レザー製orプラスチック製)が使⽤され、各対象者2種類の歩行映像が撮影された。映像は、⽮状⾯と前額⾯から撮影された映像であった。【評価者】 5 年以上の経験がある理学療法⼠3名。【パイロット研究】本実験に先立ち、パイロット研究が行われ、本実験の分析対象を立脚相のみとすること、評価スケールは3段階評価とすること、対象とする関節運動は下肢のみの動きとすることが決定された。評価基準は、膝関節の屈曲運動を例とした場合、5°から 10°の異常は「著しく障害」、15°より⼤きい異常は「非常に障害」と評価することとした。これらの評価基準はそれぞれ、0,1,2点に置き換えられて計算がなされた。 【実験手順】 本実験は 4 つのセッションから構成された。1stセッションでは、レザー製(6名)とプラスチック製(7名)の装具を履いた各対象者の歩⾏分析を⾏い、約1週間後に行われた2ndセッションにて、各対象者が別の装具を履いた時の歩行映像を分析した。それから 1ヶ⽉後に 3rd,4thセッションが、1st,2ndセッション同様の⼿順で⾏われた。各セッションの歩⾏分析は、繰り返し分析することが許可された。【統計解析】信頼性は, ⼀致度(Agreement)、標準誤差(Standard errors of measurement :SEMs)、ピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlations)、繰り返しのある分散分析(repeated measures ANOVA)、級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)を⽤いて検討された。
【Results】
一致度では被験者内信頼性において、完全な⼀致を示したのは全体の 69%、1点の不⼀致は 28%、2点の不⼀致は3%であった。評価者間信頼性では、完全な⼀致は67.5%、1 点の不⼀致は 30%、2点の不⼀致は 3%であった。評価者内標準誤差は最⼤誤差範囲の4%、評価者間標準誤差は 15.6%を⽰した。各評価者のセッション間における相関係数は0.60であり、決定係数は0.36であった。分散分析では、⽴脚相×評価者、関節運動×評価者においてのみ有意な差が認められた。一般化可能性における被験者間信頼性は0.73 であった。
【Discussion】
本実験では全体的に中等度の信頼性しか認められなかったため、歩⾏分析から治療効果の判定をする際は注意して解釈をする必要がある。また、本実験では特に膝の内外反、股関節の内外転・内外旋で低い相関を⽰した。実験全体を通して、前額⾯や⽔平⾯の動きよりも⽮状⾯の動きにおいて高い信頼性が認められ、分析する動きの運動軸が信頼性に影響を及ぼしていることが示唆された。特に矢状面に関しては観察者の視軸と運動の回転軸が同⼀線上にあるため、観察が容易になる可能性があると示唆された。
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【Critical Reading】
本実験使用しているICCは本来比率尺度のデータで使用されるべき分析手法である。しかし、本実験では順序尺度データを測定しているため、κ係数の使用が適切であると考える。また、本実験では正常歩行からの逸脱を評価しているが、分析対象の運動学データが測定されていないため、κ係数を使用して信頼性を検証できたとしても、妥当性の検証ができないと考える。
担当:松坂大毅
Reliability of videotaped observational gait analysis in patients with orthopedic impairments
(整形外科疾患を呈した患者のビデオ映像を用いた歩行分析における信頼性)
Jaap J Brunnekreef , Caro J T van Uden, Steven van Moorsel, Jan G M Kooloos
BMC Musculoskelet Disord. 2005 Mar 17;6:17.
doi: 10.1186/1471-2474-6-17.
【Introduction】
理学療法士(PT)が行う歩行分析は、患者の目標設定や理学療法介入の効果判定のために用いられる。観察によるPTの歩行分析を扱った先行研究では、様々な疾患で研究がされているが、整形外科疾患を呈した患者の歩行分析における研究はほとんど行われていない。本研究の目的としては、整形外科疾患患者におけるPTの歩行分析の信頼性および特徴を明らかにすることであった。
【Method】
【分析対象】下肢の整形外科疾患を呈した男女30名(平均年齢:37.8歳)【評価者】① 非熟練群(4名):PT養成課程を専攻している学生2名と人間運動科学を専攻している学生2名。取り込み基準は、臨床での歩行分析の経験がない者。② 熟練群(4名):PT4名。取り込み基準は、PTとして10年以上の経験を有する者。③ 専門群(2名):PT2名。取り込み基準は、本研究で用いる評価シートの開発者であり、整形外科疾患患者に対する歩行分析方法や介入方法を指導している者。【評価シート】各周期中における各体節の特徴が障害されているどうか(2択)を記載する形式とした。【撮影方法】患者が快適な速度で15mの半円を歩行している様子を撮影した。カメラ位置は、前額面と矢状面の共に撮影ができるように患者が歩行している側方に設置した。[実験手順]歩行分析は、患者30名の映像を2回ずつ分析した。分析時、ビデオテープをスロー再生することや停止することを許可した。また、熟練群と専門群のみにおいて、歩行分析から実際に介入する場合の治療優先度をつけることも要求した。【統計解析】各群の検者内信頼性および検者間信頼性は, 級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients:ICC)を用いて検討した。また、非熟練群と熟練群における専門群との信頼性もICCを用いて、その差を検討した。
【Results】
検者間信頼性はICCにおいて、非熟練群で0.40、熟練群で0.42、専門群で0.57であった。検者内信頼性は、非熟練群で0.57、熟練群で0.42、専門群で0.72であった。項目別にみると、全群にわたり体幹の側屈、膝関節の伸展、前腕の振りは高い信頼性を示したが、骨盤の回旋や足関節の背屈は低い信頼性を示した。介入時の治療優先度に関しては、熟練群および専門群はともに下肢に高い優先度を示した。また、専門群のみが立脚相と遊脚相の非対称性や体幹の側屈について高い優先度を示した。
【Discussion】
中等度の信頼性を示した原因として、骨盤の回旋や足関節の背屈などの観察しづらい歩行障害の要素が信頼性の低下に影響していると考察した。他の原因として、各患者の歩行周期が一貫しておらず、評価者がそれぞれ異なる歩行周期を観察したことが影響したと考察した。介入時の優先度について熟練群は信頼性に乏しかった下肢のみに優先度が集中したが、専門群はその他の項目においても高い優先度を示した。ゆえに、熟練群は信頼性に乏しい項目を重視した治療を行うことを意味していると考察した。
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【Critical Reading】
本実験では専門家群が評価した分析結果を基準として、非熟練と熟練群を比較していた。しかし、専門家群の取り込み条件が、評価フォームの開発者という条件であり、この条件で両群を比較するには適切な取り込み基準ではないように感じた。また、本実験では歩行分析より治療優先度の判定も検討していた。歩行分析は観察された現象から機能障害を推論し、帰納、演繹を繰り返すことで、その確からしさ検証していく過程である。本実験では、帰納・演繹の過程を考慮せず、治療優先度のみ焦点を当てており、臨床場面を意識して行われていた本実験の趣旨を加味すると、実験手順として不足があるように感じる。
担当:松坂大毅
Physical and Observational Practice Afford Unique Learning Opportunities.
(身体練習と観察学習は特有の学習効果を有する)
Shea CH, Wright DL, Wulf G, Whitacre C.
J Mot Behav. 2000 Mar;32(1):27-36.
【Introduction】
多くの論文において観察学習が身体練習よりも劣った学習効果を示すことが報告されている。その理由は、観察学習が身体練習における学習過程を経験することができないためと示唆されている。一方で、保持テストにて検討することができる課題の特有性を学習する点において身体練習が必要であるが、転移テストにて検討することができる課題の一般性を学習する点においては観察学習でも有効であることが報告されている。本研究の目的は、第1実験にて身体練習と観察学習の学習効果の差異を明らかにすることであり、第2実験にて身体練習と観察学習を組み合わせた学習効果を明らかにすることとした。
【Method】
[被験者]健常学生30名であった。[学習課題]モニターの目標となる基準線の上に、左右に動くカーソルをキーボード操作によって保ち続ける課題であった。[手順]初日に練習段階として、各群の条件で1試行15秒、計20試行の練習が行われた。その24時間後に保持及び転移テストが2試行ずつ行われた。[群分け]第1実験 身体練習群(PP群):実際に課題の練習20試行が行われた。観察学習群(OB群):身体練習群の練習場面の観察が行われた。対照群:実験の説明や練習は行われず実験者と対面したのみであった。第2実験 PP群,対照群は第1実験同様であった。組み合わせ群(CM群):2人1組で、練習と観察を1試行ずつ繰り返した。[データ分析]測定データは目標からの誤差としてRoot Mean Square error(RMSE)を算出した。各テストの測定データは一元配置分散分析が用いられ、事後検定にDuncan's new multiple range testが用いられた。
【Results】
第1実験[練習段階]PP群は練習を重ねるにつれて熟練していく結果が見られた。[保持テスト]OB群はPP群より劣ったが、対照群よりは優れた結果を示した。[転移テスト]OB群とPP群において差は見られなかったが、対照群よりは優れた結果を示した。第2実験[練習段階]第1実験同様の結果を示した。[保持テスト]PP群とCM群との間に差はなく、両群共に対照群よりは優れた結果を示した。[転移テスト]CM群はPP群・対照群より優れた結果を示し、PP群は対照群よりも優れた結果を示した。
【Discussion】
第1実験 保持テストにおいてOB群はPP群よりも劣り、転移テストにおいて両群に差が見られなかった。この結果に対して、観察学習は課題の一般的な部分を学習できるが、実際に運動を行わないため、その課題特有の学習が難しいとした先行研究と一致した。第2実験 転移テストにおいて、PP群よりもCM群が優れた結果を示した。これは、観察練習が課題遂行の正確さを修正するために身体練習を要するとした先行研究と一致した。また、今回の結果から観察学習を用いることによって課題遂行の戦略や技術を取捨選択している可能性があることが示唆された。さらに、学習の初期において身体練習では課題遂行に認知的および運動的な要求により負荷がかかるが、観察学習では運動的な要求が生じないため有利である可能性が示唆された。
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【Critical Reading】
本論文の実験設定にて、練習期間前に被験者間でパフォーマンスの差がないことを証明するプレテストが行われていない。そのため、練習期間によって生じる学習効果の精査は困難であると思われる。また、本論文では観察と身体練習を組み合わせた練習方法が優れているという論調になっている。しかし、その論調は第2実験の転移テストからのみ、その有効性が証明されており保持テストからは証明されていない。ゆえに、その有効性を検討する際には課題の特異性を考慮する視点を持つ必要があると考える。
担当:松坂大毅
Enhancing Training Effectivity and Effectiveness Through the Use of Dyad Training
(ペアトレーニングの使用によるトレーニングの有効性と効率性の向上)
Shea CH, Wulf G, Whitacre C
J Mot Behav. 1999 Jun;31(2):119-125.
【Introduction】
一般的に、指導者が個別的に練習を学習者に対して設定することにより練習効果は向上するという考え方がある。しかし、個別練習は人的コストや金銭的コストの消費が大きい。一方で、ペアで練習をした場合にはコストの消費は抑制される。また、お互いにタスクに関する観察や対話を行うことで学習利益が生じる可能性がある。この背景の下、身体的な練習・観察・会話を交互に組み合わせた練習方法が、身体的な練習のみの場合と比較した場合にどのような学習効果がもたらされるのかを検討した。
【Method】
[被験者]主に大学の学部生を対象とした男女18名ずつの36名であった。[学習課題]最大15°の傾斜が可能なスタビロメータの上で、90秒間できるだけプラットフォームを水平に維持することであった。[手順]初日に計8試行の練習が行われ、その翌日に計6試行の保持テストが行われた。被験者は、開始の合図で傾斜しているプラットフォームを動かし、それが水平になった時点から計測が開始された。[群分け]個人群:一人で個人的に練習する群。1試行につき練習時間を90秒、休息時間を180秒とした。交互ペア練習群:1試行ずつ実践と他者観察を交互して練習する群。1試行につき練習時間を90秒間、休憩時間を90秒とし、課題実施中に用いた戦略について会話をするよう指示された。ペア練習対照群:全8試行実践した後に交代し、8試行他者観察をする群。休憩時間は12分間をとし交互ペア練習群同様の指示を与えた。保持テストでは、すべての群において1人で課題が実行された。[データ分析]プラットフォームの右傾斜を負の値、左傾斜を正の値とし、プラットフォームの0°を基準としたRoot Mean Square error(RMSE)にて分析された。練習段階のデータは3群8試行で二元配置分散分析、転移段階のデータは3群グループ6試行で二元配置分散分析を用いた。
【Results】
[練習段階]練習の初期段階では、両ペア練習群は個人群よりも高いRMSEを示した。練習の最終段階においては、交互ペア練習群の方が個人群よりも低いRMSEを示し、ペア練習対照群は個人群よりも高いRMSE示した。[保持段階]各試行における群間の単純主効果は、交互ペア群が個人群およびペア練習対照群よりも低い値を示し、ペア対照群と個人群との間に差は見られなかった。
【Discussion】
保持テストにおいて交互ペア練習群が個人群よりも優れた結果を示したことから、交互練習は個別練習よりも効率的かつ有効的な練習であったことが示唆された。交互練習の利点として、競争意識により学習者のモチベーションが向上することが挙げられた。また、会話によってタスクにおける意見交換を要求することは認知的な負荷を引き起こし、先行研究においても認知的な負荷は運動学習に影響を及ぼす主要な要因の一つと主張がされている。
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【Critical Reading】
観察学習の学習効果を検討することを想定した場合に、本実験での結果は、観察による影響か、対話による影響かを、実験の設定上検討できないため、観察と対話を身体的な練習に組み合わせた場合に学習効果が向上した1例という認識を持つことが必要だと考える。また、本実験のような静的なバランス課題の場合、何を観察し、どのように自己のパフォーマンスに反映させたのかが不明である。そのため、アンケート等で観察ポイントを確認する必要があると考えた。
担当:松坂大毅
Physical and Observational Practice Afford Unique Learning Opportunities.
(身体練習と観察学習は特有の学習効果を有する)
Shea CH, Wright DL, Wulf G, Whitacre C.
J Mot Behav. 2000 Mar;32(1):27-36.
【Introduction】
多くの論文において観察学習が身体練習よりも劣った学習効果を示すことが報告されている。その理由は、観察学習が身体練習における学習過程を経験することができないためと示唆されている。一方で、保持テストにて検討することができる課題の特有性を学習する点において身体練習が必要であるが、転移テストにて検討することができる課題の一般性を学習する点においては観察学習でも有効であることが報告されている。本研究の目的は、第1実験にて身体練習と観察学習の学習効果の差異を明らかにすることであり、第2実験にて身体練習と観察学習を組み合わせた学習効果を明らかにすることとした。
【Method】
[被験者]健常学生30名であった。[学習課題]モニターの目標となる基準線の上に、左右に動くカーソルをキーボード操作によって保ち続ける課題であった。[手順]初日に練習段階として、各群の条件で1試行15秒、計20試行の練習が行われた。その24時間後に保持及び転移テストが2試行ずつ行われた。[群分け]第1実験 身体練習群(PP群):実際に課題の練習20試行が行われた。観察学習群(OB群):身体練習群の練習場面の観察が行われた。対照群:実験の説明や練習は行われず実験者と対面したのみであった。第2実験 PP群,対照群は第1実験同様であった。組み合わせ群(CM群):2人1組で、練習と観察を1試行ずつ繰り返した。[データ分析]測定データは目標からの誤差としてRoot Mean Square error(RMSE)を算出した。各テストの測定データは一元配置分散分析が用いられ、事後検定にDuncan's new multiple range testが用いられた。
【Results】
第1実験[練習段階]PP群は練習を重ねるにつれて熟練していく結果が見られた。[保持テスト]OB群はPP群より劣ったが、対照群よりは優れた結果を示した。[転移テスト]OB群とPP群において差は見られなかったが、対照群よりは優れた結果を示した。第2実験[練習段階]第1実験同様の結果を示した。[保持テスト]PP群とCM群との間に差はなく、両群共に対照群よりは優れた結果を示した。[転移テスト]CM群はPP群・対照群より優れた結果を示し、PP群は対照群よりも優れた結果を示した。
【Discussion】
第1実験 保持テストにおいてOB群はPP群よりも劣り、転移テストにおいて両群に差が見られなかった。この結果に対して、観察学習は課題の一般的な部分を学習できるが、実際に運動を行わないため、その課題特有の学習が難しいとした先行研究と一致した。第2実験 転移テストにおいて、PP群よりもCM群が優れた結果を示した。これは、観察練習が課題遂行の正確さを修正するために身体練習を要するとした先行研究と一致した。また、今回の結果から観察学習を用いることによって課題遂行の戦略や技術を取捨選択している可能性があることが示唆された。さらに、学習の初期において身体練習では課題遂行に認知的および運動的な要求により負荷がかかるが、観察学習では運動的な要求が生じないため有利である可能性が示唆された。
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【Critical Reading】
本論文の実験設定にて、練習期間前に被験者間でパフォーマンスの差がないことを証明するプレテストが行われていない。そのため、練習期間によって生じる学習効果の精査は困難であると思われる。また、本論文では観察と身体練習を組み合わせた練習方法が優れているという論調になっている。しかし、その論調は第2実験の転移テストからのみ、その有効性が証明されており保持テストからは証明されていない。ゆえに、その有効性を検討する際には課題の特異性を考慮する視点を持つ必要があると考える。
担当:松坂大毅
Implicit motor sequence learning is not purely perceptual
(潜在的な運動シーケンス学習は単に知覚的な要因ではない)
Mem Cognit. 1999 May;27(3):561-72.
【Introduction】
近年、系列の知覚運動学習に関心が向けられており、それは学習の潜在的な性質にある。潜在学習*1に関する多くの研究では、運動的な情報ではなく知覚的な情報が学習を支持できると報告されている。その一方で学習効果を考える際にそれらの報告に矛盾が見られた。その矛盾に対して、本研究では知覚的な情報が潜在学習を支持するのか、その知覚的な情報は顕在的な知識や眼球運動に影響されていないか、知覚的な情報となる刺激に注意を向けているかを検討する事を目的とした。
【Method】
[対象者] 学部生を対象とした。実験1は男性38名、女性44名の計82名。実験2は男性20名、女性22名の計42名。実験3は男性24名、女性49名の計73名を対象とした。[実験課題] 選択的反応時間課題(SRT課題)が用いられた。実験1は、モニター上4つの刺激位置の1つに「*」が表示される課題であり、その刺激は1ブロックで12回表示された。また、刺激に対応したキーを押すまでの反応時間(RT)を測定した。実験2は、モニター中央に数字刺激が提示され、実験1同様の反応を行う課題が追加された。実験3は実験1と類似した課題が用いられた。[練習段階] 実験1は、実際に順序刺激に反応したpush群、順序刺激もしくはランダム刺激を提示しただけの順序観察群・ランダム観察群が設定された。実験2は、実験1のpush群と同じ条件の空間条件群、順序数字刺激に対し反応を行った順序数字群、ランダムな数字刺激に対し反応を行ったランダム数字群が設定された。実験3は、順序刺激へ刺激-応答が一致した条件で反応を行ったSRT群、刺激-応答が非対応な条件で反応を行った知覚群・運動群が設定された。[転移段階] 実験1は、全群でpush群の練習段階と同様の課題が設定された。実験2は、全群で空間条件群の練習段階と同様の課題が設定された。実験3は、全群で刺激-応答が一致した条件で反応を行った。知覚群は練習時と同様の刺激が提示され、練習時とは異なるキーを押した。運動群は、練習と同様のキーを押すような刺激が提示され、それに反応を行った。SRT群は練習時と同様の条件であった。
【Results】
実験1は、push群が、他の2群よりも高い学習効果を示し、他の2群の学習効果に差はみられなかった(図1)。実験2は、数字順序群で練習時と異なる空間的順序刺激が提示されたブロックにてRTが低下する学習効果が見られた(図3)。実験3は、運動群とSRT条件に差は見られなかったが、両者ともに知覚群よりも高い学習効果が見られた(図4)。
【Discussion】
実験1では、push群と観察群との関係から、知覚的な練習は運動的な練習の代わりにならない事が示唆された。実験2では、数字刺激から空間的刺激へ刺激が変更されたが、順序数字群が空間条件群と同様のRTの低下を示したため、眼球運動の関与がない事および潜在的な知識が刺激(知覚的情報)に基づいていない事が示唆された。実験3では、順序刺激が変更されても運動条件が同じ場合、学習効果は転移されるが、順序刺激が変更されなくても運動条件が変更された場合、学習効果は転移されない事が示唆された。以上の事から、潜在的な運動順序学習が純粋に知覚的なものではないという事を示した。
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【Critical Reading】
本論文では観察だけでは学習効果は得られず、運動による練習が重要であることが示されており、観察学習に関する研究成果の一つとしては参考になった。しかし、観察群は運動に関連した系列を観察しているにすぎず、運動自体を観察できていない。この点はスポーツやリハビリテーション場面における観察学習の状況と乖離が大きいため、結果を応用する際には注意が必要である。また、練習段階における各群の設定と転移段階の設定が複雑であり、多くの要因を含んでいるため、結果の解釈も多様である。そのため、この点にも注意を要する。
*1潜在学習:学習者自身が特定の課題の意識を持たずに、ある制御対象を管理していく過程(長谷2016)。
担当:松坂大毅
Role of symbolic coding and rehearsal processes in observational learning
(観察学習における象徴的コード化と象徴的リハーサルの役割)
Bandura A and Jeffrey RW
Journal of Personality and Social Psychology 26(1):122-130.
【Introduction】
観察学習は、モデルと同じ行動を行い、その行動を繰り返し強化することで学習が達成される。このモデリングと呼ばれる過程の中で、一般的な学習状況では、モデルの行動を学習者が初めて習得する時には、学習者がすでにモデルの観察を行っており、その記憶が保持されていることが前提条件となる。そのような背景がある中でBanduraはモデリングの過程を4つの要素から定型化しており、この実験は「保持の過程」に着目されている。この「保持の過程」においては、言語的な符号や画像的な符号に変換され記憶される「コード化(coding; Cod)」やモデル行動を繰り返すことで学習を図る「リハーサル(Rehearsal; Reh)」が記憶の保持に関与していることが言われており、どのようなCodやRehが記憶の保持を強化するのかを検討することを目的としてこの実験が行われた。以下、4つの仮説のもとに実験が行われた。:記憶保持においてCodが有益である、実際に運動を繰り返す運動Rehよりもコードを頭の中で繰り返す象徴的なRehの方が有益である、観察後の遅延Rehよりも即時的に行った方が有益である、馴染みのないCodよりも一定の法則のある単語や数列などの馴染みのあるCodの方が有益である実験が行われた。
【Method】
[対象]被験者は男女44名ずつの計88名で、計11群(Cod条件=数値的Cod・言語的Cod・non CodとReh条件=象徴的Reh・運動Reh・Rehなしの組み合わせによる9つの実験群と2つのコントロール群)に8人ずつ無作為に割り付けられた。[手順]はじめに、被験者に対しモデルのパフォーマンス映像を提示した。各コード条件においてパフォーマンスをコード化するための練習試行が与えられ、3試行のパフォーマンスの再現性が即時的に測定された。2試行はパフォーマンスを実際に再現させ、1試行は記憶したコードを回答用紙に記載させた。測定終了後、被験者は群分けされた条件下でリハーサルに取り組んだ。ここで、群分けされた11群の被験者は即時的Rehと遅延Rehの効果を検討するため、それぞれ2群に群分けされRehを行った。練習過程終了後にパフォーマンスの再現性を再度測定し、さらにその1週間後に回答用紙による測定が行われた。測定値については、モデルと被験者のパフォーマンスの再現性を得点化し、加えてRehが行われた割合も測定された。
【Results】
即時的に行われた再現性の測定では、非Cod群よりもCod群の方が有意に高かった。練習過程後の再現性の測定では、象徴的Rehは、運動Rehおよび非Rehよりも有意に高かった。またCod群と即時的Rehの交互作用が認められたが、Cod群と遅延リハ群では認められなかった。
【Discussion】
本実験の結果より、象徴的なCod、象徴的なReh、即時的なRehが記憶の保持を促すことを明らかにした。また、象徴的Rehに比べ運動Rehが学習の保持を促進しなかった点において、複数の理由が挙げられておりその中でRehの反復率の影響が挙げられていた。
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【Critical Reading】
本論文は、社会的学習における観察学習の研究背景を把握するための論文であった。内容としては、実験課題の内容が詳細に記載されていないこと、郡の数が多く各群の被験者数が少ないことなど、結果を解釈する上で複数の問題がある。また、本論文では運動Rehが保持を促進しなかったという結果であったが、別の課題を用いた報告ではイメージするよりも実際に運動を行ったほうが、学習効果が高かったとする報告が多く、本論文の結果と異なるため、データ自体はに注意が必要である。
担当:松坂大毅
Self-control over combined video feedback and modeling facilitates motor learning
(ビデオフィードバックおよびモデリングに自己管理を組み合わせると運動学習を促進する)
Post PG, Aiken CA, Laughlin DD, Fairbrother JT
Hum Mov Sci. 2016 Jun;47:49-59.
doi: 10.1016/j.humov.2016.01.014.Epub 2016 Feb 11.
【Introduction】
運動学習研究にて、指導による支援を受ける際は学習者自身が調整した方がスキル習得には有効であると言われている。一般的にSelf-control(SC)feed-back(FB)は学習に効果的であると報告されているが、ビデオを用いたKPにおけるSCの効果は、Verbal KPを組合せた場合でのみ報告されており、ビデオを用いたKPのみでのSCの効果は明らかにされていない。本研究の目的は、バスケットボールの初心者を対象に、シュート技術の学習におけるvideo KPでのSC効果を明らかにすることであった。
【Method】
[対象]28人のバスケットボール初心者の女性(26.4±5.2歳)とし、SC群(n=14)とFBを与えるタイミングをこちらが管理するYoke群:YK群(n=14)の2群に無作為に割り当てた。[手順]対象者は始めに研究の目的、シュートフォームの説明、ポスターとして提示された適切なシュートフォームが記載されてある指導的な手がかりの説明を受けた。SC群は練習段階の試行の後ならいつでも自分のフォームのビデオを見ることが許可されることを、YK群はいくつかの試験の後にFBを与えられると伝えられた。練習段階は25試行の練習を行った。実験条件の規定に従ってビデオFBが与えられた。練習後にビデオFBについてのアンケートが行われた。獲得段階から約24時間後に10試行ずつ保持テストと転移テストが行われた。[統計解析]二元配置分散分析を使用した。その変数について、練習段階におけるフォームと精度の平均スコアについては2(群)☓5(ブロック)、FBのありとなしの試行のフォームと精度の平均スコアについては2(群)×2(FBの有無)、保持と転移テストのフォームと精度の平均スコアについては2(群)☓5(ブロック)とした。さらに、練習段階の前半と後半の間の手がかりを見た回数については2(群)×2(練習段階の前半後半)のカイ二乗検定で比較した。
【Results】
練習段階におけるフォームおよび精度スコアの平均は、両群ともほとんど有意差は見られなかった。指導的な手がかりにおいてSC群はYK群よりも頻繁に手がかりを見ていた。FBがある試行とない試行におけるフォームおよび精度スコアにおいては、両群に有意差は見られなかった。フォームスコアにおいて保持テストでは両群に有意差は見られず、転移テストにおいては有意差が見られた。
【Discussion】
ビデオKPのSCがシュート技術の学習を促進したことを証明した。SC群が頻繁に指導的な手がかりを見た知見は、転移テストでのSC群の優れたフォームスコアについて尤もらしい説明を提供するとした。
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【Critical Reading】
本研究においてSCの学習効果が証明されたが、他の論文でも学習者の能動性がFBや練習による学習効果を促進するという結果が示されており、学習を考える際に「能動性」という点が重要だと考えた。また、練習前の段階で両群のパフォーマンス技術の測定がなく学習効果については正しく評価されていないと考える。また、コントロール条件に当たるYK群のFB頻度の詳細な記載が必要であると考える。
担当:松坂大毅