Profile


D3

嶋田 剛義 ーTakenori SHIMADA


略歴

<学歴>

  2020       東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科 卒業

  2022     東北文化学園大学大学院健康社会システム研究科前期課程 修了

<職歴>

  2020       東北文化学園大学 Teaching Assistant

  2020       介護老人保健施設やる気になる里 通所リハビリテーション (非常勤)

  2020       特別養護老人ホーム国見苑 (非常勤)

 

  2022   愛子整形外科

(愛子整形外科HP >> https://www.ayashi-orthopedics.com/

 

受賞

   24回宮城県理学療法学術大会 新人賞

 

研究テーマ・キーワード

  全体法と部分法の運動学習効果に関する研究

  Functional Balance Scale における動作パターンの質的な評価基準の開発に関する研究 -物拾い動作に着目して-

 

職種・資格

  • 理学療法士

メールアドレス

kaka8.take3○gmail.com

(〇を@に置き換えて下さい)



Publication - Shimada


<国内学会>

嶋田 剛義、阿部 玄治

外来理学療法患者の通院長期化に対する性別,年齢,治療部位の影響について

第12回日本運動器理学療法学会学術大会

 

嶋田剛義、阿部玄治

肩関節周囲炎患者における外来理学療法通院期間の長期化の因子について-通院頻度に着目した後向き研究-

第42回東北理学療法学術大会

 

嶋⽥ 剛義、藤澤 宏幸

左⼤腿転⼦部⾻折術後患者に対する⾏為を射程に⼊れた介⼊-外来理学療法における受傷後 3 ヶ⽉からの経過

 第27回 宮城県理学療法学術大会

 

嶋田剛義 、鈴木博人 、我妻昴樹、松坂大毅 、幾島健太、藤澤宏幸 

慣性センサー式モーションキャプチャの関節角度測定の精度に関する研究―トレッドミル歩行課題を用いたPilot study―

第26回 宮城県理学療法学術大会 

 

嶋田剛義 鈴木博人 、松坂大毅 、我妻昴樹、藤澤宏幸 

結合動作における全体法・部分法の運動学習効果の差異−練習中における部分法の特徴にも着目して−

第27回 日本基礎理学療法学会学術大会

  

嶋田剛義、鈴木博人、我妻昂樹、松坂大毅、鈴木さゆり、佐藤清登、藤澤宏幸

理学療法場面における運動・動作指導の観察研究ー全体法と部分法に着目してー

第25回 宮城県理学療法学会学術大会

 

嶋田剛義 鈴木博人 、松坂大毅 、我妻昴樹、藤澤宏幸 

結合動作の運動学習における全体法・部分法の効果の差異ー学習課題検討を目的としたpilot studyー

第39回東北理学療法学術大会

 

嶋田剛義鈴木博人 、北村隼人 、松坂大毅 、藤澤宏幸 

Functional Balance Scale における動作パターンの質的な評価基準の開発に関する研究 -ー床からの物拾い動作に着目して(第1 報)ー

第24回 宮城県理学療法学術大会 

 

<その他>

嶋田剛義、我妻昂樹、松坂大毅、幾島健太、藤澤宏幸

模擬大腿義足歩行に対する全体法と部分法の運動学習効果に関する研究の計画

第7回 基礎理学療法学 若手研究者ネットワーク シンポジウム

 



Journal Club - Shimada


Better Retention of Skill Operating a Simulated Hydraulic Excavator After Part-Task Than After Whole-Task Training

ショベルカーシミュレータの操作スキルは、全体課題練習よりも部分課題練習後の方が保持される

So JCY, Proctor RW, Dunston PS, et al.

Hum Factors, 2013, 55: 449–460.

【Introduction】

  シミュレータには、機械の基本的な制御、適切な操作の技術、および現場での安全な操作スキルを向上させる機能が備わっている。しかし、建設機械の操作におけるシミュレータ練習に関する研究は限られている。また、シミュレータを使った練習においても全体練習と部分練習のどちらで行うか問題となっている。建築機器シミュレータは、作業を行うためのナビゲーションと機器の効率的な取り扱いの両方に関わる複雑な知覚運動スキルの開発、評価、および転移を促進するように設計される必要がある。[目的]ショベルカーシミュレータを用いた「トレンチ&ロード」課題の練習方法による学習効果の差を比較ことだった。

【Method】

 [対象]19〜34歳までの大学生42名(男性24名、女性18名、平均23.5±2.8歳)を対象とした。[実験機器]実験にはショベルカーシミュレータ(Simlog's社)が搭載され、ジョイスティックコントローラーが取り付けられたPCを使用した。19 inchモニターの正面に参加者を座らせた。モニターにはショベルカーの運転席の視点と同様の類似したVR映像が表示された。参加者はジョイスティックを用いてショベルカーを操作した。 [実験課題とデザイン]トレンチ&ローディング課題は、ショベルカーを操作し、掘削範囲(トレンチエリア)から土を掘り出し、その土を隣接するトラックに積む(ローディングする)というものだった。参加者には、なるべく少ないエラーでより生産性を向上させるように伝えた。実験全体について、練習期間と即時テスト、保持テストの3段階で構成した。参加者は課題の内容と基本的な操作方法について学んだのちに、練習段階で全体課題練習と部分課題練習のいずれかの群に分けられた。部分練習群ではキャリアポジショニング要素(ショベルカー操作の学習)とトレンチング要素(掘削の学習)、トラックローディング要素(トラックに土を移す学習)の各要素をそれぞれ練習した。全体練習群はトレンチ&ローディング課題を練習した。[即時・保持テスト]各テストでは、トレンチエリアとトラックの位置を変えた3つの課題をランダムで6試行実施した。即時テストは練習終了から5分後、保持テストは2週間後に行った。[統計解析]テストと試行数を参加者内要因、練習方法を参加者間要因とした混合計画における二元配置分散分析を実施した。[パラメータ] 本実験では所要時間とトラックへの移送量の結果を用いて、各試行の生産量(m3/h)を算出した。また、エラーの指標にバケットスラム回数(勢いよくバケット開閉した回数)と衝突回数(トラック等に衝突した回数)を使用した。

【Results】

 平均生産量について分散分析の結果、各テストと練習方法との間で交互作用を認めた。即時テストでは群間に有意な差がみられなかったが、保持テストでは全体課題群に比べて部分課題群で有意に平均生産量が多かった。各テストの試行間でみられるパフォーマンスの向上は、即時テストに比べて保持テストで有意に向上した。エラー数(バケットスラム回数と衝突回数)は即時テストに比べて保持テストで有意に少なかった。

【Discussion】

 本実験の結果、部分課題群は全体課題群に比べて、保持テストで高い生産性を得られた。この結果について、部分課題練習で各要素のスキルを学習した後に課題全体に必要な協調性も学習することができたためと考えられる。また、保持テストにおけるパフォーマンス向上については、テストで6試行実施したうちの最初の試行でみられた生産量の低下が原因と考えられる。この点について「過去に学習した技能を想起することに伴うウォームアップの減少」(Schmidt & Lee. 2011)、「速く、適応するための一時的な側面である」(Newell et al. 2009)などの報告で説明できる。本実験で得られたような部分課題練習の効果は、ショベルカー制御が課題の一部分であるような複雑な知覚運動課題(Gopher et al.1989など)や、機器の制御を伴う腹腔鏡下手術などの専門的スキルに適用される(Beaubien & Baker. 2004)可能性がある。

 

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【Critical Reading】

   本研究はシミュレータを用いた実験であるため、練習効果の作業現場への転移について検証されていないことは問題点であると考える。一方、本実験においては、各テストの結果のみならず、全体課題群と部分課題群それぞれの練習トライアルのパラメータが表にまとめられていた。このようなデータから両群の練習経過を辿ることによって、練習方法の違いによるパフォーマンス習得過程の特徴が明らかになる可能性があると感じた。今後の自分自身の研究をまとめる際にも参考にしていきたい。

 

担当者:嶋田剛義


Motor sequence learning and the effect of context on transfer from part-to-whole and from whole-to-part.

運動シーケンス学習と、部分から全体、全体から部分への転移における文脈の影響

                                                                 Rhein Z, Vakil E

                                                                                       Psychological Research, 2018, 82: 448–458.

 

【Introduction】

  学習の転移に関する先行研究において、学習課題の練習量が転移に影響すると報告されており(Rand et al. 2000; Vakil et al. 2002)、さらに課題間転移は、課題間でどの程度共通の要素を含んでいるかによって決定されること(Thorndikeの同一要素説)が報告されている。その一方で、全体法と部分法の研究結果は必ずしも同一要素説を支持しない (Speelman & Kirsner 2001)とした見解もある。[目的]学習課題を全体から部分の練習条件で行なった場合と全体を継続した練習条件との比較、部分から全体条件と部分継続条件との比較を行い­、それぞれの転移特性を明らかにすることとした。なお、本実験では、「全体から部分」または「部分から全体」に課題条件を変更することによりパフォーマンスが改善した場合、転移が生じたと判断した。

【Methods】

[対象]87名の学部生(男性28名、女性59名)で無作為に4群に割り付けた。初めに被験者を部分群(n42)と全体群(n45)に分けた。実験中に、部分群の中から部分課題を継続して行う部分継続群(n=19)と部分課題から全体課題を行う部分全体群(n=23)にさらに分けた。全体群も同様に全体継続群(n=20)と全体部分群(n=25)に分かれて課題を行なった。また、学習量の影響を確認するため上記の87名とは異なる被験者でブロック数を半分とした短い部分全体群(n=18)を設けて追加の実験を行なった。[実験課題]系列反応時間課題(以下:SRT課題)を学習課題とした。AからD4つのキーが記されたキーボードを用いて反応時間(以下:RT)を測定した。サンプリング周波数は1000Hzとした。言語教示は「画面に表示される4つの要素のうち1つに赤い点が表示されます。それに対応するキーを利き手の人差し指でできるだけ速く押してください」とした。[実験手順]部分群はADBACDからなる6要素のシーケンスを18回繰り返し、1ブロック(108試行)実施させた。全体群はBDCADBACDABC12要素のシーケンスを9回の繰り返し、1ブロック(108試行)実施させた。また、ブロック1から6までの間、被験者は全体群と部分群にそれぞれ分かれて課題を実施した。その後、ブロック7ではランダムに配置された課題を全被験者が行った(ランダムブロック)。最後にブロック84群に分かれて各課題を行なった(転移ブロック)。[データ処理]赤い点が表示されてから対応するキーを押すまでの時間とした。[統計解析]各シーケンスのRTの中央値を求め、中央値の平均値をブロックごとに算出した。混合計画における二元配置分散分析を用いて解析を行なった。

【Results】

 ブロック1-6の結果、全体群と部分群で有意な差を認め、交互作用は認められなかった。ブロック6とランダムブロックを比較した結果、群間で有意差は認められなかったが、課題条件とブロックで交互作用が認められた。ランダムブロックと転移ブロックを比較した結果、課題条件とブロックで交互作用が認められ、すべての群で有意にRTが減少し、部分継続群でRTが最も減少した。ブロック6と転移ブロックを比較した結果、部分全体群ではRTが有意に増加した。他の群ではRTが有意に減少した。また、その後に実施した追加実験の解析の結果、部分全体群と短い部分全体群との間では同様の結果が得られた。

【Discussion】

 学習の転移について、学習の初期よりも後期段階の方が転移にかかるコストが大きい (Vakil et.al, 2002)とした報告や運動シーケンス学習の転移は練習量に依存する(Korman, Raz, Flash,Kami, 2003)という報告がある。この観点より、部分群では学習の自動化が進んでいた学習後期の段階であったのに対し、全体群はまだそのレベルに達していなかったため転移が可能であったと推察される。また、転移ブロックの直前に行われたランダムブロックが結果に干渉した可能性が示唆された。

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【Critical Reading】

 本実験ではこれまでの先行研究でほとんど言及されていない全体から部分への転移について検証されていた。また、本実験からSRT課題の学習において要素を省略するよりも要素を追加した方がパフォーマンスは低下することが確認できた。一方、考察でも述べられていたように、練習期間と転移ブロックとの間にランダムブロックが設けられていたため、純粋な学習の転移効果が確認できていたか疑問が残る。今後、自身の研究を進めていく上で転移ついて改めて情報を整理していく必要があると感じた。

 

 

担当者名:嶋田剛義


The comparison of motor performance between part and whole tasks in elderly persons

(高齢者における部分課題と全体課題の運動パフォーマンスの比較)

 

                                                                                                       Ma HI, Trombly CA

The American Journal of Occupational Therapy, 2001, 55: 62–67.

 

【Introduction】

運動学習の研究において、全体練習と部分練習の違いに関する検討されているが、それら研究は、作業療法士が臨床で患者に指導する機能的課題とは異なるものがほとんどである。また、全体練習と部分練習の運動制御における問題点として、課題を部分に分けて練習することで課題全体の文脈に含まれる部分とは異なる課題特性となることが懸念されている(Bennett et.al, 1995、Schmidt & Lee, 1998)。さらに、生態心理学(Gibson, 1979、Reed, 1982)の観点からは、機能的課題を分解すると、あまり意味の持たない部分課題が作られ、課題全体のパフォーマンスを妨げる可能性が示唆されている。[目的] 健常高齢者を対象に,署名課題における部分課題と全体課題のパフォーマンスを運動学的に比較すること。[仮説] 部分課題と比較し全体課題条件でより組織化され、力強く、滑らかなパフォーマンスとなる。

【Method】

[対象] 20人の高齢者(男性7名、女性13名、69.5±3.87歳、内2名が左利き)を対象とした。[実験デザイン] クロスオーバー比較実験デザインを取り入れた。ペン立てに入ったペンと3インチ平方の紙を用いた。 [実験機器] 3次元動作解析装置を使用し、赤外線マーカーを利き手の尺骨茎状突起に貼付した。サンプリング周波数は100Hzとした。[署名課題] 課題は3段階からなり、第1段階でペンへリーチして握り、 第2段階でペンを紙に近づけ、 第3段階で名前を署名するように構成されていた。各条件で練習3試行とテスト5試行実施した。解析にはテスト試行のみを使用した。[課題条件] 全体課題条件では視覚的開始信号後に第1段階から第3段階を1まとまりとし、続けて署名課題を実施させた。部分課題条件では開始信号後に各段階を順次実施させた。各段階の間に2秒から3秒の休止時間を設けた。[データ処理・解析]各段階の開始と終了については、Y軸方向への速度が5mm/secを超えたときを開始、5 mm/secを下回ったときを終了と定義した。一部被験者でこの条件に該当しない試行があり、追加の基準としてマーカーのY位置が開始位置から最も離れた点を第1段階の終了、第2段階の開始とした。また、解析の対象は第1段階と第2段階であった。 [解析パラメータ]解析パラメータには、動作時間、PV/AV(最大速度と平均速度の比率であり、エネルギーコストの指標)、最大速度(力強さの指標)、動作単位数(動作中の加速と減速の数であり、滑らかさの指標)の4つを用いて解析を行った。代表値はテスト5試行の平均値とした。[統計解析]混合計画による二元配置分散分析を実施した。

【Result】

第1段階において、すべてのパラメータで全体課題条件と部分課題条件の間に有意差を認め、全体課題条件の方が優れたパフォーマンスを示した。第2段階においては、PV/AV以外で全体課題条件と部分課題条件の間に有意差を認め、全体課題条件で優れていた。

【Discussion】

 本研究の結果は、部分課題条件と比較し全体課題条件でより時間効率がよく、力強く、滑らかなパフォーマンスを示し、仮説を支持するものであった。この結果について、生態心理学理論(Gibson, 1979、Reed, 1982)によれば、運動のパフォーマンスは文脈に含まれる情報に影響されると考えられている。本実験において全体課題は文脈が保たれており、日常生活で行う動作に近い条件であったのに対し、部分課題は人為的に構成された課題だった。このことから、課題の文脈が保たれていたことが全体課題条件でより良いパフォーマンスを引き出すことができた要因と考えられる。今回の結果から、介入初期に全体課題ができない場合であっても、なるべく早期から全体課題での練習を開始し、最終的な課題の目標を見据えた練習を行うべきであると考えられる。

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【Critical Reading】

本実験は、全体法と部分法の先行研究の中では数少ない、動作の円滑性にも着目している研究である。一方で、実験環境についてはペンと紙の位置などの記載がないため、実際にどのような運動をしたのか、どれほど運動に影響を与えていたかが不明である。また、各段階の開始と終了について、Y軸方向への速度を用いた分け方をしていたが、全試行の20%が基準に該当しなかったことなど、分け方がやや曖昧な印象を持った。そのため特に動作単位数の結果に影響を与える可能性があったと考えられる。

 

担当者名:嶋田剛義

 


Effects of distinct practice conditions on the learning of the o soto gari throwing technique of judo

(練習条件の違いが柔道の大外刈りの習得に及ぼす影響)

Gomes FRF, Bastos FH, Meira C de M, et al.

J Sports Sci, 2017, 35: 572–578. 

【Introduction】

 柔道の試合は、開放的かつ複雑なスキルが含まれた、絶えず変化する環境であると見なすことができる。しかし、柔道の伝統的な練習方法において、取り(技を掛ける選手)は打ち込み動作を繰り返し、受け(相手の攻撃を受ける選手)は何も反応せずに技を受けている。また、柔道の試合で注目すべき要素に「崩し」(受けのバランスを崩すこと)がある。崩しは、技の一連の流れの中で最初に行われ、その後の「作り」(技を掛ける姿勢を作る)や「掛け」(技を掛け、受けを投げる)に続いていく。試合では崩しを行うために相手との駆け引きをする崩しの前の動作が重要となる。「大外刈り」(柔道の足技)の練習において、崩し前の動作を加えた練習や試合に近い状態の練習効果(練習の特殊性の効果)が、未だに十分に理解されていない。また、柔道の技は部分(崩し、作り、掛けなど)に分けて学習すべきかといった問題がある。[目的] 崩しに着目した大外刈りの学習に対する練習方法の違いが運動学習効果に与える影響について検討すること、練習の特殊性と全体練習・部分練習の効果を明らかにすることを目的とした。[仮説] 崩し前の動作を加えた大外刈りは連続した技であり、各要素が前の要素に依存しているため、全体練習での練習が優れている。また、従来の伝統的練習方法と比較して全体練習でより崩しの学習効果が高い。

【Method】

 [対象・課題]柔道経験がない64名の子供(平均9.19 ± 1.41 歳、男性29 名・女性35 名)を対象とした。被験者を静的伝統練習群(STP群)と動的伝統練習群(MTP群)に17名ずつ、全体練習群(WPP群)と部分練習群(PPP群)に15名ずつの計4群に割り付けた。課題は崩しに着目した大外刈りを学習課題とした。 [実験手順]本実験では、練習前テストを実施した後に練習を行った。また、練習終了直後に練習後テスト、練習終了翌日に保持テストを実施した。各テストの様子をビデオカメラで撮影した。練習前テストの前に検者が一度大外刈りを実演し、その後被験者に3試行を実施させた。練習は各群で10試行を1セッションとした合計4セッション実施させた。STP群には、受けは動かず、取りが崩しから掛けまでを、MTP群には、受けはすり足を行い、取りが動いている受けに対して崩しから掛けまでを、WPP群には、崩し前の動作から掛けまでを通して反復させた。PPP群には、崩し前の動作から掛けを部分に分け、それらを漸進的に実施させた。各群に対してセッションごとに言語教示を与え、大外刈りを実演した。練習後テストと保持テストは、練習前テストと同様の手順で3試行を実施させた。 [パフォーマンス評価]先行研究で使用されたチェックリスト(Gomesら,2002;2010)を用いて、取りの崩しと作りのパフォーマンスを点数化した。評価は柔道家(黒帯2段)が録画された映像を元に行った。[統計解析]群間の比較にKruskal-Wallis検定を用いて、事後検定にMann-Whitney U検定を行った。群内における分散分析にFriedman 検定を用いて、事後検定にWilcoxon順位和検定を行った。

【Result】

 群間分析の結果、STP群とMTP群、WPP群との間に有意差を認めなかった。また、WPP群とPPP群を比較した結果、有意差を認めなかった。一方、群内分析における実際の崩しのパフォーマンスの結果、STP群を除く3群で練習前テストと保持テストに有意差を認め、保持テストで有意に高値を示した。

【Discussion】

 本実験の結果、伝統的な練習方法では、崩しに関連する動作パターン(例:柔道衣の袖を引っ張るなど)を学習できても、実際に崩しの技術は学ぶことができないという先行研究の結果を支持するものだった。また、崩し前の動作を含む練習は技術の習得を妨げずに実践場面に向けたより効果的な学習ができる可能性があると示唆された。さらにWPP群とPPP群の結果から、大外刈りに崩し前の動作を加えた全体練習は、子どもの情報処理能力に影響を与えるだけの負荷にならなかったことが示唆された。

 

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【Critical Reading】

 本実験は、言語教示が統一されていない点や評価方法の記載が不十分な点など方法が統制されていない点を問題と感じる。一方で、本実験は実践課題に全体法と部分法の練習を取り入れた数少ない実験である。また、本論文を抄読し、全体法と部分法の研究でこれまで行われてきた実験心理課題による研究と本実験のような実践課題を用いた研究との中間の研究が欠落していることを再認識することができた。

担当者名:嶋田剛義

 


 Part and whole perceptual-motor practice of a polyrhythm

(ポリリズムの部分と全体の知覚運動練習)

Sarah Kurtz, Timothy D. Lee

Neuroscience Letters 338 (2003) 205-208

【Introduction】 

 メトロノームと上肢の空間的・時間的運動を協調させる際、メトロノームとの関係が複雑になる(ポリリズム)ほど演奏は難しくなる。ポリリズムのパフォーマンスは、聴覚刺激の知覚や練習方法によっても影響を受けると報告されている。先行研究によると、部分練習は片手演奏の学習には効果的であるが、両手で協調的にポリリズムを演奏する際の課題の全体から部分への転移効果はほとんどないとされている。ポリリズムを学習する際の問題として部分練習を行う際の知覚情報の寄与がある。この問題を説明するものに、イベントコーディング理論が挙げられており、部分練習の非効率性に知覚が寄与していること示す根拠とされている。この理論によると、部分練習はコードに表現される知覚情報が減少するため、ポリリズムの学習には適していないと考えられる。[目的]ポリリズム課題を使用し、両手のメトロノーム聴覚刺激(情報)を与えることによる部分練習の転移効果を明らかにすることとした。

【Method】 

 [対象者] 36名のボランティア(22~28歳、全員右利き)を12人ずつ3群(部分練習群、全体練習群、部分/全体練習群)に無作為に割り付けた。[実験課題]1周期(1800ms)のうち、左手2拍(タップ間距離900ms)、右手3拍(タップ間距離600ms)タップする両手でのポリリズム課題(2:3ポリリズム)とした。[実験デザイン]本実験課題は2日間で3段階に分けて行った(段階1は1日目、段階2・3は2日目)。段階1では各群の練習を実施させた。部分練習群のうち半数の参加者には、左手で20試行実施させた後、右手で20試行実施させた。残りの半数には、逆の順序で実施させた。全体練習群には、両方のタップに対するメトロノーム音を聞きながら両手でのタップを20試行実施させた。部分/全体練習群には、両方の音を聞きながら片手ずつ20試行実施させた。段階2では段階1と同じ練習方法で5試行ずつ実施させた。段階3では、3種類の転移テストをそれぞれ3試行実施させた。テストは、両手でのポリリズム課題と左手のみのタップ課題、右手のみのタップ課題の3つとした。[実験環境]被験者は、テーブルの上に固定された指先サイズのマイクロスイッチをタップした。[データ解析・統計解析]メトロノームの音とタップ情報を分析対象とし、パフォーマンスの指標はタップ間の持続時間の標準偏差とインターバル時間比とした。インターバル時間比は左手に対する右手の比率とし、ミスなくタップできた場合の比率は1.5であった(左手/右手=1.5)。統計解析には、二元配置分散分析を用いた。事後検定にTukeyの検定を用いて多重比較を行った。

【Results】

 タップ間の持続時間の標準偏差において、片手課題では群間に有意な差は認められず、ポリリズム課題では、全体練習群が他の2群よりも有意に小さかった。インターバル時間の比率において、片手課題では群間に有意な差は認められず、ポリリズム課題では、全体練習群と部分/全体練習群で部分練習群よりも有意に優れており、1.5に近い値を示した。

【Discussion】 

 部分練習群のインターバル時間の比率を詳しく見るとポリリズムではなく、単純なリズムを実施する傾向にあった。この結果は、先行研究と同様の傾向を示した。しかし、部分練習群がメトロノーム聴覚刺激を知覚的に認識できていなかったのか、あるいは認識した上で実行できていなかったのかは今回のデータでは不明であり、今後検討が必要といえる。また、部分/全体練習群の結果をイベントコーディング理論の観点から見ると、運動要素の部分練習をポリリズムの聴覚刺激(メトロノームのみ両手)により補うことで、一部の転移を促進させた可能性があり、さらにこのポリリズムの聴覚的コードによって、本実験課題のリズムでのパフォーマンスを促進することができたと考えられる。一方、部分練習群における各タップ間隔が長くなっていたことについては、部分練習群で学習したコードでは、ポリリズム構造の一部の学習にとどまり、両手による一連のポリリズムを学習するには不十分だったことが示唆された。 

 

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【Critical Reading】

 本研究の実験方法に関して、練習前テストが設定されていないため、結果が学習によるものかどうかについては判断する上で注意が必要である。しかし、本実験の知覚情報が運動パフォーマンスに影響を与えるという結果は、今後の研究を進める際に実験環境を統制する上では参考になる視点である。

 

担当者名:嶋田剛義


Measurement of Scapular Asymmetry and Assessment of Shoulder Dysfunction Using the Lateral Scapular Slide Test : A Reliability and Validity Study

知的障害のある労働者を対象とした部分法と全体法の比較

 Nettelbeck T, Kirby NH

Journal of Occupational Psychology, 1976, 49: 115–120.

【Introduction】 

 部分法と全体法の相対的な優位性についていくつか議論されているが、知的障害者を対象とした研究では部分法による有効性が多く報告されている。また、実験室でのデータにおいて漸増的部分法(最初に課題を部分に分けて練習した後、徐々に大きな要素に結合させて練習する方法)は、純部分法に優る有効性は示されていない。一方、単純な実験室の課題よりも複雑な産業環境において、漸増的部分法の練習で、課題を構成する要素間での転移効果が示されている(Salvendyら,1973)。さらに、彼らは漸増的部分法による練習の利点として、学習者が課題の構成要素を結合させる際に重要な部分に注意を向けることに役立つことを挙げている。[目的]軽度の知的障害を有する若年女性を対象とした、全体法、純部分法および漸増的部分法の学習効果を比較することであった。[仮説]実験課題は工業用ミシンに糸をセットすることであり、産業界で用いられる実用的な課題であるため、漸増的部分法が最も学習の効率が良いであろうと仮説を立てた。

【Method】 

 [対象者]女性30名(平均22歳:17歳〜33歳)で、ウェクスラー成人知能スコア48〜83点(平均67±9点)であった。[実験環境および手順]10名ずつ3群(練習方法)に割り付けた。3群はIQと年齢の平均値が概ね一致していた。実験課題は、工業用ミシンに糸をセットすることとした。糸をセットするために必要な12ステップを組み合わせ、4つの独立した構成要素A、B、C、Dを設定した。本実験課題においては、試行を4回連続でミスなく遂行できた場合に運動学習効果として認められた。各群の練習方法について、純部分法群には、A、B、C、Dを個別に練習させた後、最後に課題全部をまとめて実施させた。漸増的部分法群には、A、Bの個別練習、A、Bを組み合わせた要素の練習、Cの個別練習、ABCをまとめた練習、Dの個別練習、の順に行わせ、最後に課題全体をまとめて実施させた。全体法群には課題全体の最初から最後までを反復して練習させた。練習前に検者が課題を1回実演した後、検者の指導のもとで被験者が課題を1回実施した。練習中にエラーが生じた場合は、試行後にフィードバックを与え、正しい手順をもう一度指導した。パラメータとして各試行の所要時間と、エラー数の合計を記録した。練習終了から1ヶ月後に対象者30人中29人が事前の指導なしで全課題のテストを受けた。練習と同様にエラーが生じた試行後に指導が行われた。

【Results】

 練習初期において、全体法群よりも部分法群でエラー数が有意に少なく、さらに所要時間も有意に短かった。漸増的部分法群と純部分法群を比較すると、エラー数と所要時間に有意な差は認められず、1ヶ月後のテストにおいても群間に有意な差は認められなかった。

【Discussion】 

 本実験では、対象を軽度の知的障害を有する者とし、比較的独立した要素に分割できる作業課題において、全体法よりも部分法による練習が相対的に有利であることが示唆された。しかし、純部分法と漸増的部分法の間に有意な差は認められなかった。漸増的部分法の特徴として、純部分法よりも指導者に多くの時間と注意が要求されると言われており、また、課題が組立作業や製造課題の場合には多くの練習教材を必要となる。この特徴について、Toye (1969)は、理論的な観点では必ずしも漸増的部分法が効果的な練習方法と言えないが、仕事などの日々変化する状況に耐えうる応用的な練習方法として重要であると強調している。また、様々な要素の統合が求められる複雑な課題や、他の練習方法での学習が困難である特定の個人に対しては、漸増的部分法による練習が効果的である可能性が示唆された。

 

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【Critical Reading】

 本実験の方法に関して、練習の試行回数が統制されていないことや具体的な実験デザインの未記載などの不明点が多い。したがって、実験結果は慎重に解釈する必要がある。一方で、全体法・部分法の基礎研究において機能障害を有する者を対象とした実験は少ないため、貴重な知見である。

 

担当者名:嶋田剛義


Changes in Practice Schedule and Functional Task Difficulty: a Study Using the Probe Reaction Time Technique 

(練習スケジュールと機能的課題難易度の変化:プローブ反応時間法を用いた研究)

Kazunori Akizuki, YuKari Ohashi

J. Phys. Ther. Sci. , 2013;25: 827–831

【Introduction】

 ブロック練習よりランダム練習の方が運動学習に優れていると報告されている(文脈干渉効果)。一方で、複雑な課題を用いた先行研究では、課題難易度と学習者の技能レベルに依存すると言われている。その説明として、Challenge point frameが提案されており、課題難易度を名目的課題難易度(課題固有)と機能的課題難易度(課題と技能レベルと練習条件に関連)に分類している。また、この提案によれば、課題の情報量と学習者の情報処理能が一致した時(最適点に近づいた時)に最も効率的に学習効果が得られるとしている。また、二重課題は注意容量の測定に多く使用されており、プローブ反応時間(以下:PRT)により一次課題への注意要求を評価することができる。よって本研究の目的はPRTを用いた二重課題で機能的課題難易度を測定することで、練習方法が機能的課題難易度に与える影響を明らかにすることであった。

【Method】

[Subject]男子学生14名(平均年齢21.5±1.1歳)とした。[Procedure]実験課題は、2つの課題で構成され、一次課題は歩行課題であり被験者は棘果長の60%、80%、100%の3つの歩幅条件に合わせて歩くものとした。歩行はトレッドミル上にて快適歩行速度で実施させた。被験者には踵に圧センサを装着した実験用靴を履かせた。1試行は25秒とし開始時と終了時に合図を与えた。被験者には課題中、真っ直ぐ前を見て行うように指示した。二次課題はPRT課題であり、音(50ms)を聞き、できるだけ早く「パ」と言って反応する課題だった。音は異なる間隔で5回提示された。

実験デザインは、被験者をブロック群とランダム群の2群に7名ずつ分けた。実験は 3段階(プレテスト、練習、ポストテスト)で4日間実施した。プレテストでは一次課題のみ実施し、結果の知識(以下:KR)を提供せず15試行(3種類の歩幅×5試行)実施させた。練習では二重課題を30試行実施させた。ブロック群には1種類の歩幅を10試行連続して実施させた。ランダム群には3種類の歩幅を10試行中にランダムで実施させた。PRT課題の音刺激は試行中に5回ランダムに提示された。各試行終了後に被験者に口頭で歩幅誤差に関するKRを与えた。10秒後、次の試行を開始した。ポストテストはプレテストと同じ条件で2~4日目に実施された。ポストテスト終了後、3分間の休息をとり、次の練習に移った。[Data analysis]パラメータは歩幅誤差とPRT延長率であった。歩幅 (cm)はトレッドミル速度(cm/msec)にステップ時間(msec)を乗じて算出した。ステップ時間は、一方のセンサの踵接地検出から他方の検出までの時間とした。歩幅誤差は提示された歩幅から実際の歩幅を引いた絶対値を棘果長で割った値とした。PRT延長率は歩幅提示時のPRTを歩幅の提示しない通常歩幅のPRTで割ったものとした。 [Statistical analysis] 統計解析には反復測定分散分析が用いられ、従属変数を歩幅誤差およびPRT延長率、独立変数を練習条件と測定日とした。有意水準はα=0.05とした。

【Results】

練習段階の歩幅誤差では、主効果および交互作用を認め、ブロック群で有意に誤差が少なかった。テスト段階の歩幅誤差においても主効果および交互作用を認めた。プレテストでは両群に有意差は認められなかったが、ポストテストではランダム群で有意に誤差が少なかった。練習段階のPRT延長率は主効果および交互作用を認め、1日目は両群に有意差を認めず、2日目以降はブロック群で有意に低値を示した。

【Discussion】

 本研究の結果、練習方法に関する先行研究と一致し、文脈干渉効果を支持するものだった。この結果は忘却再構成仮説と分散仮説により説明ができる。重要なのは、どちらの仮説もランダム練習による認知的負荷の増加が練習中のパフォーマンスを低下させるが運動学習を促すことである。本研究では文脈干渉効果により機能的課題難易度が変化したことが示唆され、ランダム練習で学習効果が高かったことから、機能的課題難易度が増加し最適点に近づいたと考えられる。よって、単純課題はランダム練習を、複雑な課題はブロック練習を行うことで機能的課題難度を最適点へ近づける可能性があると示唆される。

 

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【Critical Reading】

本研究の機能的課題難易度の最適点に関して、最適点に近づいたかの判断については、結果からみた解釈であるため、実際に近づいたかの判断は不明な点である。また歩幅誤差の結果から、3日目以降では練習、テストともに約1%の誤差であり、これを運動学習効果の差と判断するには注意が必要と考える。

 

担当者名:嶋田 剛義


Children’s age modulates the effect of part and whole practice in motor learning

(子どもの年齢が運動学習における部分練習と全体練習の効果に変化を与える)

John S.Y.Chan, Yuejia Luo, Jin H.Yan, Liuyang Cai, Kaiping Peng

Human Movement Science.2015;42;261-272

【Introduction】

 技能習得のための練習方法の研究は、発達と教育学的に重要な意味を持つ。健常成人大学生を対象としたジャグリング課題では、部分練習(以下:PP)よりも全体練習(以下:WP)の方が優れた練習方法として報告された。子供たちの認知能力や運動能力は通常、大人よりも低い。したがって、子どもの技能習得のための最良の練習方法が健常成人と同様であるかは疑問が残る。[目的] ジャグリング課題を用いて、異なる年齢の子どもにおけるWPとPPの学習効果を明らかにすることとした。[仮設] 低学年の子どもの情報処理能力の限界により、同じ運動技能の学習において高学年の子どもよりも大きな認知負荷を受ける可能性がある。そのため低学年の子どもはPPの方が、高学年の子どもはWPがより学習効果が高い。

【Method】

 [対象]小学1年生、3年生、5年生の合計106人の子供たちを対象とした。ジャグリングの課題では白いビーンバック(4×4×4×4cm、約50g)が使用された。[実験デザイン]1日目に3つのビーンバックジャグリングのベースライン評価を10試行実施した。2日目〜7日目にかけては練習期間が設定された。練習は1ブロック10試行を計4ブロック実施した。8日目には、保持テストは3つのビーンバックジャグリングを10試行実施した。さらに、転移テストは、3つのビーンバックを逆方向に投げる課題を10試行実施した。各テスト、練習ともに10試行ごとに、ビーンバックを落とすまでの連続キャッチ回数を記録した。また、ビーンバックを落とした時点でその試行を終了とした。[練習方法] PPでは、2日目と3日目に1つのビーンバックで、4日目と5日目に2つのビーンバックで、6日目と7日目3つのビーンバックでジャグリングが行われた。WPでは2日目から7日目にかけて3つのビーンバックでジャグリングの練習が行われた。[パラメータ・解析手法] 各試行の平均キャッチ数を解析パラメータとして使用した。ベースラインの両群の比較については二元配置分散分析(従属変数:学年レベル×練習方法)を行った。ベースラインと保持テストの比較には混合計画における三元配置分散分析(従属変数:学年レベル×練習方法×時間)用いて実施した。また、転移テストについて二元配置分散分析(従属変数:学年レベル×練習方法)を行った。事後検定には、ボンフェローニ法による多重比較を実施した。

【Results】

ベースラインと保持テストを比較した結果、1年生と3年生はPPのみで、5年生はPPとWP両群で学習効果がみられた。転移テストにおいて、1年生では両群に差がなかった。5年生ではWPがPPよりも優れていたのに対し、3年生はPPがWPよりも優れたパフォーマンスを示した。

【Discussion】

 本実験の結果から、学年の異なる子どもでは、WPとPPの運動学習効果に差がみられ、仮説を支持する結果となった。これは、神経の成熟度、情報処理能力、運動協調性の発達の違いに起因する可能性があることが示唆された。また、技能特性に加えて、学習者の成熟度も、練習方法を選択する上で重要であるというNaylorとBriggsの仮説を補足するものとなった。今後の研究では、ジャグリング以外の運動技能を用いて、全体法・部分法の研究を検討する必要がある。

 

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【Critical Reading】

 全体法・部分法の研究では、健常成人を対象とした研究報告が多いなか、子供を対象とした数少ない研究の一つである。しかし、本実験では課題の設定上、落下した時点で試行終了となるため練習量は個人でばらついた可能性がある。また、結果から読み取れるように3つのビーンバックジャグリングでは各テストや練習をみても5回以上連続キャッチした被験者はいなかった。このことから、本実験の結果を練習による学習効果として判断するには注意が必要である。加えて、今後、子供を対象とした実験を行う際には課題難易度の設定について検討する必要がある。

 

担当:嶋田剛義


EFFECT OF WHOLE VS PART METHOD OF TRAINING ON TRANSFER LEARNING

(全体法と部分法の練習方法による転移効果について)

JOSEPH F. MURRAY.

Perceptual and Motor Skills,1981,53,883-889.

DOI:10.2466/pms.1981.53.3.883

【Introduction】

 1980年代、全体法と部分法の違いによる転移への影響に関する研究が注目されてきた。転移は大きく2つに分類されており、1つは課題間転移で、ある課題から別の課題への転移を指す。もう1つは課題内転移で、課題の一部から課題全体への転移を指す。全体法・部分法の選択方法は依然として曖昧なままであるが、いくつかの先行研究は、課題の複雑性と課題の種類による分類が選択方法を判別する上で有益であることが報告されている。複雑性から選択をする場合、単純な技能には全体法が、複雑な技能には部分法が適していることが示されている。一方、動作の種類から選択する場合系列課題と連続課題では部分法が、分離課題では全体法が優れていることを示唆している。本研究は実際の指導環境下で行われている転移に対する全体法と部分法の効果を検証することを目的としている。具体的には、柔道の受け身指導における全体法および部分法による練習が、総合的な柔道技術、知識、受け身、競技能力への転移に及ぼす影響を検証することである。

【Method】

[被験者]若年男性120名(柔道初心者)を2つのグループ(60名ずつ)に分けた。[課題]柔道の受け身とその他柔道技術の練習を行い、試合に応用することとした。[練習方法]グループ1(部分法):受け身は、座位、しゃがみ位、立位の順に行い、3つの体勢から後方、右側、左側への受け身が続いた。その後、前回り受け身に移行した。また、投げ技などに関してもいくつかの要素に分割して練習した。グループ2(全体法):受け身や投げを分割することなく練習した。実際に各投げ技を行う中での一部分として受け身の練習が実施された。[デザイン]16週間で練習とテストを行った。各クラス同じ指導者の下で1日45分、週2日練習した。テストは16週目に行い1日目に10種類の投げと10種類の受け身のテスト、2日目に競技能力(乱取り)のテスト、3日目に筆記試験を実施した。筆記試験以外の評価は2名のプロ柔道指導者の主観的評価で行った。[統計解析]ネスト型デザインによる多変量分散分析と単変量解析F.検定による統計解析を行った。

【Result】

 多変量分散分析の結果、グループの主効果のみ認められた。F.検定による事後検定の結果、受け身と競技能力に関してグループ間で有意な差を認め、グループ1(部分法)は受け身において有意に優れていた。グループ2(全体法)については競技能力において有意に優れていた。総合的技術と知識に関してグループ間に有意差は認められなかった。

【Discussion】

 今回の結果を解釈する上で、柔道の受け身が分離課題、系列課題、連続課題のどれに分類されるかが重要となる。受け身を系列課題と考えるならば、受け身という技能全体が連続的に行われる部分を含んでいることから、部分法が系列課題への転移に優れていることが示唆される。しかし、完全に学習した後の受け身技術を分離的課題と考えれば、全体法の方が分離課題への転移に優れていることが示唆される。

また、今回の結果は、グループ1(部分法)では受け身の評価で(単純な部分から複雑な全体へ)、グループ2(全体法)では競技能力の評価で(全体法からより複雑なコンテストへ)有意な転移効果がみられた。このことから単純なものから複雑なものへの順番で教えた時に優れた転移効果があると考えられる。

 

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【Critical Reading】

 本論文は実践場面での全体法と部分法の数少ない研究であり、実践レベルまで評価が行われている。全体法・部分法を理学療法場面に応用することを考えると、本論文のような実践場面で行われる全体法・部分法の研究は今後も積み重ねていく必要があると感じた。一方でこの実験では、練習回数の規定がなく、投げ技の練習に関しての説明も不十分であったことやプロ柔道指導者の主観的評価の基準も不明瞭であったことから、今回の結果を全体法・部分法の転移効果として判断するのには注意が必要である。

 

担当:嶋田剛義


Part and Whole Practice for a Tracking Task: Effects of Task Variables and Amount of Practice

(全体法と部分法の練習課題について:課題の変数と練習量の効果)

R.B.STAMMERS

Perceptual and Motor Skills, 1980,50,203-210.

PMID: 7367171 DOI: 10.2466/pms.1980.50.1.203

【Introduction】

  Naylorの仮説は部分法と全体法の学習について、課題の複雑性と組織化の2つの要素に沿って分類することができると述べた。Naylor &Briggsの仮説は(a)高い組織化の課題では、複雑性が増すにつれて全体法が部分法より効率的である。(b)比較的低い組織化の課題では、課題の複雑性が増すにつれて部分法が全体法よりも優れている(Naylor & Briggs, 1963)としている。また、被験者は練習中、課題における組織化の要素と複雑性の要素のいずれにも重要視しなければならないと述べている。実際の課題においては、高い複雑性と高い組織化の両方が存在する課題が存在しうる可能性があり、その場合には必ずしも全体法が効率的とは限らない。

 [仮説]複雑性と組織化の重要性は学習の過程で変化する可能性があり、学習の初期段階では、複雑性が優先的に重要となり、組織化の要素を学習する前に複雑性の要素を部分法で練習したほうが良いのではないか。(本研究は上記仮説の検証を目的としている。)

【Method】

 [課題と実験装置]本研究では、ジョイスティックとブラウン管(以下CRT)ディスプレイを使った2次元追跡が行われた。CRT上のX軸とY軸の位置を交互に変え、1秒ごとにターゲット位置が変わるもので、複数のターゲットの時分割で構成されているため高組織化の課題と考えた。全体法は2軸で実施し部分法では、1軸ごとに分けて実施した。複雑性はジョイスティックの動きとCRT上を移動する点との関係から2パターン構成され、低複雑性はジョイスティックとCRT上の点に移動する方向が一致していたのに対し、高複雑性は、ジョイスティックの動きとCRT上の点の動きが不一致なものであった。[対象と実験デザイン]12人の被験者が6つの群に分けられた。はじめに1つの全体法群と2つの部分法群に分けられた。部分法群の1つは、2ブロックの部分法(2practice以下2p)の練習後に全体法に移行した純部分法とし、全体法と比較した(part2p vs W)。2つ目は、4ブロックの部分法(4practice以下4p)を練習後、全体法に移行する群とした(part4p vs W)。さらに、これらの3群を高複雑性群と低複雑性群の2レベルに分けた。[実験手順]画面上で「準備完了」が点滅した2秒後に40秒間の追跡(40ターゲット)が開始され、その最後に「試行終了」が点滅した。8秒後に被験者の「スコア」が表示され、さらに7秒後に次の試行が開始された。課題は合計で6ブロック実施した。1ブロック10試行とし試行間に1分間の休憩を設けた。各ブロックの最後には、10回目の試行の平均「スコア」が入力された。また、ブロック間で10分間の休憩が与えた。[データ解析]スコアは被験者のジョイスティックの変位(2つのポテンショメータの動き)をA/D変換器を介してサンプリングしたもので、XとYの位置は50Hzでサンプリングされた。解析のパラメータは、被験者の平均誤差であり、デジタル二乗平均平方根(以下:DRMS)で表された。単位はmmとした。また、2(part2p vs W)×4(4ブロック)×2(高・低複雑性)デザインと2(part4p vs W)×2(2ブロック)×2(高・低複雑性)デザインで多元配置分散分析を行った。

【Result】

 複雑性のレベル間、ブロック間には有意差を認めたが、練習方法の違いでは有意差は認められなかった。しかし、実験の後半におけるpart4pと全体法を比較した場合、練習方法、複雑性およびブロックにおいて主効果を認め、全体法による有益な学習効果を認めた。また、複雑性のレベルとブロックの間には有意な交互作用があった。

【Discussion】

 本研究の課題においては、有意な差は認められなかったものの、部分法よりも全体法の方がパフォーマンスを改善させる傾向にあった。しかし、部分法から全体法へ切り替えるタイミングの違いによって学習効果が異なったことから、部分から全体への切り替えのタイミングに大きく依存している可能性がある。このことは、複雑性と組織化の相対的な重要性が学習の過程で変化する可能性があるという仮説を支持した。part4pと全体法を比較した結果から、高複雑性かつ高組織化の課題においては、全体法で練習する前に、部分法で長時間の練習をすることが、最良のアプローチとは言えない可能性があることが示唆された。この問題についての更なる研究の必要がある。

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【Critical Thinking】

 この研究は、部分法から全体法へ切り替えるタイミングに着目した数少ないデータの一つであり、リハビリテーション場面で治療を展開していく上で重要な視点であると考えられる。結果から、部分から全体への切り替えのタイミングへの依存性を論じているが、part2pとpart4pの比較が行えていないため、その効果は定かではない。また、課題の複雑性や組織化の程度に関する定義については定量化できていない点も課題である。なお、この研究は1980年のものであり、保持テストがない。加えてプレテストも不足している。よって学習効果として捉えるには注意が必要である。

 

担当:嶋田剛義


Breaking It Down Is Better:Haptic Decomposition of Complex Movements Aids in Robot-Assisted Motor Learning

(複雑な動きを分解し行うことは効果的がある:ロボットアシスト運動学習における複雑な動きを補助する触覚的分解)

Julius Klein Steven J. Spencer, David J. Reinkensmeyer 

Trans Neural Syst Rehabil Eng. 2012 May;20(3): 268–275.

doi:10.1109/TNSRE.2012.2195202.

【Introduction】 

 近年、トレーニング用ロボットの開発が進み、触覚的デモンストレーションによる複雑な腕の動きのアシストをすることが可能になった。しかし、装置からの触覚入力によって複雑な四肢の動きの最適な訓練方法は十分に理解されていないのが現状である。トレーニング用ロボットを使用した運動学習について、Kahnらは装置による触覚的ガイダンスで学習効果が低下したと報告しているが、一方Feyginらは有益であったと報告している。また、リハビリテーション場面では、時に触覚的ガイダンスを使用して、複雑な動きを構成要素に分解し、学習する戦略が取られる。これを運動学習分野では「部分から全体への転移」としている。しかし、この複雑な動きに対する「部分から全体への転移」の研究も曖昧なものが多い。本実験の目的は、ロボットによる触覚的ガイダンスを使用した複雑な動きを分解し学習することの効果を検証することであった。本実験は、運動自由度(DOF)を少なくした練習(部分法)の方が、運動全体(全体法)を練習するよりも効果的に学習できるとした。さらに、運動全体を個々の関節運動に分ける際、その分け方が学習効果に影響を与えると仮定した。

【Methods】

 【Task】被験者は、自由度4のアーム装置を使用したメインモーション(θ)と呼ばれる複雑な上肢運動を学習課題とした。θは、肩関節外転-内転(θ1)、屈曲-伸展(θ2)、内旋-外旋(θ3)、肘関節の屈曲-伸展(θ4)で構成される協調運動であった。θはテニスのバックハンドに類似した運動であり、転移課題として設定されたθ’の課題は水泳のクロールに類似した運動であった。 【Participants】参加者(40名)は、4つのトレーニング群《1.全体法群、2.Eulerトレーニング群(Euler群)、3.解剖学的トレーニング群(解剖学群)、4.ビジュアルトレーニング群(ビジュアル群)》のいずれかにランダムに割り当てられた(各群10名)。 【Procedure】 全体法群はθをはじめから終わりまで通して練習した。オイラー群は4つの構成要素をオイラー座標により分けて練習した。解剖学群は肩関節と肘関節の動きに分けて練習した。ビジュアル群は、課題を前半(θ1,θ2)と後半(θ3,θ4)に分け、それに加えて最適な運動軌道経路を視覚的に提示した。次に実験の手順について、ベースライン、ベースライン転移段階ではアシストありで2回、アシストなしで1回を2セット行った。その後休息を設け、トレーニング段階ではθをアシストありで9回、アシストなしで1回を10セット実施した。休息後、短期保持、短期転移テストではベースライン段階と同様の手順で行い、1週間後、長期保持、長期転移テストを行った。本実験デザインにおけるアシストありの試行には、全被験者に対してフィードバックを与え、モニターに理想運動軌道と実際の運動軌道の両方が表示された。【Data Analysis】 本実験は理想運動軌道と実際の軌道との誤差をスコア化し、PH(平均軌道誤差)で表した。統計解析はグループ間の違いの比較にはMann–Whitney U検定を、各群内のスコア改善の分析にはWilcoxonの符号順位検定が用いた。

【Results】

 トレーニング開始時のPHにおいてグループ間に有意差はなかった。すべてのトレーニング群がトレーニング中にPHを大幅に改善させた。解剖学群はトレーニング中に最も改善した。短期保持テストと 1回目のベースラインテストを比較すると、解剖学群が他のグループと比較して最も改善され、有意差があった。転移課題はトレーニング後、短期保持テスト、初期の長期保持テストにおいて有意な改善を示さなかった。しかし、すべてのグループが、長期保持テストの終了時までにPHが有意に改善した。群間で有意差は見られなかった。

【Discussion】

 解剖学群で有意に効果があったことについて、複雑な動きをする上でその動きの重要となるポイントがどこにあるかを判断するのは難しいが、動きを分解することはより良い識別を可能にし、重要な問題に焦点を当てた練習を可能になることが示唆された。しかし、オイラー群の結果からも見られるように、むやみに要素を分けて行うのが良いというわけではない。人間の運動システムを理解し、運動の要素に含まれる情報を統合し、全体の動きを行うという処理過程を踏まえた上で、動きを分解する必要がある。

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【Critical Reading】

 運動学習における心理学研究の伝統的な測定方法や、全体法・部分法における研究成果のレビューが不足していると感じた。そのため実験環境について不十分な点が多く、特にフィードバックの与え方については頻度が高く、保持テスト・転移テストの結果から見て取れるようにフィードバックに依存していたと推量された。今後は、触覚への介入の運動学習効果を検証できるよう、フォードバックの統制が必要と考える。一方で、本研究では実験デザインで転移課題のベースラインテストを実施しており、その点については今後の実験の参考にしたい。

 

担当:嶋田剛義